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藤井聡太世代が昇級を決めるか?ー第82期順位戦B級1組~C級2組は最終戦ー

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 第82期順位戦B級1組~C級2組は、各クラス最終戦を残すのみです。

 B級1組、B級2組、C級1組ではそれぞれ1名ずつ昇級者が決まりましたが、全体的には混戦模様です。
 Cクラスでは、藤井聡太八冠(21)と同世代の若手棋士が昇級に近づいています。

 ここから、B級1組からC級2組に焦点を当て、現在の状況と最終戦の展望について解説していきます。

B級1組

千田翔太八段の昇級が決まり、もう1枠は表の2人に絞られている
千田翔太八段の昇級が決まり、もう1枠は表の2人に絞られている

 12回戦で勝利した千田翔太八段(29)が一戦を残してA級昇級を決めました。
 昇級争いをしているメンバーの星が伸び悩む中、一人だけ白星を重ねて抜け出しました。
 2期前(藤井八冠が昇級した期)は9勝3敗の好成績を収めながら昇級に手が届きませんでしたが、今回は同じく3敗ながら一戦を残しての昇級となりました。

 そして最終戦では、勝てば昇級の増田康宏七段(26)と、敗れると降級が決まる屋敷伸之九段(52)の対戦が大一番です。
 藤井八冠のライバルと目され、注目を浴びてきた増田七段。
 18歳6ヶ月でタイトルを獲得し、B級1組以上に17年以上在籍してきた屋敷九段。
 双方にとって、棋士人生のかかった一番です。
 今期の順位戦の中で、最も熱い一戦と言っても過言ではありません。

 増田七段が勝利すると、昇級者と降級者が全て決まります。
 (すでに木村一基九段と横山泰明七段の降級が決まっている)

 屋敷九段が勝利した場合、大橋貴洸七段(31)が勝利すると逆転での昇級が決まります(大橋七段も敗れた場合、増田七段が昇級)。
 そして残留争いは、佐藤康光九段(54)や山崎隆之八段(42)まで巻き込んだ大混戦となります。

 増田七段は、10回戦・11回戦では勝利すれば昇級が決まるところで連敗を喫しています。最終戦にかかるプレッシャーは相当のものでしょう。
 屋敷九段には数々の修羅場をくぐってきた経験があります。果たして結末は。

B級2組

大石直嗣七段の昇級が決定。残りは2枠
大石直嗣七段の昇級が決定。残りは2枠

 9回戦で勝利した大石直嗣七段(34)が昇級を決めました。2013年度には将棋大賞新人賞を獲得し、2016年度にはB級2組へ昇級しましたが、そこから長い足踏みが続いていました。しかし、今期は蓄えた力を爆発させました。

 勝利すれば昇級が決まるところだった深浦康市九段(51)は、長年戦い続けてきた丸山忠久九段(53)と死闘を繰り広げ、敗戦となりました。しかし、まだ自力(※)の権利を持っています。最終戦の相手は粘り強い振り飛車党として知られる佐々木慎七段(43)で、難敵を迎えます。

 その佐々木七段に9回戦で勝利した高見泰地七段(30)が2番手に浮上しています。自力で迎える最終戦、将来のA級を期待されている高見七段がファンの後押しを受けて昇級を目指します。

 前期昇級組の石井健太郎六段(31)と青嶋未来六段(28)は順位の関係で自力ではなく、最終戦に勝利して朗報を待つよりありません。

 残留争いでは、6人に降級点が決まり、残る枠は1つ。前期B級1組から降級した久保利明九段(48)が敗れると降級点になります。まさかの展開ですが、久保九段は踏ん張ることができるでしょうか。
 2回目の降級点で降級が決まった棋士がすでに4名おり、B級2組での残留争いは現在の将棋界における競争の激しさを物語っています。

※この場合の自力は、自分が勝てば周りの結果に関係なく昇級を得られるという意味

C級1組

服部慎一郎六段の昇級が決定。残りは2枠
服部慎一郎六段の昇級が決定。残りは2枠

 ここまで全勝の服部慎一郎六段(24)が一戦を残してB級2組への昇級を決めました。前期に続く2期連続の昇級です。
 10回戦の飯塚祐紀八段(54)との一戦は、角換わりから堅陣に組んで攻め込みましたが、攻めが強引すぎて不利に陥りました。しかしそこから角と桂を使った攻めで相手のミスを誘い、ねじ伏せる強い内容でした。
 非公式のレーティングサイトではずっと20位以内をキープしており、クラスを上げてさらなる活躍が期待されます。

 昇級を争うメンバーのほとんどが白星を重ね、引き続き伊藤匠七段(21)と古賀悠聖五段(23)が自力の権利を持っています。
 藤井八冠とタイトル戦を戦っている伊藤七段は、他の棋戦でも勝ち上がっており、対局日程が非常にタイトです。最終戦も棋王戦第3局の2日後という厳しいスケジュールの中で、過密日程という敵とも戦う必要があります。

 昇級を決めた服部六段、そして自力の伊藤七段と古賀五段は全員20代前半で、藤井世代と言える面々です。この3名がB級2組に昇級し、さらに上を目指すことで、世代交代の加速につながりそうです。

C級2組

昇級者は一人も決まっていない
昇級者は一人も決まっていない

 藤井八冠と同世代の高田明浩四段(21)と藤本渚四段(18)が星を伸ばしました。二人ともやや苦戦の将棋を逆転で制して、昇級まであと1勝としています。

 自力の権利を持つのは、この二人と冨田誠也四段(28)です。
 冨田四段と高田四段の最終戦の対戦相手は、いずれも降級点のピンチなのでいつも以上に必死に向かってくるでしょう。
 藤本四段の対戦相手である山本博志五段(27)は、三間飛車のスペシャリストで毎期好成績をあげています。対振り飛車に強さを見せる藤本四段ですが、最後まで気の抜けない戦いが続きます。

 1敗勢の3名はそれぞれ嫌な相手を残しており、2敗勢にチャンスがまわってくる可能性もあります。2敗勢は6名いますが、実質的に可能性があるのは冨田四段より順位が上の表の3名まででしょう。3名ともC級2組に在籍しているとは思えないほどの実績を残している実力者ですが、それでもなかなか昇級できないのがこのクラスの厳しさです。

スケジュール

 今後のスケジュールを記載します。3月5日(火)のC級1組を皮切りに、全クラス消化されていきます。

3月5日(火):C級1組一斉対局
3月6日(水):B級2組一斉対局
3月7日(木):B級1組一斉対局
3月12日(火):C級2組一斉対局

 特に3月5~7日は3日連続で順位戦が行われ、今期のクライマックスと言える一週間です。昇級と降級が決まっていき、ファンの方も気持ちが落ち着かない日々となるでしょう。
 最後に笑うのは誰か。各クラスの最終戦にご注目ください。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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