「コインロッカーおじさん」には何罪が成立するか
JR仙台駅のコインロッカーの中から50代の男が全裸で発見された。体育座りで背中を外側に向けており、男によれば自分で入ったという。男にはいかなる犯罪が成立するだろうか。
コインロッカーに関連する事件としては、新生児の遺体や処理に困った遺骨を放置して刑法の死体遺棄罪に問われる事案や、様々なゴミを放置して廃棄物処理法違反に問われる事案、覚せい剤やけん銃の保管・取引場所として使ってそれらの所持罪に問われる事案などが典型だ。
しかし、生きた人間が自分の意思でコインロッカーの中に入ったという事案は非常に珍しい。
まず、全裸だった点をとらえ、刑法の公然わいせつ罪(最高刑は懲役6か月)の成立が考えられる。不特定多数の人の目に触れるような場所だからだ。
しかも、男の衣類はコインロッカー近くにあったというから、入る前に既に全裸になっていたのだろう。
ただ、服を着たままコインロッカーに入ったというケースだと、公然わいせつ罪は使えない。
はじめからコインロッカーに入り込むつもりで駅にやってきたということであれば、駅建物に対する建造物侵入罪(最高刑は懲役3年)の成立もあり得るが、駅にやってきてからコインロッカーに入ろうと考えたのであればこれも無理だ。
そこで、コインロッカーの営業主の業務を妨害したという点をとらえ、刑法の威力業務妨害罪(最高刑は懲役3年)の成立が考えられる。
問題は、コインロッカーの中に入ることが「威力」、すなわち人の意思を制圧し、ひるませるに足る勢力に当たるのか、という点だ。
肯定すべきではないかと思われるが、事件の客観的な状況によっては異論も出るところだろう。
それでも、少なくとも「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」を処罰する軽犯罪法違反(最高刑は30日未満の身柄拘束)には当たるのではないか。
たちの悪いイタズラや悪ふざけと評価できるからだ。
男は低体温症の疑いで病院に搬送され、警察の事情聴取を受けているという。
ただ、酔って裸になり、寒さよけのためにコインロッカーに入って眠りこけていたところ、気づいたら朝になっていたといった話であれば、事件化されることはないはずだ。
いずれにせよ、扉を開けた第一発見者はさぞ驚き、生きた心地がしなかったことだろう。(了)