沢田研二inさいたまスーパーアリーナは「ロック第一世代」のリベンジだった【月刊レコード大賞】
東京スポーツ紙の「オジサンに贈るスージー鈴木のヒット曲講座」と連動して、最新ヒット曲の中から、毎月「レコード大賞」を決める連載ですが、今回は特別編として、ある意味「最古」のヒット曲の話をします。
6月25日(日)、さいたまスーパーアリーナで行われた沢田研二のバースデーライブ「まだまだ一生懸命」について書きます。ちなみに、この日は、沢田研二が75歳となる誕生日でした。
19000枚のチケットが完売、満員の中で行われたライブは三部構成。
第一部は、ザ・タイガースの同志、岸部一徳、森本太郎、瞳みのるをバックに、雑談を交えたリラックスした雰囲気の中、沢田研二が虎の着ぐるみ(!)をまとって歌うタイガース・ヒット曲コーナー。第二部は逆に、MCはほとんどなし、ソロ時代のヒット曲+最新曲をがんがん歌う。
しかし私が特にシビれたのは、第三部、つまりアンコールでした。ア・カペラの「河内音頭」(!)から、再度、岸部一徳、森本太郎、瞳みのるを呼び寄せ、『タイム・イズ・オン・マイ・サイド』『ドゥ・ユー・ラヴ・ミー』『サティスファクション』という、彼らがアマチュア時代から親しんだ洋楽曲のカバー。そして最後はタイガース『ラヴ・ラヴ・ラヴ』で締め。
とりわけローリング・ストーンズのカバー『サティスファクション』がよかった。その時点で、ライブ開始から約3時間経っているにもかかわらず、75歳が快活に歌い・動き・シャウトする。
さて、今回のライブは、2018年に起きた例の「さいたまスーパーアリーナ・ドタキャン騒動」の「リベンジ」として報道されました。事実、沢田研二自身も、ライブの冒頭で「おかげさまで完売いたしました!」と叫んだのですが。
しかし私は、「ロックンロール第一世代」としての沢田研二によるリベンジのように感じたのです。ローリング・ストーンズをリアルタイムで聴いて、リアルタイムでカバーした世代のリベンジ。
17歳の沢田研二が、タイガースの前身「ファニーズ」に入ったのが、1966年の元日(第三書館『10 YEARS, ROMANCE ザ・タイガース写真集』)。京都の悪ガキ5人組が好んで演奏したのが、ローリング・ストーンズでした。
ちょっと余談ですが、一般には「GS(グループサウンズ)=ビートルズ」という連想が強いのですが、実際はむしろ「GS=ローリング・ストーンズ」だったという指摘があります。近田春夫『グループサウンズ』(文春新書)より、近田と瞳みのるとの会話。
それから。ファニーズは関西出身という理由で「ザ・タイガース」に改名させられ(沢田研二「いやだよ、こんなの、てみんな言ってたね」~上掲『10 YEARS, ROMANCE』)、ロックンロールではなく歌謡曲っぽい短調の曲を強いられ、人気沸騰で忙殺される中、メンバーの人間関係もほころび、GSブームは完全に退潮、1971年にタイガースは解散。萩原健一らと次に組んだバンド「PYG」も盛り上がらず、ソロに転じて大成功、独立独歩でライブ活動を続けながら、今に至るも――。
長く沢田研二を観続けて思うのは、バンドという形態への彼のこだわりです。強いこだわりがなければ、「♪怒りに顔をひきつらせ 去っていったあいつ」(タイガースのメンバーのことか?)や、「♪野次と罵声の中で司会者に呼び戻された にがい想い出のある町」(PYGのことか?)という歌詞の『いくつかの場面』(作詞:河島英五)という曲で感極まったりはしないはずです(1975年のレコード音源や、2008年の東京ドーム『人間60年・ジュリー祭り』で、彼はこの曲を泣きながら歌っています)。
そして、沢田研二がこだわったバンド像の中核にあり続けたのが、タイガース、いやファニーズだったような気がするのです。
という沢田研二が、ファニーズ加入から57年、タイガース解散から52年経って75歳となった今、あの頃のバンド仲間と一緒に、驚くほどの大観衆を前に、『サティスファクション』をカバーするという奇跡。まさに「ロックンロール第一世代」のリベンジ、ここに完結。
「ラジオで聴いた『サティスファクション』のイントロ、あの音、どうやって出すんやろ?」
「♪ジッジージジジー、あれなぁ、アンプのボリューム目いっぱい上げるんやろか?」
京都の三条大橋を歩きながら、そんな会話をしている痩せっぽちの彼らに、「今から57年後、約2万人の前で、君ら『サティスファクション』やるんやで」って教えてあげたいと思うのです。
- Time Is On My Side/Norman Meade
- Do You Love Me/Berry Gordy Jr.
- (I Can't Get No) Satisfaction/Mick Jagger and Keith Richards
- ラヴ・ラヴ・ラヴ/作詞:安井かずみ、作曲:村井邦彦
- Jumpin' Jack Flash/Mick Jagger and Keith Richards
- Paint It, Black/Mick Jagger and Keith Richards
- いくつかの場面/作詞・作曲:河島英五