少年少女が利用する質問交流サイト「Ask.fm」で自殺事件 -バッシングで広告主撤退も
「あなたの好きな動物は何?」など、単純な質問に答える仕組みの交流サイト「Ask.fm」(アスク・エフエム)が、欧州を中心とした数カ国に住む10代の少年少女の間で、人気になっているという。
利用の手始めは、新たに名前、電子メールのアドレス、生年月日などを使って登録するか、フェイスブック、ツイッター、あるいは「VK」のアカウント(主としてロシア語圏で人気があるソーシャルメディア)を使って、プロフィールを作る。友人を誘って、質問を投げかけてもらう。ほかの利用者もさまざまな質問を投げかけることができる。フェイスブックとは違い、匿名でも利用可能だ。ウェブサイトでもモバイル機器のアプリとしても使えるようになっている。
このサービスの利用者の中で未成年者数人が、いじめを苦にして自殺したと推測される事件が相次いでいる。
今月2日、14歳のハンナ・スミスさんが、英イングランド中部レスタシャーのラターワースの自分の部屋で首をつって自殺した。
ハンナさんの父親デービッドさんは、自分のフェイスブックのページに「Ask.fmで娘が受けた虐待がどんなものかを読んだ。いじめた人たちが匿名であるのは許せないと思う」と書いた。父親はAsk.fmが娘を追い詰めたと信じているという(ガーディアン紙、7日付記事)。
ラトビアの首都リガに本拠地を置くAsk.fmは、2010年6月にサイト運営を開始した。
フェイスブックやインスタグラムのプロフィールにAsk.fmのプロフィールを入れている利用者も多く、なるべく数多くの人に質問をしてもらうことを目指して、使っているようだ。答えは写真や動画の形でも可能で、ツイッターやフェイスブックのタイムラインのように、自分のプロフィール欄の下に、質問と自分の答えが時系列に並んでゆく。
CNETが今年6月、サイトの創業者マーク・テレビン氏とイルジャ・テレビン氏に取材したところによれば、4月、サイトは130億のページビューを記録。ユニークビジター数は1億8000万人だったという。毎日、新しい利用者が20万人増えている。
現在、150カ国で利用できるようになっており、特に利用者が多いのが米国、英国、ブラジル、ロシア、ドイツ、フランス、トルコ、ポーランド、イタリアだ。(ちなみに、日本語でも利用できる。)
利用者の半分が18歳以下だという。少年少女にしてみれば、大人がいない空間で、他愛ないことをおしゃべりできる点が魅力のようだ。
質問によっては、いじめが発生することもある。例えば、ガーディアンの記事によれば、ハンナさんのプロフィールには「牛」、「太ったカタツムリ」、「見醜い馬鹿」などの言葉が書き込まれていた。
昨年秋には、アイルランドに住む13歳と14歳の少女たちが、サイトで匿名の利用者からきつい言葉を浴びせられ、自殺した、とガーディアン紙は伝える。
4月には、イングランド北部ランカシャー州の15歳のジョッシュ・アンワース君が庭で首吊り自殺をした。生前、Ask.fmで「お前はまったく気が狂ってるな」、「悪いことが起きて当然だな」などの文句を何ヶ月にわたり、書かれていた。
1月には16歳の利用者アントニー・スタッブ君が自殺し、スタッブ君のガールフレンドやいとこも「ひどい」言葉を残されたという。
アイルランド政府はラトビアに対し、このサイトと自殺との関係について調査を依頼しており、米メリーランド州の法務長官がサイトの広告主に対し、広告をひきあげるよう、呼びかけている。
Ask.fmではこれまで、サイトのマイナス面は「社会の欠点を映し出していることを意味する」と説明してきた。昨年、自分のサイトのプロフィールの中で、創業者マーク・テレビン氏は、「問題の根本を考えるべきだ。Ask.fmは単にツールに過ぎない。電話と同じだ。ツールを責めても始まらない」。
テレビン氏はまた、あるサイトのインタビューの中で、自動アルゴリズムと手作業によってポルノ的表現、言葉による虐待などをチェックし、その都度削除するか、利用者をブロックしている、と述べている。
しかし、「1日に3000万の質問と3000万の答えがあり」、検証が大変であることも指摘した。
自殺したハンナ・スミスさんの父親デービッドさんが複数の英国のメディアによる取材に応じたことで、Ask.fm事件はここ2日ほど、大きなニュースとして紹介されている。
デイリー・ミラー紙(8日付)の報道によると、娘のハンナさんが首をつった姿を発見したのは姉で16歳のジョアンさん。父のデービッドさんはトラックの運転中だった。
「ハンナは死んだと言って、ジョアンが電話を切ってしまった。こちらからかけ直して何が起きているかを知ろうと思った。それから兄弟に電話して、兄弟が事情を探ってくれた。ハンナが首をつったと言われて、『死んだのか』聞くと『そうだ』と言われ、泣き崩れた。すぐにトラックを家に向けて走らせた」。
父親はAsk.fmが殺人罪に問われるべきではないかと考えている。「こんなサイトはいらない。(なくさないのなら)規制されるべきだ」。
妹同様にAsk.fmを利用していたジョアンさんのプロフィールにも悪質な質問が出され、ハンナさんに捧げられたフェイスブックのページにも同様のコメントが送られたという。
BBCの報道(8日付)によれば、いくつかの大手広告主がサイトへの広告出稿を取りやめる事態が発生している。取りやめを決定したのは、大衆紙サン、エネルギー会社のEDF,通信会社BT、メガネ販売のスペックセーバーなど。
Ask.fm社は公開書簡を8日公開し、「今週ツイッターが発表したような、ツイート内で悪質なつぶやきを報告するような機能を昨年から採用している」と述べている。「これによって、懸念がある人は何でも報告できる。もし10代の利用者の親が懸念がある内容を見つけたら、このボタンを押して、モデレーターに教えて欲しい」。
「当社のサイトの利点の1つは、すべてがオープンであることだ」、「問題があるコメントを見つけたら、誰もが報告できる」。
今週早々には、Ask.fm社はハンナさんの死を「悲劇」と呼び、警察の捜査に「喜んで協力する」と述べている。
ー安全のためのヒント、利用規約は?
一体どんなことが起きているのか、Ask.fmのサイトの規約を読んでみた。日本語になる部分があったので、以下はサイトからの引用である。
安全のためのヒント
Ask.fmのコミュニティのメンバーになることで、 利用規約に従うことになります。 安全のためのヒントはAsk.fmを賢く、責任を持って利用するための基本的な指針です。
一般的な安全
インターネットに接続中は、いくつかの重要な安全対策を忘れないでください:
共有する内容に注意する。自分のページで電話番号、メールアドレス、自宅の住所などの個人情報を決して共有しないでください。 利用規約, に違反しているユーザーをブロックして、報告してください。 ターゲットにされている場合は大人に相談してください。不適切な質問には返信しないでください。
プライバシー
プライバシー設定 で匿名の質問をオフにできます。こうすると匿名のユーザーは質問できなくなり、受信箱で受信する内容をより安全に管理できます。 Ask.fmやウェブでは誰もがあなたのプロフィールやコンテンツを閲覧できます。投稿する前に十分注意してください。
不適切な質問
理由の如何に関わらず不快な質問を受け取った場合は、返信せずに両親や信用できる大人に相談してください。送り主のユーザーをブロックすると、二度と連絡が来なくなります。 それでも不愉快な行動が続く場合は、「報告」ボタンを押して当社に報告してください。警察などにも通報してください。
匿名性
匿名性を利用して不快な質問や有害な質問をしないでください。Ask.fmで匿名で質問をすると、あなたの名前は質問相手や他のユーザーには表示されません。 当社があなたの身元を他のユーザーに公開することはありません。 恥ずかしい時や、質問者が誰か分からない方が回答者が答えやすいと思う場合は匿名性は便利です。 規約に違反した場合は、責任を負っていただきます。必要とあれば、捜査機関に身元を特定する情報を提供します。
そして、以下は利用規約である。読み出して、私は驚いた点があった。(お断りしておきたいが、私はフェイスブックやツイッターなどの利用規約と細かく比べてみたわけではない。あくまで、このサイトの利用規約で驚いた部分である。)
気になったのは、3番目の項目のユーザーが送信、投稿、表示したコンテンツは他のユーザーに公開されます。ユーザーはAsk.fmのサービスを通じて送信するデータに責任を負います。という点である。(黒字は筆者。)
4番目と5番目の項目も気になる。
ユーザーはAsk.fmのサービスを通じて送信、投稿、表示したあらゆるコンテンツの権利を留保します。 Ask.fmのサービスを通じてコンテンツを送信することで、それらコンテンツをすべてのメディアや配信方法で使用、コピー、複製、処理、脚色、修正、出版、発信、展示、配布するための全世界共通、非独占的、著作権使用料のないライセンスをAsk.fmに付与します。 Ask.fmあるいはAsk.fmと提携している他の企業、組織、個人によって、ユーザーが送信、投稿、発信、あるいはAsk.fmのサービスを通じて利用可能にしたコンテンツに対し報酬を支払うことなく二次利用できるものとします。
このプラットフォーム上で発信・受信したものはすべて、Ask.fmのものになるということだ。
10番目の項目も注目だ。
Ask.fmはコンテンツをコンピューターネットワークや様々なメディアを通じて発信、展示、配布するために修正、脚色、および/またはネットワーク、端末、サービス、メディアの要件や制限に応じてコンテンツを適合させる必要がある場合はコンテンツを変更することができます。Ask.fmのサービスの利用にあたり、好ましくない、節度に欠ける、悪趣味と見なされるコンテンツを目にすることがありますが、それらコンテンツが不適切な表現であると特定されるとは限りません。Ask.fmは匿名のコンテンツを認めており、監視を行うことはありません。ユーザーは自己責任でAsk.fmのサービスを利用し、ユーザーが好ましくない、節度に欠ける、悪趣味と見なすコンテンツに対し、Ask.fmが法的責任を負わないことに同意するものとします。
Ask.fmは、ここではっきりと、「Ask.fmは匿名のコンテンツを認めており、監視を行うことはありません。 ユーザーは自己責任でAsk.fmのサービスを利用し、ユーザーが好ましくない、節度に欠ける、悪趣味と見なすコンテンツに対し、Ask.fmが法的責任を負わないことに同意するものとします」と書いている。
プライバシーのところでは「Ask.fmやウェブでは誰もがあなたのプロフィールやコンテンツを閲覧できます。投稿する前に十分注意してください」とある。
私が驚いたり、気になったりする理由とは、このAsk.fmの利用者の半分が10代の少年少女であるのに、「匿名でもいいですよ」、「好き勝手にやっていいですよ」、「悪趣味な言葉をかけられても、自分で責任を負ってください」――ということでいいのだろうか、ということだ。
―実際に、質問を見てみると
利用者ではない(=登録していない、またはログインしていない)私でも「見れる」というので、早速サイトで見てみた。
最初の画面の下に、小さな写真のアイコンが並ぶ。これをクリックすると、誰でもその利用者プロフィールと質問が読める。10人ほど、読んでみた。それぞれ、13歳から16歳ぐらい。
時には無邪気な質問もあるが(「好きな食べ物は何?」など)、ほとんどの利用者の場合、性的な嫌がらせあるいは、性的なアプローチの問いがある。時には、子供たちは「気味悪い!」と言い返したり、「児童性愛主義者ね、あっち行って」などと切り替えしている。
一人の男の子の顔写真の下に、フェイスブックのアドレスがあった。一体、中高生なのか、あるいは働いているのかと思って、クリックしてみた。写真がやたら多いサイトである。家族の写真もある。しかし、よく見ると、数人の家族の中で、「兄」や「姉」と説明してある人の名前が本人とはファーストネームもラストネームもまったく別なのだ。全員がすべてまったくつながりのない名前になっている。友人同士を「家族」としている可能性もあった。
しかし、ふと、この可愛らしい写真の少年は、少年でもなんでもなく、大人だったり、あるいは女性だったりするかもしれないー。また、本当にそのままの少年で、何らかの「仕掛け」があるのかもしれない。そこで私はこの少年のフェイスブックの探訪をやめた。
大の大人が少年少女の顔写真が一杯掲載されているフェイスブックを熱心に見ていようものなら、児童性愛主義者と見なされないとも限らない。児童ポルノは所持だけでも違法になるのが英国だ。
「仕掛け」というのは、不用意にクリックした部分に何らかの隠れたセッティングがある可能性のことだ。(最近、テレビを見ていたら。フェイスブックの「にせいいね!」の手口の1つは、あるサイトをクリックしたと思ったら、その裏に隠されている別の「いいね!」用サイトをクリックしたことになった・・・というものであった。真実のサイトの上に、薄紙を置いたように、偽のサイトがかぶさっていたのである。別件になるが。)
このサイトで精神的に虐待されて、自殺を図った少年少女は全体からみればごく少数かもしれないから、「サイトの閉鎖」まで行くべきなのかどうかは分からない。どんなツールを使っても、サイバーいじめはなくなりにくいとは思うし。第一、携帯メール(テキストメッセージ)でも、いじめるような言葉を発信できる。
しかし、子供たちは、あまりにも無防備にこのサイトでわが身をさらしていることにならないだろうかー?
考えて見ると、このサイトは
(1)10代の子供たちに写真付プロフィールを設置している
(2)これをそのソーシャルメディアでなくても誰でも見れる、読めるようにしている
ここまではフェイスブックやツイッターも踏襲しているのだろうが、だんだん危険度が高まってくるのが、以下だ。
(3)匿名で子供たちに質問ができる
(4)その質問に性的嫌がらせ、冷やかし、あるいは性的アプローチを目的とするものがかなりひんぱんに入っている
(5)サイト運営者はチェックをしているというものの、結果的に、嫌がらせ、冷やかし、性的アプローチを目的とした質問が出るのが常態となっている
などの点が、非常に気になる。
実際に使っているほうの子供たちは、結構平気なのかも知れないがー。
さて、ソーシャルメディアを楽しみ、言葉による攻撃を受け続けないようにするにはどうするか?
BBCのデイブ・リー記者が6つの提案をしている(7日付ウェブサイト)。
1つは「悪用を報告」ボタンをどこでも使えるようにしておく
2つは自動的な仲裁機能(機械化)をとりつける
3つは、実名利用を義務化すること
4つは事態が深刻になった場合は、警察を呼ぶ
5つは運営者のほうで、モデレーター(仲裁者)の数を増やす
6つはオンライン上で互いに不快な言動を行わないように、教える、だ。