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大相撲・元千代の国の佐ノ山親方が6月に断髪式開催「本当に幸せな17年間でした」ケガと引退の心境を語る

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
6月8日に両国国技館で断髪式を行う、元千代の国の佐ノ山親方(写真:筆者撮影)

気迫あふれる相撲で土俵を沸かせ、多くの相撲ファンを魅了した、九重部屋の千代の国。両ひざのケガに泣き、2度も関取から陥落・復帰を果たして見る者に勇気を届けた。昨年7月に惜しまれながら引退し、現在は佐ノ山親方として部屋の指導に当たる一方、6月8日に控えた断髪式の準備に翻弄する。あらためて、土俵の思い出や断髪式への思いを伺った。

「戦っている自分が好きだった」振り返るこれまでの土俵人生

――気迫の相撲が持ち味だった千代の国関。個人的にも、強い気持ちが前面に出る唯一無二といえる親方の相撲が大好きでした。一方で、度重なるケガにも泣いた相撲人生。引退の経緯や当時の心境を教えてください。

「いつも、どんなことがあっても、本当に前を向いていたんです。ケガをしてもどうしたら強くなるかばかり考えていたんですが、2回目の復帰後、また半月板を痛めてから徐々にダメになっていきました。日に日にできることが少なくなっていき、痛みが増して番付が落ちていく。十両に落ちていたので、なんとか幕内に復帰してから一場所休んで手術したいという願望があったんですが、十両の上位で勝ち越せない。引退前年の九州場所千秋楽の翌日、本当に歩けなくなってしまったので、手術することにしました。12月8日に両ひざの半月板の手術をして、1月8日が初場所初日。ぶっつけ本番で10勝したんですが、14日目に朝乃山と対戦したときに、また膝からすごい音が鳴って。そこから本当にダメになり、昨年7月で引退しました」

――引退を決意した前後の心境は。

「ずーっとずっとつらくて…。相撲が大好きだったんですけど、“好き”より“つらい”が勝ってしまい、朝から晩まで毎日ため息をついていました。半年四股を踏めない時期もあったし、12月の手術後は、5分歩くのも痛いくらい。親方(元大関・千代大海)に『いつでもいいぞ』と言われたときに、もう辞めますと言いました」

――それでも、何度落ちても這い上がってきたその姿は、見る人の心を打ちました。諦めずに続けられた背景には、師匠のサポートが大きかったのでしょうか。

「はい、それはもう大きかったです。2度目の陥落直後の復帰場所では幕下優勝できたんですが、そこから3場所負け越して、どうしようもなく落ち込んでいたときがありました。そのとき、親方からありがたい言葉をいただいて、気持ちが吹っ切れて前に進めて、また優勝して戻れた。いろんなポイントで、先代(元横綱・千代の富士)・当代両親方には救われています」

――総括して、どんな土俵人生でしたか。

「本当に、それこそ歩けなくなるまで自分の好きなことができたのは、幸せだったなと思います。もちろん、三役に上がれなかったという悔いはあります。でも、それ以外のことは、納得のいく、本当に幸せな17年間だったと思います。これ以上ありません」

気迫あふれる相撲で土俵を沸かせた千代の国。写真は2017年のもの
気迫あふれる相撲で土俵を沸かせた千代の国。写真は2017年のもの写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

――土俵以外の思い出は。

「とにかく周りの方々に助けてもらってばかりでしたね。家族、治療の先生、病院の先生、トレーナー、後援会の方々、応援してくださる皆さん――。振り返れば、いろんな人に頼ってばっかりです」

――現在は、九重部屋の部屋付き親方として部屋の指導に当たっています。生活はどう変わりましたか。

「朝起きて稽古に行ってというリズムは変わらないけど、気持ちが楽です。現役のときは、いつも寝る前に稽古のメニューを立てていたけど、そういう稽古に向けて持っていくエネルギーを使わなくていいので、穏やかに過ごせていると思います。戦っているときの自分も、それはそれで好きだったんですけどね。昔から格闘技が好きで、空手や柔道も習っていましたし、小さい頃の夢はK-1選手になることでしたから」

断髪式は「心躍るお祭りのようにしたい」

――6月8日に両国国技館で行われる断髪式は、いわゆる興行の「引退相撲」ではないため、ご自身や九重部屋が主体となって行うとお聞きしています。現在どのような準備をされていますか。

「いまはグッズやお弁当など、お客さんのためのものを考えています。協会ではなく九重部屋のイベントという位置づけなので、自分のグッズだけではなく、千代の富士関や、お世話になった絵師さんのグッズ、昨年相撲のドラマでブレイクした兄(元幕下・千代の眞)とのコラボグッズなど。ずっと背中を追いかけてきた兄と、最後の一番も取る予定です。どうしたら皆さんに楽しんでいただけるか考えています」

現在開催中の大阪場所では、親方が自ら断髪式のチケットを販売中。観戦予定の方はぜひお立ち寄りを(写真:筆者撮影)
現在開催中の大阪場所では、親方が自ら断髪式のチケットを販売中。観戦予定の方はぜひお立ち寄りを(写真:筆者撮影)

――髷を切ることに対しての心境は。

「楽しみな部分も少しはあります。ただ、やっぱり寂しいですよね。17年間は、地元にいた時間より長いので」

――髪型は決めていますか。

「まだわからないです。お寺出身で、丸坊主かちょんまげしかしたことがないので。お任せにして、似合わん髪型だったらどうしよう…(笑)。本当にわかんないですね。楽しみにしています」

――最後に、足を運んでくださるお客さんにメッセージをお願いします。

「一般的な引退相撲ではないので、自分のなかで不安はあるんですが、来ていただいた方に目一杯楽しんでいただくために、わくわく心躍るお祭りみたいにしたいなと思っています。入場料も頑張って安くしたので、いろんな方に来ていただきたい。国技館に初めて来る方には、相撲を知っていただくいい機会に、すでに知っている人には、心の底から楽しんでいただき、行ってよかったと思ってもらえる内容にしたいです」

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スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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