多くの先進諸国では「今の景気では将来の見通しを明るくするまでにはまだ足りない」と考えられている
「景気」という言葉には「気」なる言葉が含まれている通り、多分に一人一人の経済に関わる思惑、心境が左右する。お金周りに安定感があれば買い物の金額も大きなものとなるし、さらに将来への見通しも明るいものとなる。それでは国により今の景況感と将来の景気予想との間には、どのような違いが生じているのだろうか。アメリカ合衆国の民間調査会社Pew Research Centerが2017年6月に発表した公開調査報告書「Global Publics More Upbeat About the Economy」(※)から、その実情を確認する
次に示すのはそれぞれの国の国民に対し、自国の経済状態についての感想を「とても良い」「良い」「悪い」「とても悪い」の4選択肢から選んでもらい、そのうちポジティブな「とても良い」「良い」の回答率を合算した結果。また同時に今の子供が大人になる位の将来において、景気は今よりも良くなっているか否かを「良くなっている」「悪くなっている」「同じぐらい」の3選択肢の中から選んでもらい、そのうち「良くなっている」の回答率を併記している。要は経済に関して「今の景況感」「将来の景況感の見通し」を聞き、ポジティブな選択肢の回答率である。
実のところ国の並びは「現在-将来」の計算式でプラス幅が大きい順に並べてある。報告書でも指摘されている通り、現在の景況感と将来の景況感の見通しの間には、直接的なリンクは生じていないようだ。つまり、今の景気が良いことと、将来の景気が良いだろうとの思惑は一致しない。
オランダやドイツ、スウェーデンでは現在の景況感に好感触を覚えている人は8割を超えているが、将来については4割前後でしかない。今も将来も半数以上がポジティブな意見を出しているのはセネガルとフィリピンぐらい。日本は自己評価が低いことで知られているが、フランスはそれ以上に値が低い。経済の実情も影響しているが、他の国際調査結果でもしばしば見受けられるように、日本とフランスの間には心境的な類似点があるのかもしれない。
他方、グラフの右側、つまり現在よりも将来の景況感への期待の方が大きい国々を見ると、新興国の多さが目立つ。報告書でも「先進国では現状の景況感への好感触度は高いものがあるが、それでも将来への見通しをよくするのにはまだ足りない」と表現しており、見方を変えると新興国における自国経済の伸びしろへの期待が大きなものであることを匂わせている。
景況感は多分に心境によるところが大きい実情がうかがえるのが次のグラフ。回答者の政治的思惑を左派・中道・右派に区分し、それぞれに対して現在の景況感を尋ね、ポジティブな意見を合算した結果である。
ぱっと見で気が付いた人も居るかもしれないが、報告書で指摘されている通り、右派の人のポジティブな景況感が大きい国では、大よそ右派的な政権が政策を取り仕切っている。逆に左派の人の値が大きな国では、左派的指向性の強い政権がついている。要は自分の思惑通りに政治が成されていれば、景気が良いとの判断が多分になされる次第である。
日本やアメリカ合衆国の動向を見たいところではあるが、今報告書では開示されていない。残念な話ではある。
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※Global Publics More Upbeat About the Economy
2017年春に91か国の18歳以上の該当国国民に対し行われたもので、有効回答数は各国約1000件ずつ。原則は電話によるインタビュー形式での調査方式だが、一部の国では対面方式で実施されている。各国の国情(年齢、性別、教育、地域)などに従ったウェイトバックが実施されている。