正規社員と非正規社員の賃金格差を年齢階層別にさぐる(2022年公開版)
社会現象としてクローズアップされている非正規社員の増加問題。正規・非正規間のもっとも分かりやすい違いは賃金(あらかじめ定められている支給条件・算定方法によって支給された現金給与額から、超過労働給与額(要は残業代)やボーナスなどを除き、所得税などを控除する前の額)にある。その実情を年齢階層別の動向も含め、厚生労働省が2022年3月に発表した「賃金構造基本統計調査」の報告書から確認する。
今回見ていくのは雇用形態別の賃金の実情。区分が正規社員に該当する「正規社員・正職員」と、非正規社員に該当する「正規社員・正職員以外」で行う。男女で大きな差異が生じているので、男女それぞれの実情を確認する。また、対象はフルタイム勤務の人が該当する一般労働者であり、パートやアルバイトに代表される、短時間、あるいは限定日数での就労タイプ(短時間労働者)は該当しない。
まずは2021年における雇用形態別・男女別の平均賃金。
正規社員の方が賃金は高い。非正規社員の賃金は正規社員に比して7割前後。
続いてこれらを男女それぞれ、正規社員・非正規社員別に年齢階層での動向を見たのが次のグラフ。
男女とも非正規社員の賃金は年を取ってもほぼ横ばいで、大きな差異は生じない。作業が比較的単純で、就業上経験の蓄積も考慮されない場合が多い、つまり正規社員における「社内でのさまざまな実績・経験による積み上げ」が非正規社員には(少なくとも賃金面では)生じ得難いことが原因。特に女性は非正規社員では20代後半がピークとなっている。特殊な技術・資格を持ち、それこそ「渡りの職人」のような立場なら話は別だが、普通の非正規社員には正規社員と同じような「積み上げによる賃金のかさ上げ」を期待できず、結果として賃金もそれ相応のものに落ち着いてしまう現実が、グラフのカーブ具合に現れている。
また前年比で見ると、特段の傾向は見られないが、女性はおおよその属性、中でも非正規社員で増加している。ただし前述の通り、2021年における平均賃金の堅調さが単純な賃金の引き上げによるものではなく、むしろ安い賃金の人の解雇によって生じた平均値の底上げの結果によるところが大きいのだとすれば、女性全般(特に非正規社員)、また男性では高齢層の非正規社員と若年層の正規社員において、安い賃金の人の解雇が少なからず生じたことが可能性として考えられる。この仮説は労働力調査の2021年分結果と突き合わせると、あながち的外れではない。
「非正規社員に『社内でのさまざまな実績・経験による(賃金の)積み上げ』を求めない、求められない」動きは、業務・事業が細分化・広大化している大企業ほどその傾向が強い。企業の構成人数が多いほど、個人では「オールマイティな能力」よりも「企業全体を正しく動かす部品の一つ」「歯車」であることが求められる。結果として正規社員と非正規社員の賃金の格差も、大企業になるほど大きくなる。
若年層における非正規就労への不安は大きい。その原因の一端を、一連の賃金グラフが示す実態から知ることができる。そして賃金の面で不安が高まれば、当然将来への不安も増加し、消費を避けざるを得ない(さらに雇用の継続性の不安もある)。現状が厳しくとも将来に金銭的な余裕が期待できれば、ローンを組むなどの工夫も凝らせる。しかし上記グラフにある通り、非正規社員の立場では年を取っても賃金の上昇は期待できず、ローンなど論外、消費を抑えざるを得なくなる(そもそも雇用の継続性すら疑わしい非正規社員では、ローン自体が査定で落とされてしまいかねない)。
一般的に、若年層に節約傾向が強く表れているのも、お金の余力が無く、将来にも金銭面ではあまり期待できないのが主要因。いわば自己防衛本能の表れ。自然な反応として消費をセーブしているにもかかわらず、鞭打つ形で若年層に消費を強要するのは無理な話には違いない。
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