ネットの誹謗中傷に“歌”で対抗 匿名で叩かれた社長が作詞 「匿名の悪意が人を殺すこともある」から
著名人や成功した人などを、SNSや匿名掲示板などで“叩く”行為が後を絶たない。
2020年には、SNSで中傷を受けたプロレスラーの木村花さんが自殺するという痛ましい事件が起きた。ネットの中傷が人の命を奪うケースもある。
そんな中、自らも誹謗中傷の被害にあったベンチャー企業の社長が、問題に切り込む歌を作り、YouTubeでMVを発表した。
曲名は「Anonymous Punch」。匿名(Anonymous)の人から、よってたかって叩かれ(Punch)続け、追い詰められる心境をつづった歌だ。この曲通じて、「1人でも、叩く行為をやめてくれたら嬉しい」と祈る。
Anonymous Punch登場するのは、努力を積み重ね、ようやく成功した起業家やYouTuber、アイドルたち。かれらが匿名の人々によってたかって叩かれるさまを、こんな歌詞で表現した。
そして、叩かれる気持ちをこう描く。
作詞したのは、今年6月、ネットの記事をきっかけに5ちゃんねるなどで叩かれ、匿名の中傷の問題を痛感したという、ベンチャー企業・Timewitch代表の三浦健之介さんだ。
「叩いている側は軽い気持ちだと思います」。三浦さんは言う。「叩かれる側も最初の方は平気なのですが……」。
「それが重なると、叩いてくる人がいつどこにいるのか分からず、日々不安になり、全てが敵に思え、最後には自殺してしまう人がいる。そういう事実を分かってほしい」――三浦さんは、こう訴える。
「言い返したが、まったく鎮火しなかった」
この歌を着想したきっかけは、同社のサービスが取り上げられ、三浦さんがインタビューを受けたネット記事『元電通マン30歳が目指す「残業のない社会」 寝ている間に仕事が進むカラクリも』(bizSPA!フレッシュより)が、多くの人に読まれたことだ。
この記事をきっかけに三浦さんは、大量の誹謗中傷にさらされることになる。
「5ちゃんねる」には同社や三浦さんを叩スレッドが大量に作られ、Twitterでも中傷を浴びた。実際の誹謗中傷は、例えば、以下のようなものだ。
三浦さんは、5ちゃんねる上で言い返したり、Twitterで反論してみたりしたが、逆効果だったという。
「叩いてくる人たちは、叩くこと自体が目的なので、言い返しても叩く材料が増えるだけ。火に油を注ぐ結果になってしまったんです」と、三浦さんは振り返る。
ただ、三浦さんは、叩かれたこと自体は「へっちゃらだった」という。「僕はメンタルが強いので」。一方で、「有名人が匿名による誹謗中傷により自殺を図ってしまう心理が少しだけ理解できた」という。
「僕の感じた小さな痛み・ムカつきの延長線上に、木村花さんの自殺や青汁王子の自殺未遂があることが体感できました」
そして、人を死に追い込んでしまうことすらある匿名の誹謗中傷について、「社会に問題提起したい」と感じたのだ。
テキストで伝わらないなら、メロディに
とはいえ、誹謗中傷にテキストで反論しても火に油を注ぐだけ。「ならばテキストにメロディーを加えて歌にして相手の"心"に訴えれば伝わるのでは?」。そう考え、歌を作ることにしたという。
三浦さんには音楽経験はなかったが、同社の共同代表・岡田崇さんは音楽経験が豊富。三浦さんが歌詞を書き、岡田さんが曲を載せることで、「Anonymous Punch」が完成した。
伝えようとしたのは、「成功者を匿名で叩くのをやめてほしい」という思いだ。ベンチャー社長もYouTuberもアイドルも、努力を続けてその立場を勝ち取ったのであり、匿名の心ない言葉に傷つく普通の人間でもある、ということを、ロックのメロディで表現した。
「この歌が、一人でも多くの、匿名で成功者を叩いてきた人に届き、一人でも叩く行為をやめてくれたら嬉しい。令和の成功者の肩書きとしてよく出てくる起業家やYouTuber、アイドルなども、陰で必死で努力してきたし、叩かれたら傷つく普通の人間であることを再認識してほしいです」と三浦さんは祈っている。