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大相撲初場所をけん引、大関狙う琴ノ若の強さを同部屋の元琴勇輝が語る 元千代鳳も「優勝候補」と太鼓判

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
現役時代の掛け声「ホウ!」のポーズで荒磯親方(左)と大山親方(写真:筆者撮影)

いよいよ終盤戦に突入した大相撲初場所十一日目。両国国技館では、「親方トークイベント」が開催され、この日は元関脇・琴勇輝の荒磯親方と、元小結・千代鳳の大山親方が登壇した。平成3年生まれの荒磯親方と、平成4年生まれの大山親方は、初土俵も1場所違いと“ほぼ同期”と言い合う。イベント終了後、今場所躍進する関脇・琴ノ若や、先日引退を表明した元十両の千代嵐らについて話を聞いた。

引退の千代嵐は「人としても尊敬」

過去の対戦は4勝4敗と五分のお二人。大山親方は「勇輝関には、現役の頃よくご飯に連れて行ってもらってよくしていただいていたのに、対戦するともうガンガン来るから怖かったです」と苦笑い。「仲がいいほど、勝負だから!」と荒磯親方は豪快に笑う。

トークイベントで軽快に場を回す荒磯親方(写真:筆者撮影)
トークイベントで軽快に場を回す荒磯親方(写真:筆者撮影)

トークイベントの最後には、二人が今場所の優勝予想をしたが、荒磯親方が同部屋の琴ノ若の名前を挙げると、大山親方もそれに同意。「十日目の大の里戦はすごくよかった。安定していて強い」と太鼓判を押した。

「人前で話すのは苦手」とはにかみながらも、荒磯親方の勢いに飲まれてたくさん話してくれた大山親方(写真:筆者撮影)
「人前で話すのは苦手」とはにかみながらも、荒磯親方の勢いに飲まれてたくさん話してくれた大山親方(写真:筆者撮影)

イベント終了後、琴ノ若の強さをあらためて荒磯親方に、そして今場所中に引退を発表した元十両・千代嵐との思い出を大山親方に聞いた。

――トークイベントお疲れ様でした。大山親方には、今場所で引退された千代嵐さんについてまずお聞きしたいのですが、引退の発表を聞いて率直にどのように思われましたか。

大山 とにかくびっくりしました。年末くらいに話は聞いていたんですが、最後まで取り切ると思っていたので。付け人についていた時期もありましたし、本当によくしていただいた兄弟子です。嵐さんはとにかく歌がうまくて、歌が苦手だった自分をよくカラオケに連れて行ってくれて、そのおかげで自分は人前で歌えるようになりました。カラオケで朝まで交互に歌って、その後はマックとか吉野家に行って帰るのがいつも定番のコースでした。

――千代嵐さんの歌のうまさは、角界では本当に有名ですよね。部屋での思い出はどんなことがありますか。

大山 入門して、初めて稽古で胸を出してくれたのが嵐さんでした。お相撲さんってこんなに強いんだ、と肌で実感したことをいまでも思い出します。嵐さんは人としても素晴らしい方で、人との接し方など、嵐さんの立ち回りを見て真似していました。

ほかの部屋の関取衆と積極的に稽古 優勝、大関へ前進する琴ノ若への期待

――ここからは、今場所の土俵について伺いますが、お二人とも優勝予想で琴ノ若関の名前を挙げていました。荒磯親方、ここのところの稽古場での様子はいかがですか。

荒磯 完全に集中し切っているという感じですね。自分の世界観があって、自分のやるべきことに集中している。周りで見ている我々親方衆も、声をかけないでおこうと思ってそっとしておいているくらいです。それでも、周りが見えていないわけではなくて、うちの師匠がよく言う「目配り、気配り、心配り」がきちんとできている子です。若い衆への生活指導も率先してやってくれる。そんな心の余裕があります。

――以前、若関の課題として、ひとつの負けを考えすぎてしまうことと荒磯親方はおっしゃっていました。しかし、ここのところは負けを引きずらずに落ち着いているように見えます。

荒磯 そうですね。そういった変化に、彼がいままで積み上げてきたものが出てきているんだと思います。「優勝もあるかもしれないな」と発破をかけたら「一日一番、集中してやるだけです」なんて言ってきて、「俺はNHKのアナウンサーじゃないんだよ!」って。でも、そんな冗談を言えるくらいの余裕があるんです。「心技体」では、心が最初に来るだけあって、どれだけ技術やフィジカルが十分でも、心の余裕がないと空回りしてしまう。ここ半年くらいの若は、そのバランス、リズムがうまく取れているので、それが結果に表れているんでしょう。

――年末にインタビューさせていただきましたが、ご本人も次の番付をしっかりと見据えていますね。

荒磯 これ、言うと結構びっくりされるんですけど、うちの部屋(佐渡ヶ嶽部屋)は昔から関取衆が多いから、僕は出稽古って一度も行ったことがないんです。でも、若は部屋の稽古だけではもうひとつ次のステージに行けないと思ったんでしょうね。自ら師匠に頭を下げて、ほかの部屋の関取衆に出稽古に来てもらうようにお願いしたんです。それで、連合稽古の数日前、大栄翔や王鵬が来てくれました。そういう積極的な姿勢にも、上に行きたいという強い気持ちが見えますよね。

――大山親方も、優勝予想で若関の名前を挙げていました。

大山 はい、本当に強いですよね。優勝したら、荒磯親方がパレードの先導をするかもしれないので、楽しみですね。

荒磯 そうだよね、緊張するわあ。

――ほかに、気になる力士はいますか。

大山 あとは霧島じゃないですか。優勝すれば横綱っていう地位が見えているし、実際連日強い相撲で勝っているので。

荒磯 霧島は後半で伸びてくるタイプだから、ここからさらに上がってくるよね。あと僕が強調したいのは、横綱・照ノ富士がよくここまで勝ってくれているなということ。体が万全じゃないことはどう見ても明らかなのに、ちゃんと星を上げてきている。誰にでもチャンスがあるけど、だからこそみんなに頑張ってほしいなと思っています。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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