協同組織で生き延びる独新聞「Taz」
新聞の発行部数が次第に減少しているという状況は、日本ばかりか欧州でも同様だが、確固とした経営基盤を持つおかげで、ベルリンを本拠地とする独新聞「Die Tageszeitung(ディ・ターゲスツァイトング)」(通称Taz)の経営は安定しているという。10月1日付の英ガーディアン紙が報じた。
Tazは一風変わった組織体系を持つ。約1万2000人に上る読者が新聞を共同所有しているのである。
Tazの創刊は1979年。当時の西ドイツでメディア界が保守系に終始していることに嫌気がさした有志たちの手で、左派系新聞として誕生した。
ドイツでは政府が新聞に助成金を出す制度があり、約6万部の発行部数を持つTazは発行を続けてきた。しかし、1989年にベルリンの壁が崩壊し、ドイツは東西ドイツの再統合への道を進む。これを機に新聞助成金が減少し、1992年、Tazは破産状態となった。
ガーディアンによると、窮地を救ったのが協同組合化の動きであった。読者が新聞に資金をつぎ込み、Tazは生き延びた。
新組織となってから20年を経た現在、協同組合には1100万ユーロ(約11億2400万円)の資金があるという。組合員となった読者は、提供資金の大小にかかわらず、同様に物言う権利を持つ。日々の新聞の制作には口を出せないが、年次総会では運営の仕方について議論できる。例えば、フリーの書き手の賃金を上げることには同意し、原発の広告の掲載禁止には反対した。
140人が働く編集室の組織構造は限りなくフラットだという。ガーディアンの取材に答えた副編集長は「一人ひとりがフリーのジャーナリストの気持ちで働いている」という。それぞれが書きたいテーマについてその正当性を主張するので、交通整理が大変なのだ。組織がフラットであるがゆえに「黙れ!」という人がいないのだという。副編集長とはいえ、駆け出しの記者よりも給与は500ユーロ(約5万円)多いだけなのだ。
ドイツ新聞協会によると、新聞の発行部数は年々減少している。2011年第1四半期では、一日に平均2380万部が発行されている。前年同期比では約93万部、あるいは3.7%の減少である。
しかし、電子版に限ると約14万4000部が発行され、これは前年との比較では51・2%増であった。
新聞協会の広報担当者によると、「紙版の新聞からの収入は全体の95%」で、電子版からの収入はまだまだ少ないようだ。目下の懸念の1つは「電子機器で情報を取ることが習慣になっている若者たちにいかに新聞を読んでもらうか」だという。英国あるいは米国の新聞界では「紙版の減少をどうするか」が最大の懸念だが、ドイツ新聞界は「まだまだ、大丈夫―少なくともあと5-10年は」だそうだ。