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高卒プロ選手として鮮烈デビューを飾った湧川颯斗に誰もが抱く高揚感と期待感

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
Bリーグデビュー戦で7得点を記録した湧川颯斗選手(筆者撮影)

【鮮烈デビューを飾った18歳ルーキー】

 週末に行われたBリーグのシーズン第16節で人々の注目を集めていたのが、福岡大附属大濠高校から滋賀レイクス(以下、滋賀)に加入した湧川颯斗選手のプロデビューだったのではないだろうか。

 過去に日本代表の河村勇輝選手(現・横浜ビー・コルセアーズ)が、福岡第一高校から東海大学入学前に特別指定選手として三遠ネオフェニックスでプレーし注目を集めたが、今回の湧川選手は特別指定選手として滋賀に加わっただけでなく、大学に進学するのではなく滋賀と来シーズンのプロ契約まで結んでおり、B1リーグ(1部相当)では史上2人目の高卒プロ選手の道を選択したことで、さらに注目の度合いが増したようだ。

 そうした話題性もあり、ホームで行われた秋田ノーザンハピネッツ(以下、秋田)との2連戦は、湧川選手がどのようなデビューを飾るのかに関心を寄せるブースター、メディアが多かった。そしてわずか18歳のルーキーは、そうした周囲の期待をはるかに凌駕するプレーを披露してみせた。

【第1クォーターから起用した滋賀の期待度】

 まだ滋賀に合流して1週間足らずで迎えた本番だっただけに、まだチームシステムも完全に理解できていない状態だ。果たして湧川選手にどれ程のプレー時間が与えられるのかさえ懐疑的だったが、予想外の早さでデビューの場を迎えた。秋田戦第1戦の第1クォーター終了間際、残り57.9秒で公式戦のコートに立ったのだ。

 チームに加わったばかりの新人選手を起用する場合、大抵試合やプレーに慣れさせることを優先的に考え、すでに勝敗が決した試合終盤に起用するのが一般的だ。プロ選手として初試合の18歳選手なら、尚のこと気を遣うべきところだろう。

 ところが滋賀の保田尭之HC代行は、主導権争いを続けている第1クォーターで湧川選手をコートに送った。もちろん彼に対する期待の表れでもあるのだろうが、まだプロでは使えないと判断された選手なら、絶対に起用される場面ではない。

 それはつまり保田HC代行が湧川選手に対し、すでに即戦力としてBリーグで通用する能力の高さを感じ取っていたからに他ならない。それを裏づけるかのように、コート上の湧川選手は物怖じすることなく、その高い才能を発揮し続けた。

194センチの身長を生かしたディフェンスは秋田オフェンスを惑わせていた(筆者撮影)
194センチの身長を生かしたディフェンスは秋田オフェンスを惑わせていた(筆者撮影)

【高いディフェンス力が評価され後半はいきなりスタメン】

 最初のターンは第2クォーター残り6分10秒までの出場となり、シュートを1本放ったもののミスに終わっていたが、湧川選手がコートに立っている約5分間で、6点差つけられていた展開を2点まで縮めることに成功していた。

 そのお膳立てをしていたのが湧川選手のディフェンスだった。194センチの身長を生かし相手ガード選手をマークすることで、ボールの動きを鈍らせることに成功。間違いなく秋田のオフェンスのリズムを狂わせ、滋賀の反撃機を創出していた。

 試合後の保田HC代行のコメントは後述するが、HC代行は湧川選手のディフェンスが効果的だと判断し、後半はいきなりスタメン起用を決め、最終的に秋田の得点源の1人であり、元日本代表の古川孝敏選手のマークに回すほどだった。

【第3クォーターだけで3本のシュートを決め7得点】

 もちろん湧川選手の才能はディフェンスだけではない。後半はオフェンスでも活躍してみせた。

 第3クォーター開始早々、残り9分15秒だった。右サイドからドリブルで侵入してくるテーブス海選手に対し、反対側の左コーナーで待ち構えていた湧川選手にパスが通りそのままシュート。大きく弧を描いたボールはリムに触れることなくネットを揺らした。記念すべきBリーグ初得点は、湧川選手がデビュー戦前に課題にあげていた3点シュートだった。

 これだけではない。同じクォーターの残り4分23秒に、今度は右サイドでパスを受けた後果敢にインサイドにドライブしてからのレイアップシュート、さらにクォーター終了間際の残り2.9秒に、ゴール下でパスを受けてからのレイアップシュートを決め、このクォーターだけで7得点を記録することに成功している。

 その後も最終クォーターも残り8分28秒までコートに立ち、14分53秒の出場で、7得点、1リバウンド、2スティール、1ブロックショットという記録を残した。

【チーム内から溢れ出る湧川選手に対する賞賛の声】

 試合後保田HC代行は、湧川選手がチーム合流後フィジカル検査の関係でコンタクト練習が1度しかできていなかったことを明かした上で、以下のようにデビュー戦を評価している。

 「(湧川選手を今日の試合で)使うことは決めていましたし、どこで投入するかも決めていました。ただ考えていたよりもほぼ(予定出場時間の)倍近くプレーさせたと思います。これだけのプレータイムを得たということは、はるかに自分の予想を超えてくれた結果だと思います。

 それは彼が自分たちにプレーさせるようなプレーをしてくれたからだと思っています。フィジカルに身体を使ってディフェンスをする場面で、彼が一番厳しく守れた選手の1人だったんじゃないかなと思います。

 (チームに加わったばかりで)まずチームメイトに認めてもらうようなプレーを見せる必要があったと思うんですけど、この1試合でそれができたんじゃないかなと思います」

 湧川選手が目標とする選手であり、日本代表のテーブス選手も素直に驚きの言葉を口にしている。

 「ああやって高校生がプロデビューながら競った試合で入ってきて、シュートを決めることも凄いんですけど、それよりチームに馴染んでいるというのが、彼のバスケットボールIQだったり本当に凄いと思いました。

 僕もプロとしてそれほど経験がないですけど、未来が明るい選手だなと思いました」

ドリブルから相手ディフェンスを崩そうと試みる湧川颯斗選手(筆者撮影)
ドリブルから相手ディフェンスを崩そうと試みる湧川颯斗選手(筆者撮影)

【試合後の湧川選手「これで満足はしていません」】

 素晴らしいデビューを飾った湧川選手だが、試合後は「緊張もなく自分のプレーが出せたので良かったです」と冷静に振り返るなど、早くも大物ぶりを発揮している。

 試合後に湧川選手に確認したところ、Bリーグ初得点となった3点シュートは打った瞬間に入るという手応えを感じていただけでなく、あの瞬間はボールがリムに吸い込まれるまで無音の状態の中でプレーしていたという。いわゆる“ゾーン”に入っているほど、プレーに集中できていたようだ。

 さらに湧川選手は結果に喜ぶことなく、次々に課題や反省の言葉を口にしている。

 「今までとれていたリバウンドだったりとか、今日何本かリバウンドに絡んで簡単にはとれないことが分かったし、一瞬のコンタクトが高校とは全然違うなと思いました。

 数少ないチャンスで決めていかないと、これからもプレータイムがもらえないと思います。今日はしっかり決められましたけど、今後はもっともっと確率よく決めていかないといけないと思いますし、これで満足はしていません」

【HC代行は今シーズン中にも本来のプレーができると予想】

 秋田戦第2戦は、序盤から秋田の一方的な展開になってしまったことも影響してか9分間の出場に止まったものの、しっかり3得点、1リバウンド、1アシストを記録している。

 現時点では2番(SG)、3番(SF)の位置でプレーしているが、保田HC代行はBリーグでのプレーに慣れてくれば、湧川選手のパフォーマンスも向上し、本来の1番(PG)でも起用できるだろうと予想している。

 「彼が高校上がりだとか、年齢とか気にせずに使いたいと思っていますし、それ以上にコーチとしてだけではなく、一バスケットボール人としてのワクワク感を彼に対して抱いています。

 彼が活躍してくれることによってチーム間の競争も激しくなっていくでしょうし、よりシリアスなチーム状況をつくるきっかけになってくれると思っています。

 高校でできていたパフォーマンスをフィジカル的にタフなBリーグで同じようにできるように持っていってほしいですし、出力の部分の強さを勝ち取れれば、高校で見せていたようなパフォーマンスは今シーズンにもできるようになれると思っています」

 保田HC代行の言葉通り、コートに立った湧川選手は間違いなく人々をワクワクさせてくれる選手であることは間違いなさそうだ。とりあえずは今後の彼の成長具合に注目したい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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