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「トランプ歓迎会に元慰安婦」の陰に中国?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
トランプ大統領アジア歴訪 韓国で晩餐会(写真:ロイター/アフロ)

 7日、ソウルでのトランプ大統領歓迎会に元慰安婦を招待し独島エビを供した韓国の行動の裏には中韓合意文書がある。サンフランシスコからのメールがそれを裏付ける。トランプ大統領は事前に知っていた可能性がある。

◆大統領歓迎会に元慰安婦を招待する神経

 韓国は日本に負けじと、トランプ米大統領の歓迎に注力し、国賓として迎える態勢を取っていた。だというのに、7日の歓迎夕食会に元慰安婦を招待するだけでなく、韓国が領有権を主張している竹島(韓国名、独島)の名を冠した「独島エビ」を夕食に供した。

トランプ大統領が先の国連総会演説で拉致問題に触れたことにより日本の拉致問題が国際化し、かつ今般の訪日で拉致被害者に面会したことの向こうを張って、トランプ歓迎夕食会に元慰安婦を招くという、一見、韓国の狭量な発想のように見えるが、そこには日米分断を図る意図が滲み出ている。

 今は「北朝鮮問題をいかにして解決するか」ということが国際的共通テーマであるはずで、日本がかつて「侵略行為」を行なったか否かを論ずる時ではないし、ましていわんや情報が不確かな慰安婦問題を持ち出してくるタイミングではなかろう。

 慰安婦問題に関しては2015年末に日韓合意で「不可逆的解決」を誓ったはずで、これは当時のパククネ大統領がどうしても中国に接近して日米韓協力に離反する行動を取り続けるので、北朝鮮問題に関して不利と見たアメリカ(当時のオバマ政権)がパククネを説得して持ち込んだ日韓合意だったはずだ。

 一方、中国としては「南京大虐殺資料」とともに「慰安婦問題資料」を世界記憶遺産に登録するため韓国の協力が必要だったこともあり、何としても韓国を引き入れたいと思っていた。だから「習近平・パククネ」蜜月が実現していた。

 このように日韓が反目しあっていては日米韓協力がうまくいかないことから、アメリカはパククネを説得したわけだ。そして中国の反対に抗して韓国にTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)を配備することにも賛同させた。

 政府間で合意しておきながら、文在寅(ムン・ジェイン)は、パククネ政権を覆し大統領に当選するために、韓国の一部の民意に迎合してパククネ政権時代の合意に反対する主張を選挙演説で強調した。それが慰安婦問題であり、THAADの韓国配備でもあった。

 THAAD配備により中国から経済的な制裁を受けていた韓国は、何としても中国のご機嫌を取りたい。こうして出てきたのが、11月7日付のコラム「中国はトランプ訪日をどう見ているか」で書いた「中韓合意文書」なのである。

 なお、竹島に関しては、朝鮮戦争の時に当時の李承晩(イ・スンマン)大統領がどさくさに紛れて勝手に李承晩ラインを引いて韓国領としてしまった経緯がある。それを当時のアメリカのトルーマン大統領は黙認した。だからトランプ大統領にアメリカ大統領として再確認させたい意図が文在寅にはあったのだろう。しかし、これもまた北朝鮮問題とは無関係だ。

◆中韓合意文書が持つ裏の意義

 くり返しになるが、もう一度、「中韓合意文書」の内容を詳細に見て頂きたい。

 中国外交部の2017年10月31日付の公的見解としてホームページに「中韓関係に関する意思疎通」というタイトルで載っている。以下、全文を記す。

  

 ――中韓双方は中国外交部長助理・孔鉉佑と韓国国家安全保障室第二次長・南官杓の間のチャンネル等により、朝鮮半島問題などに関して外交部門間の意思疎通が行われた。

   双方は朝鮮半島の非核化に向けて、平和的に北朝鮮の核問題を解決するという原則に立って、再び全ての外交手段を通して北朝鮮核問題を解決することとする。双方は戦略的協力を一層強化する。

   韓国は中国のTHAAD問題に関する立場と懸念を十分に認識し、韓国に配置されたTHAADは、その本来の配置の目的からして第三国を狙ったものでなく、中国の戦略的安全保障の利益を損なわないことを明らかにした。

   中国は国家安全保障の立場から、韓国がTHAADシステムを配備することに反対することを再び表明した。同時に中国は韓国が表明した立場に留意し、韓国が関連問題を適切に処理することを希望した。双方は両国軍事当局の間のチャネルを通して、中国が憂慮するTHAAD関連問題に対し、話し合いを進めることで合意した。

   中国はミサイル防衛(MD)システムの構築、THAAD追加配備、韓米日軍事協力などと関連し、中国政府の立場と懸念を明らかにした。韓国側はすでに韓国政府がこれまで公開している関連の立場を改めて説明した。

   双方は中韓関係を重視し、双方の合意文書の精神に基づき、中韓の戦略的パートナーシップの発展を強化推進していくことを確認した。また双方は、交流・協力の強化が双方の共同利益に符合することに共感し、全ての分野での交流・協力を正常的な発展軌道に速やかに回復することに合意した。

 以上が「中韓合意文書」の全文である。

 これに基づいて、11月7日付のコラム「中国はトランプ訪日をどう見ているか」に書いた、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相の国会における以下の回答が成されているのである。

  1. 米国のミサイル防衛(MD)体制に加わらないという韓国政府の既存の立場に変更はない。

  2. 韓米日安保協力が三者軍事同盟に発展することはない。

  3. THAADの追加配備は検討していない。

 これ以降、中国の貿易や観光などに関する対韓国政策が突然緩和したのを、日本の皆さんもご存じだろう。

 康京和発言の中で日本と深く関連するのは「2」で、文在寅は「日本と軍事同盟を結ぶことは絶対にあり得ない」と何度も宣言している。中国は北朝鮮問題で対中包囲網が形成される危険性を、韓国を囲い込むことによって完全に打破したのだ。米中とは蜜月でいたい中国としては、狙うは日本だけなのである。

◆サンフランシスコからのメール――トランプは事前に知っていたのか

 10月末から、突然サンフランシスコの反日華人華僑団体からのメールが増え始めた。在米コーリアンともタイアップしながら動いている団体だ。

 そこには"comfort women" " sex slaves " という、目にしたくない単語が数多く使われている。そしてなぜか、アメリカのウィルバー・ロス商務長官の顔と肉声がある。話している内容は関係ない話だが……。

 最初は、「なぜ――?」という強い違和感を覚えた。

 しかし、あのストレートで感情をむき出しにするトランプ大統領が、ソウルでの歓迎夕食会に元慰安婦が同席していることに対して特に嫌な顔もせず、おまけにハグまでしたのを見ると、ひょっとしたら予め知っていたのではないだろうかという疑念を抱かせる。

 だとすれば、日本ではあれだけ安倍首相との緊密さをアピールしていたトランプ大統領が、韓国ではそれなりに韓国民感情に添った反日につながる行動ができるというのは、日本人としては何とも複雑だ。

 中国ではトランプ大統領が訪日前にハワイに立ち寄り、「真珠湾を忘れるな!」という、かつて真珠湾奇襲攻撃をした日本への反撃号令に相当する言葉を発したことを、相当に重要視している。トランプ大統領は、なぜハワイで日本に対する攻撃司令に相当する言葉を、いま、このタイミングで発したのだろうか?

 さて、となると、トランプ大統領は習近平国家主席と、いかなる「密約」をするのか、注意していなければならない。高い武器だけ売りつけられて、気が付けば日本が外されていたというようなことにならないことを祈りたい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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