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中国はトランプ訪日をどう見ているか

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
トランプ米大統領が初来日 迎賓館で首脳会談(写真:ロイター/アフロ)

「トランプが北問題を煽って日本に武器を高く売り込もうとしているのに、日本は異常に歓迎している」と中国は報道し、中韓合意で韓国が日米と距離を置く中、日米韓協力を強化しようとしていることをあざ笑っている。

◆トランプの戦略は日本に高い武器を売り込むこと

 中国の中央テレビ局CCTVはトランプ大統領の訪日に強い関心を持ち、毎日報道していた。

 中国のネットを含め、トランプ訪日に関して一番大きく扱っているのは、日米安全保障問題だ。トランプが成田ではなく横田基地の空港に着いたことから始まって、「トランプが北朝鮮問題に関して過激な発言ばかりをして金正恩を刺激するものだから、金正恩は負けじと激しい反応をして北東アジア情勢を悪化させている。トランプはむしろこれを好機と見て、日本にアメリカ製の高い武器を売り込もうとしている」という論評が多い。

 特にトランプが在日アメリカ大使館で日本の財界人を対象として行なったスピーチの中で、「日本周辺の安全保障状況は非常に緊迫している。まさに今こそ多く武器を買う時だ。アメリカには世界最先端の武器がある。今こそアメリカの武器の買い時だ」と言ったと説明している。

 これは残念ながら事実に近く、日本の報道を見ても、トランプは「非常に重要なのは、日本が膨大な兵器を追加で買うことだ。それがアメリカでの雇用拡大と日本の安全保障環境の強化につながる」と表明し、安倍首相も「日本の防衛力を質的に、量的に拡充していかなければならない」と呼応しているようだ。

 CCTVではまた、日韓両国に駐留している米軍に関して、「アメリカは同盟国の安全を保障するので、日韓両国はもっと基地費用を負担すべき」という考えをトランプは持っていると報道している。

 そしてトランプが安倍政権が憲法改正や軍国主義に走っていこうとしていることに賛同しているともみなしており、訪日前にハワイに寄って「パール・ハーバーを忘れるな!」と言ったこととの矛盾をついている。「パール・ハーバーを忘れるな!」は日本軍国主義への抗議であるはずなのに、「日本に武器を売りつける」のは、その日本の軍国主義傾向を激励しているに等しいと手厳しく批判している。

◆貿易摩擦に関して

 トランプは在日アメリカ大使館で日米の財界人を前にして、日米貿易の不均衡に触れ、アメリカは毎年700億ドルほどの対日貿易赤字を抱えていると不満を漏らしたと、中国のメディアは報道している。

 またトランプは日米財界人を前に「TPPからの撤退を取り消さない。いずれみんな、私の正しさが分かるだろう」と言ったと、中国では報道している。さらにTPPに代わるものとして、中国がグローバル経済をリードしていくとし、それが「習近平新時代」だと強調した。 

◆中国は米大財閥と太いパイプ

 党大会が終わると、習近平は自分の母校、清華大学経営管理学院顧問委員会のメンバーである数十名の米大財閥の面々と、満面の笑顔で座談会を持った。

 そこには、ゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースあるいはゼネラル・モーターズの会長やCEO等、多くの米財界人が顔を揃え、特にブラック・ストーンのシュワルツマン(中国名、蘇世民)が、いかにも習近平と仲良く歓談している姿が大写しになっている。

 拙著『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』にp.31~p.34には、数十名に及ぶ米大財閥の名前が一覧表として表示してあるが、彼らはトランプを支え、これまでは大統領戦略政策フォーラムのメンバーとしてトランプ政権を支えていた。今はトランプの人種差別に対する発言などに怒って撤退した者もいるが、それでも今般の訪中では80名からの米財界人を引き連れてトランプがやってくると、中国は くり返し報道して、胸を張っている。

◆中韓合意文書で中国に身を売った韓国

 韓国は文在寅(ムン・ジェイン)大統領誕生後、THAAD(終末高高度防衛ミサイル)の韓国配備や北朝鮮との対話路線などで揺れ、特にTHAAD配備に伴う中国による経済制裁を解除してもらおうと、中国にすり寄っていた。

 中国の第19回党大会後の10月30日午前、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相は、韓国の国会で

  1. 米国のミサイル防衛(MD)体制に加わらないという韓国政府の既存の立場に変更はない。

  2. 韓米日安保協力が三者軍事同盟に発展することはない。

  3. THAADの追加配備は検討していない。

と、「三不(三つの不)」を表明した。

 このことについて同日の中国外交部による定例記者会見で、会場にいる記者の質問に対して外交部報道官は「中国側はTHAAD問題における韓国側の発言を重視している。韓国側が約束を具体的に実行し、問題を適切に処理して、中韓関係が平穏で健全な発展の道に早期に戻る後押しをすることを望む」と回答した。中国政府メディアや中国共産党メディアが伝えた。

 時を同じくして、中韓両国の外交部のホームページに「中韓合意文書」が掲載され、中韓の関係改善が謳われている。

 CCTVでは毎日のように中韓の関係改善が報道された。解説者によれば、この合意文書は「北朝鮮の核問題が解決すれば、韓国からTHAADを撤退させることに韓国が同意したことを意味し、米軍が中国の軍事配置を偵察するという役割は果たしえない」とのこと。

 また韓国の文在寅は、米韓同盟によりアメリカと軍事協力はするが、絶対に日本と「日韓(軍事)同盟」を結ぶことはあり得ず、日本を含んだ形での「日米韓の軍事協力はない」ということを表明している。つまり「日米韓による対中包囲網」は絶対に存在し得ないというのが中国の見解だ。

 これさえ押さえておけば、中国に怖いものはない。

 経済制裁を恐れた韓国が、中国に身を売った形だ。

◆中国、日米首脳共同記者会見に不快感

 したがって、8日にトランプが韓国で、いかなる演説をしようとも、それが中国に対する何らかの譲歩を引き出すことはあり得ないと、中国は高をくくっている。

 ましていわんや、「安倍・トランプ」の日米首脳が記者会見で「(北朝鮮問題に関して)中国のさらなる大きな役割が重要との認識で一致した」と表明したことについて、中国外交部は6日午後の定例記者会見で、「われわれが何をすべきかに関して、誰からも何も言われる筋合いはない」と激しい不快感を表明した。

 安倍首相が日米の強いきずなを見せれば見せるほど、習近平はその分だけ安倍首相に嫌悪感を抱き、日本と距離を置こうとする。

 双方ともに日中友好を唱え、安倍首相は李克強首相や習近平国家主席の来日の可能性を政治業績のように宣伝しているが、そのようなことをすれば、中国からの「上から目線」は強まるばかりだ。それは愉快なことではないし、日本の国益に利するとも思えない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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