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日本メディア界のダブルスタンダード NBA史上2人目の日本人選手は「渡邊」かそれとも「渡辺」か?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
田臥勇太選手以来14年ぶりにNBA公式戦出場を果たした渡邊雄太選手(左)(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 日本バスケ界に新たな輝かしい歴史が加わった。グリズリーズと2ウェイ契約を結んでいた渡邊雄太選手が現地27日、フェニックス・サンズ戦を前に公式戦出場可能なアクティブ・ロースターに入り、田臥勇太選手以来14年ぶりにNBA公式戦のコートに立った。もちろん日本でも賞賛で迎え入れられ、各メディアが大きく報じている。

 これまでも渡邊選手は多くのメディアが期待を込めて取り上げてきた選手だが、そうした彼のニュースをチェックしている方々の中には“ある”疑念を抱いてはなかっただろうか。メディアによって渡邊選手の表記に違いがあるということだ。日本メディアは現在、渡邊選手の表記を「渡邉」だけでなく「渡辺」の2つを使っているのだ。

 それでは表記の正解はといえば、本欄でも使っている「渡邊」だ。渡邊選手本人のツイッター公式アカウントが「渡邊」となっているのだから、答えは至って簡単なものだ。それでは何故メディアの中には「渡辺」を使っているところが存在しているのだろうか。

 もしチェックできる猶予があるのなら、「渡邊」を使うメディアと、「渡辺」と使うメディアの違いを比較検討してほしいのだが、実はいわゆる大手主要メディアは「渡辺」を使い、ネット系メディアが「渡邊」を使っているのが理解できると思う。

 その理由が何なのかお分かりだろうか。それは日本の通信社の存在だ。彼らが配信する記事が「渡辺」を使っているため、通信社に加盟している大手主要メディアもそれに追従しているためだ。一方で通信社を利用せずに自分たちで記事をまとめているネット系メディアは、本来の「渡邊」を使っているため、現在のように2つの表記が飛び交っているのだ。

 こうした表記のダブルスタンダードは他にもある。現在もMLBで活躍する田澤純一投手だ。彼も主要メディアの中では「田沢」と表記されているのをご存じだろうか。これもまさに通信社の影響に他ならない。田澤投手もレッドソックス入団以来「田沢」で報じられてきたが、実際に同選手を現場で取材し、彼のグローブに「田澤」と刺繍されていたので直接確認したところ、やはり本来の表記は「田澤」だった。それでも大手主要メディアは現在も「田沢」を利用し続けている。

 もちろん渡邊選手にしろ、田澤投手にしろ、表記が変わろうとも呼び方に違いはない。だが本来の表記ではない漢字を使われ報じられる選手やその家族の気持ちは複雑なのではないだろうか。

 大手主要メディアは昨今、中国人や韓国人の漢字表記を現地発音に合わせるふりがなを加えるようになっているし、また他の外国人に対しても、カタカナ表記をできうる限り母国語の発音にあった表記に近づけようとしている。直接記事を読むことのない外国人にそれだけの配慮があるのなら、なぜ記事を読むだろう日本人選手に同様の配慮をし、正しい表記を使おうとしないのだろうか。

せっかく日本バスケ界に飛び込んできた明るいニュースなのに、当の渡邊選手は日本で「渡辺」と報じられていることを素直に喜べているのだろうか。

 自分が長らく違和感を覚えてきた日本メディア界の寂しいダブルスタンダードだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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