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いよいよ終映『エヴァンゲリオン』。25年間ナゾに思っていた「爆炎はなぜ十字架型?」を考える。

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

大ヒットとなった『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の上映も、一部の劇場を除いて、7月21日で終映となる。1995年にスタートした『エヴァ』の世界が、ホントのホントにこれで締めくくられるのだ。感慨深いですなあ。

筆者が初めて『空想科学読本』を上梓したのは96年の2月で、まさに『エヴァ』のテレビアニメが放送されていたときだった。だが当時、筆者はこの先進的なアニメをまったく知らず、『マジンガーZ』の原稿に「操縦者の衝撃を和らげるために、コックピットを粘性の小さな液体で満たしたほうがいい」などと書いていた。読者は「それ『エヴァ』がやっていることでは?」と思っただろうなあ。お恥ずかしい。

『エヴァ』に関しては、ポジトロンスナイパーライフルとか、第三新東京市とか、セカンドインパクトによるお墓不足問題など、過去にいろいろ考察してきたが、筆者が初めてアニメを見たときにココロを奪われたのは「十字架型の爆炎」であった。

使途が攻撃してきたときや、使途が爆発したときなど、『エヴァ』の世界ではやたらと爆炎が十字架の形になる。実にカッコいい! でも、ものすごく不思議!

これについては「宗教的なモチーフだろう」という指摘が多く、まあ筆者もそう思うけど、でも科学的に全然あり得ない現象のだろうか? 『エヴァ』完結にあたって、四半世紀にわたって気になっていたナゾを考えてみたい。

◆きのこ雲が起こる理由

わかりやすい十字架爆炎の一つが、テレビアニメ第弐話「見知らぬ、天井」で、エヴァ初号機が第3使徒サキエルを倒したときのものだ。

初号機に弱点の「コア」を破壊されそうになったサキエルは、初号機の上半身を包んで、自爆する。爆炎は空高く上がり、それが十字架の形になった!

このときの十字架をよく見ると、縦棒の部分が上に向かって激しく噴き上げており、明らかに上昇気流が発生している。炎か煙か、あるいは白熱した空気か、いずれにしてもガスや微粒子の集まりが十字架の形になっているのだろう。しかし、そんなことが起こり得るのだろうか?

この爆発では、十字架が形成される前に、白いドーム状の光が膨れ上がっている。爆発がドーム状に広がるのは、白熱した空気が超音速で膨張するためで、規模の大きな爆発のときに起こる。するとあの十字架は、その後に生じたキノコ雲……ということだろうか。

現実のキノコ雲が、キノコの形になる原理は次のとおりだ。

①大規模な爆発が起こる→②強い上昇気流が発生する→③空気は一定の高度に達すると温度が下がり、上昇する力を失う→④それでも次々に空気が立ち昇ってくるため、先に上昇した空気は押されて横に広がる。

こうして立ち上る煙がキノコの傘のような形になるわけだ。

つまり大規模な爆発では、煙が水平に広がることも起こり得る。だとすると、これまで十字架型の「爆炎」と書いてきたけど、実は炎ではなく煙であるとしたら、少なくとも十字架の横棒部分については説明がつくように思われる。

◆いずれ「丰」のカタチになる

不可解なのは、横棒のさらに上に、煙が天に向かって伸びることだ。まあ、そうしないと「十」ではなくて「丁」になってしまうのだが、この謎はどう考えたらいいのだろう?

たとえば、最初に立ち昇る縦の爆炎は「中心部が周辺部より高温」だとしたら?

その場合、爆炎がある高度に達すると、周辺部は上昇力を失って横に広がるが、中心部は高温のままなので、そのまま上昇を続け、横棒より上に突き出る。

おおっ、これなら劇中の描写どおり十字架型になるのではないか。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

などと一瞬は喜んだのだが、ちょっと待て。

温度の高い中心部も、いつかは温度が下がり、上昇力を失うだろう。すると、せっかく横棒の上まで伸びた煙も、その上でさらにもう一本の横棒を作ってしまうのではないか。横棒の上に横棒を書くと、物干し竿の「干」という字になってしまって、なんかカッコ悪い……。

しかも、縦の爆炎の中心に温度がなお高い部分があれば、「干」の上にさらに縦棒が伸びることになり、今度は「キ」の字になる。うーむ、これもイヤだな。

そうやって2本目の横棒を突き抜けた縦棒もどこかで上昇力を失うだろうから、さらに「丰」という字に。これは馴染みのない字ですが「ホウ」や「ボウ」などと読んで「草木が盛んに茂っているさま」といった意味がある。「草ぼうぼう」を漢字で書くと「草丰丰」なんですね。

◆光も水も十字架なのだ

話がすっかり『エヴァ』から離れてしまったが、うーん、筆者の考察はこのへんが限界かもしれません。

というのは、他のシーンでは、十字架型の爆炎がオレンジ色に輝いていることもあり、炎ではなく光のようにも見える。光が十字架になるとは、さらに不思議。

また『新劇場版・破』では、第7使徒イスラフェルの攻撃で多数の水柱が上がったが、その水柱も十字架になっている。ますます不思議。

さらに『新劇場版・Q』では、サード・インパクトで破壊された町のあちこちに十字架が立っている。サード・インパクトが起きたのは、その時点から14年も前だから、炎や煙だったらそんなに長く持続するはずはなく……。

うーん。25年の時を経ても、爆炎十字架の不思議は解けません。自分の力のなさが残念だ。

でも、そんな検証しがいのある謎を25年にわたって提供してくれた『エヴァンゲリオン』。

それが本日7月21日でついに終映となる。

さようなら、全てのエヴァンゲリオン。そして、ありがとう、全てのエヴァンゲリオン。

――あ。でも8月13日からはアマゾンプライムで観られるのか。だったら、引き続き検証だー!

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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