北朝鮮にBTSファンは存在するのか? Netflix人気ドラマ「ペーパー・ハウス・コリア」で話題
Netflixの話題作「ペーパ―・ハウス・コリア」が公開されて1週間が過ぎた。
6月24日公開分は6話。Twitterを見る限り「全編見た」「一気見でした」という方も多いようだ。ネトフリ内での日本での閲覧数ランキングも2位にまで浮上してきた。
このタイミングでひとつ【ネタバレに細心の注意を払いつつ】「作中の小ネタ」に関する話を。
ずばり「北朝鮮にBTSファンはいるの?」
ドラマはいきなりBTSから始まる…
この話をネタバレと叱られてしまっては、もう泣くしかない。なぜなら、今回公開の全6篇のうち、第1話の冒頭シーンの話だからだ。
作品はこのナレーションから始まる。
- 韓国でも賛否が分かれるシーンだ
そして強盗団のひとり、トーキョーが北朝鮮にいた若き頃(2025年頃の設定)、防弾少年団(BTS)にハマりまくっているシーンに。部屋で両親の目を盗んで聞き、踊りまくるのだ。
これ、Twitterで話題になっていた。なにせ、ドラマのスタートが「防弾少年団(BTS)の楽曲(DNA)が平壌と思しき場所で流れる」というところから始まるのだ。
韓国でもこのシーンは賛否両論だ。「スポーツ京郷」は6月26日にこのシーンについて報じ、韓国のドラマファンは「いくらグローバルにドラマを売り出そうとしているとはいえ、BTSまでも利用する必要はあるのか?」「ムズムズする」といった批判、いっぽうで「冒頭からめっちゃ面白い」といった称賛があるようだ。
果たして北朝鮮にARMYはいるのか。
結論=十分に存在しうる。
韓国メディアは「正恩氏発言からも"北に韓流あり"」
かなりリアル世界の話に飛ぶ。
北朝鮮にARMYが存在しうる証拠は、他でもない韓国でも報じられた金正恩氏の発言にある。
2021年4月7日、金正恩総書記が出席した「細胞秘書大会」なる会議が行われた。「細胞秘書」とは社会主義たる北朝鮮のなかで最も小さな組織・グループを指す。
金正恩総書記は会議でこう発言した。
「成年の教養問題は党の組織がひとときもおろそかにしたり、緩めてはならない最大の重大事です」
「青年たちの服装、髪型、言動、人間関係などを見直してこそ、精神文化、経済道徳生活を正しくできるよう統制できるのです」
韓国メディア側はこれを「実質上、韓流コンテンツの閲覧禁止・引き締めを指示するもの」と報じた。
要はこの会議、小さなグループのリーダーに「青少年の思想・取締を強調」してね、と伝える会議だったのだ。
脱北者証言「音楽>ドラマの一面も」
じゃあなんでこれが「北朝鮮にARMYが存在しうる」という証拠になるのか。
まずは、北朝鮮での韓流コンテンツの状況について。
韓国では「2000年あたりから流入が始まった」とされる。一般層のインターネット接続の自由が日本などよりも大きく制限される国にあってどう見るのかというと、「USBメモリ、SDカード、外付けHDD、DVDで見る」。闇市などでこっそり売られているのだという。中に入っているのはドラマが主だとされてきた。
筆者自身も2012年頃に中朝国境の丹東市(中国)を取材した際に、「脱北者の人権活動家が北にUSBやDVDを送っている」という話を聞いた。「南の体制を知らせるため」だという。現地では当時、ポータブルDVD再生機が意外と売れていて、これは北で韓流コンテンツを閲覧するためにも使われるとの話を聞いたことがある。
韓流コンテンツが北朝鮮で20年来存在し続けてきた、ということはBTSも存在する可能性がかなり高い。
2021年5月4日、韓国で登録者数6万人超えのYouTubeチャンネル「KTVプログラム」に出演した脱北者、パク・ユソン氏は「北ではドラマより音楽がよい点がある」という
- 該当の番組
「ドラマは閲覧に長時間かかります。見つかってしまうリスクがある。しかし音楽の動画は一本3分程度。こそっと見るのにいい面もありますね」
現にBTSも人気があるという。
前出の脱北者パク・ユソン氏は番組内でこう明らかにした。
「ポムナル(Spring Day)が人気なんですよ。春の時期(2021年5月のオンエア時)だということもあって」
氏は番組内でさらに「平壌にBTSにARMYがいる」という話を続けた。
北朝鮮での「BTSの隠語」
世界中のどこでもそうだろう。ファンなら当然、「知ってる?」「聞いた?」といったことを共有したくなる。
しかし「北で"BTS"や"バンタン"と直接口にするのは『逮捕して』と言っているようなもの」(パク・ユソン氏)。
周辺には前出の「細胞秘書」のような引き締め役がいるからだ。最近はこの役割にある人も、取り締まりのために韓流コンテンツを見ているのだという。
うかつにBTSのことを話せない。
- 韓国で報じられた「細胞秘書大会」出席者の様子
だから、BTSを指す「隠語」があるのだという。
朝鮮語で「バンタン・ペナン(방탄 배낭)」。
「防弾リュック」という意味だ。
さらに「BTS、知ってる(聞いてる)?」という意味の隠語まであるらしい。
「防弾リュック、背負ってみた?(バンタン・ペナン、メヴァンニ? 방탄 배낭 메 봤니?)」
番組内ではこの「防弾リュックという言葉が一般的じゃなかったら、バレるのでは?」というツッコミが司会者側から出た。
脱北者のパク・ユソン氏の答え。
「軍事パレードの列隊の一つに、防弾リュックを背負って歩くものがあるのです。だから一般的に使う言葉でもあるんですよ」
そしてパク氏は…韓国に渡ってきた後、北と連絡を取り合い、こういった情報を得たのだという。
「去年(2020年)、兵隊たちが列車で移動しているときに明らかにBTSの楽曲のダンスを踊ったらしいんですよ。バレなかったのか? 当時は上官もそれがバンタンのものか、分からなかったようです」
つまり「ペーパー・ハウス・コリア」の冒頭シーンのような「北朝鮮のBTSファン」は「存在しうる」。まあ制作側もこれくらいは調べて脚本に織り込んだか…。
ちなみに作中でこのシーンを演じた女優チョン・ジョンソは「めちゃくちゃなれない感じだった。熱狂的にBTSが好きな少女役なので必死に演じた」と韓国媒体のインタビューに答えている。
「BTSはもちろんかなり好き。いっぽうで自分は個人的にどちらかというと女性アイドルを多く観てきた。TWICEの熱烈ファン」なのだという。