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【田中希実会見①】世界陸上5000m8位入賞と世界レベルの日本新。ターニングポイントだったレースは?

寺田辰朗陸上競技ライター
23年8月の世界陸上ブダペスト大会。女子5000mで日本新をマークした田中希実(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 女子1500mと5000mの日本記録保持者、田中希実(New Balance)が11月12日に東京都内で会見を行った。

 23年シーズンは7月のアジア選手権1500mで優勝。8月の世界陸上ブダペスト大会は1500mこそ準決勝止まりだったが、5000mで8位に入賞。世界陸上の予選で14分37秒98と日本記録を約15秒も更新。9月には日本記録を14分29秒18(シーズン世界12位記録)まで伸ばし、同じ9月に米国ユージーンで行われたダイヤモンドリーグ・ファイナルでは、5000mでは日本人初出場を果たした。

 会見の前半は実りの多かった今シーズンを、田中自身が振り返る内容になった。

「試合までの過程にもより強くこだわれるようになった」

Q.今シーズンを振り返ると?

田中 怒涛のような1年だったな、と思っています。すごく良い時もあったし、悪い時もあった。だからこそすごく長くも感じましたが、短かったようにも感じるのが正直なところです。結果だけ見たらすごく良い1年だったと捉えられますし、私自身も充実した1年だったと確かに言えますが、その裏ですごく苦しんだ時間が多かった。だからこそプロとしての厳しさや、1人の人間として生きることについてもすごく考えさせられた1年でした。成長できたと言い切ることはできないですけど、とても学びが多かった1年だったと思います。

Q.今年、一番納得のいったレースは?

田中 心と体がちゃんと一致したレースとして、世界陸上5000mの予選が印象に残っています。その時は精神的にはまだ不安もあったのですが、最終的には行くしかないと思って走り出していました。“自分らしさ”という言葉はすごく抽象的で、自分らしさって何ですかと聞かれても答えることはできないんですけど、見ている人が“希実らしい”と思えるような走りができたんじゃないかと思います。

Q.今シーズン、特にターニングポイントとなった出来事がもしあれば教えてください。

田中 先ほども話した世界陸上5000mの予選が、今年は大きなターニングポイントになったと思っています。それまでも1つ1つのレースの結果にこだわる姿勢は持っていましたが、世界陸上の予選の後からは結果だけでなく、そこまでの過程にもよりこだわれるようになったと強く感じています。だからこそ、その後のレースでは当日にスイッチが入らないことがあっても、普段丁寧に取り組んでいたことで思ったより走れたりしました。逆にレースの結果が思ったより良くなくても、真摯に向き合った結果、そうだから仕方がないって思えたり。そういった精神的な変化は、世界陸上がターニングポイントになった結果かな、と思います。

「レースにバンバン出ていくスタイルは大きく変わっていませんが、その中身、取り組む気持ちの充実感はすごく変わっていた」

Q.23年シーズンはプロとして最初の1年でしたが、練習環境の変化や心境の変化などはありましたか。

田中 練習環境自体は特に大きく変わった部分はありませんが、取り組み方として、のびのびと選択できるところが去年までとは違っていました。企業や学校に所属していたら、思いついたことをすぐ行動に移すことができないこともあります。それが今年は、思いついたらどんどん行動に移すことが増えていました。練習環境であったり、レースにバンバン出ていくスタイルは今までと大きく変わってるようには見えないと思うんですけど、その中身というか、取り組む気持ちの充実感はすごく変わっていたんじゃないかと思います。

Q.今年の経験を来年にどういうふうにつなげていきたいと考えていますか?

田中 今年は海外のレースにたくさん出ていた印象はあると思うんですけど、その中でも突然入ってきたレースであったり、転がり込んできたようなレースも多くありました。今年出た経験を生かして、来年はより、海外のレースをもっと計画的に組んで、着実に競争する力、他の選手と勝負する力を高めていきたいなと思っています。ケニア合宿も今年2回目として行ってみて、より効果を感じられました。そこももっと効果的に組み込んでいけるようにしたい。欧米のレースと、ケニアのちょっと泥くさいような合宿というサイクルを、もっとうまく回していけたらいいなと思います。

※【田中希実会見②】では今季取り組んだフォームの変化や、パリ五輪で日本人初の1500m&5000m同時入賞を達成するために現時点で考えていること、将来走るであろうマラソンに言及した内容を紹介する。

陸上競技ライター

陸上競技専門のフリーライター。陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の“深い”情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことが多い。地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。座右の銘は「この一球は絶対無二の一球なり」。同じ取材機会は二度とない、と自身を戒めるが、ユーモアを忘れないことが取材の集中力につながるとも考えている。

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