イラン政府からロシア軍へ攻撃および監視ドローン提供:米国防総省「すでに多くの不具合あり」
2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。そして両軍によって上空のドローンは迎撃されて破壊されたり機能停止されたりしている。
米国の国家安全保障担当大統領補佐官のジェイク・サリバン氏は2022年7月11日にホワイトハウスの記者会見で、イラン政府がロシア軍に対してウクライナ紛争で使用するためのドローン数百台を提供する可能性があると語っていた。イランは7月からロシア軍に攻撃ドローンの訓練も行っていた。米国のシンクタンクの戦争研究所は、イラン政府がロシア軍に対してイラン製の攻撃ドローン「シャハド129(Shahed129)」を46機提供しているとの調査結果を発表していた。米国CNNの報道によると、ロシア軍はイランでウクライナでの戦闘のために、イラン政府が提供した攻撃ドローンの操縦訓練を行っている。CNNによるとイラン製の攻撃ドローン「シャハド129(Shahed129)」のほかにイラン製の監視・偵察ドローン「サーエゲ(Shahed Saegheh・Shahed191)」もロシア軍に提供されるということだった。
そして2022年8月には米国国防総省のパット・ライダー報道官は「イランの飛行場からロシアに向けて軍事ドローンが輸送された。ロシア軍はイラン政府からイラン製の軍事ドローン数百機をこれから調達する予定。入手した情報によると、今回輸送されたイランの軍事ドローンはすでに多くの不具合(numerous failures)が生じている」と語っていた。具体的な不具合の種類やロシア軍による攻撃、監視・偵察への影響は明らかにされていない。
また米国防総省によるとロシア軍がイラン政府から調達するのは攻撃ドローン「シャハド129(Shahed129)」と監視・偵察ドローン「マハジェル6(Mohajer6)」の2種類。
▼イラン製の攻撃ドローン「シャハド129」
▼イラン製の監視・偵察ドローン「マハジェル6」
不具合(バグ)はいずれ改修
ロシア軍は主にロシア製の偵察ドローン「Orlan-10」で上空からウクライナの監視・偵察を行っている。またロシア製の攻撃ドローン「KUB-BLA」や「ZALA KYB」で攻撃を行っている。だがウクライナ軍による地上からのドローン迎撃も激しく、ロシア軍の多くのドローンが破壊されたり、機能停止されたりしている。ドローンは検知されたらすぐに迎撃されて破壊されるので、戦場では何台でも必要だ。監視偵察ドローンは「上空からの目」として敵の様子を確認することができる。攻撃ドローンは敵を察知したら、すぐに攻撃が行えるし、大型ミサイルほどコストがかからない。
イランの兵器のほとんどは1979年まで続いた王政時代にアメリカから購入したもので、現在はアメリカとの関係悪化による制裁のためアメリカから購入できないので、特にドローン開発に注力している。イランの攻撃ドローンの開発力は優れており、敵国であるイスラエルへも飛行可能な長距離攻撃ドローンも開発しており、イスラエルにとっても脅威である。イスラエルのガザ地区の攻撃の際にはパレスチナにドローンを提供してイスラエルを攻撃していたと報じられていた。またイランでは開発したドローンを披露するための大規模なデモンストレーションも行ってアピールもしていた。
今回輸送されたドローンの不具合の程度は不明だが、不具合(バグ)はハード面でもソフト面でもいずれ修正される。イラン政府から攻撃ドローンが提供されるとロシア軍にとって大きなプラスにはなりうる。ウクライナ政府は世界中の国々にあらゆる兵器をウクライナ軍に提供してほしいと訴えている。ロシア軍が使用するイラン製の攻撃ドローンに対抗するために地対空ミサイルなど多くの兵器が世界中からウクライナ軍に供給される可能性が高い。
米国バイデン政権は2022年3月に、米国エアロバイロンメント社が開発している攻撃ドローン「スイッチブレード」を提供し、すでにウクライナ軍によって利用されている。また同社では監視・偵察ドローンもウクライナ軍に提供している。攻撃用スイッチブレードの「Switchblade300」と「Switchblade600」は上空から標的に突っ込んでいき、戦車などを破壊することができる。またウクライナ軍は主にトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」を利用して侵攻してきたロシア軍に攻撃している。
操縦が簡単な民生品ドローンは訓練などを行わなくとも、スマホやタブレットで操縦してドローンからの監視・偵察や爆弾投下が可能である。だが、大型のドローンは操縦の訓練が必要である。ドローンの機材だけを提供されても、いきなり操縦して実戦で活用することはできない。少人数の兵士が短期間で操縦訓練を受けてから使用する。
ロシア軍の兵士がイランで攻撃ドローンの操縦の訓練を受けているように、ウクライナ軍も海外各国から提供される軍事ドローンの訓練のためにウクライナ兵がアメリカなど開発国に赴き、操縦の訓練を受けてから実戦で使っている。