期待できる日本の中堅半導体企業たち、日本電産に注目
1月26日の日本電産のニュースリリースを見て驚いた。2018年、ルネサスエレクトロニクスからソニーセミコンダクタソリューションズの役員となりヘッドハンティングされた大村隆司氏が、日本電産の役員として迎えられたのである。同氏は、2018年9月1日付けでソニーへ入社した(参考資料1)。役員待遇でソニーの半導体部門を任されたのにもかかわらず、メディアの前にはほとんど姿を見せることがなくなっていた。新聞報道にも専門メディアにも全く登場していない。2019年暮れに、あるメディアの広告企画でソニー側のCMOSセンサとMaximのビデオインターフェイスICの相乗効果によるコラボの取材でソニー側の代表として顔を見せたのが最後だった。
一方、日本電産はモータ技術で成長してきた企業であり、半導体事業に参入すると見られてきている。このためか、大村氏の日本電産での肩書は、「執行役員 副最高技術責任者、半導体開発担当」となっている。これから日本電産が半導体に進出する上で、重要人物として採用したのであろう。大きな市場として期待される自動車には無数のモータが使われており、その駆動回路にパワー半導体をはじめとする半導体ICが欠かせない。同社が半導体を求めることは十分納得できる。
今、中堅半導体が面白い
日本電産はじめ、実は今、中堅半導体が面白い。半導体事業を強化しているからだ。旧セイコーグループをルーツとしていたエイブリック(参考資料2)は、最近テレビコマーシャルで「感じる半導体」をテーマとして流している。そのエイブリックをミネベアミツミが2年前に買収した。ミニチュアのボールベアリングを生産しているミネベアは、最初にミツミの半導体工場を買収、半導体事業に再参入した。そして2020年エイブリックを買収し、本格的に半導体事業を強化し始めている。
ミネベアは、かつて一度半導体に進出したことがあった。1980年代後半にNMBセミコンダクターという名称で千葉県館山にファウンドリ工場を建設、ファウンドリ事業を進めたが、ビジネスはうまくいかなかった。ファウンドリビジネスの本質を捉えていなかったからだ。ファウンドリビジネスを成功させるためには、設計部門を充実させることがカギだが(台湾のTSMCは設計部門が充実しているから顧客は製造を頼みやすい)、ここをおろそかにした。日本で他にもファウンドリと称する事業を行っている半導体企業はあるが、外部の客を取ってきた経験がほとんどない。
もう一つ注目する中堅半導体は、日清紡グループだ。えっ、と驚かれる読者がいるだろうが、実は日清紡はもはやかつての紡績・繊維の会社ではない。無線通信、マイクロデバイス、ブレーキ事業、精密機器事業、化学品事業、繊維事業、不動産事業という7つの主力事業を持つホールディングカンパニーであり、会社名は日清紡ホールディングス株式会社だ。そしてそのホームページによると主力事業は、「無線・通信/マイクロデバイス」となっている。事業の主体は日清紡マイクロデバイスである。
日清紡マイクロデバイスは、半導体メーカーの新日本無線とリコー電子デバイスを統合させた会社である。無線通信に強い新日本無線と、パワーマネジメントや電源ICに強いリコー電子デバイスという今後とも成長が期待される分野に強い企業となった。無線通信は、4G、5Gなどのセルラー通信をはじめ、Wi-FiやBluetooth、独自無線など今後とも期待が大きな分野である。また、どのような集積回路でも電源がなければ動作しない。半導体ICが将来どのような方向に行こうが、電源は必ず使う。しかもチップに応じて、1.2V、3.3V、5V、12Vなどさまざまな電圧の電源が求められている。必ず成長する。
日本電産の半導体、期待できるモータ駆動
ここで面白いのは日本電産がどのような半導体をビジネスとするのかだ。モータが強いことからブラシレスモータやサーボモータ、さまざまな種類のモータに応じて駆動回路が異なる。そのための半導体ICが必要になる。パワートランジスタにドライバIC、さらにそれを駆動し、制御するマイコンなどがセットで使う。こういった製品を扱うのか、あるいはファウンドリという製造専門のビジネスを行うのか、極めて興味がある。
重要なことは、日本の総合電機はもはや当てにならないことだ。いまだに「半導体は外から買って来ればいい」という態度に終始しており、半導体で他社製品との差別化をしないからだ。なぜアマゾンやグーグル、アップルなどが自社チップを開発しているのか全く理解していないのである。
ただし、成長するためには、顧客を海外に求めたり(かつての国内半導体メーカーは自社内の総合電機が主な顧客)、自動車産業(日本のモノづくり産業の頂点)と一緒に開発したりする必要がある。となると海外の人材を採用することになる。この円安で売り上げを伸ばそうとするなら、日本に工場を持ち、海外に積極的に売りに行く方が最も期待できる。そのことで海外市場の伸びと共に日本のメーカーも一緒に伸びていくことができる。そのためには海外企業とパートナー(顧客であろうとサプライヤーであろうと同じ)を組み、売り上げを計上できる仕組みを作ることが最も重要なことになる。もちろん、日本の強い自動車産業と組む手も重要である。
参考資料