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#ガザ に原爆」より酷い?ネタニヤフ首相演説が物議―日本が国連と共にすべきこと

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
会見するイスラエルのネタニヤフ首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 パレスチナ自治区ガザへのイスラエル軍の凄まじい空爆が止まりません。ガザ側の被害者は、本稿を書いている時点で1万人を超えました。ハマス等による襲撃への報復ということを考慮しても、難民キャンプに強力なミサイルを何発も撃ち込んで、住民ごと吹き飛ばしたり(関連記事)、救急車の車列へ攻撃したりするなど、常軌を逸していると言えるでしょう。そうした中、イスラエル政府閣僚が「ガザに原爆を使うのも選択肢の一つ」と発言し、問題となりましたが、ネタニヤフ首相の発言も物議を呼んでおり、それが本音だとすれば、ある意味、「ガザに原爆」発言より酷いとも言えます。本稿では、ガザ攻撃への国連関係機関等による反応を紹介しながら、この問題で日本がやるべきことを模索します。

*本記事は、theLetter に掲載した記事に若干の加筆・修正をしたものです。

https://reishiva.theletter.jp

〇国連関係者が「ジェノサイド」と批判

「イスラエル軍の攻撃により、ガザの人々はジェノサイド(=大量虐殺)の危機にある」―先月31日にガザ北部のジャバリア難民キャンプがイスラエル軍に猛空爆され、多数の市民が死傷したこと等について、国連の人権専門家達は「ジェノサイド」という極めて強い言葉を使って批難しました(関連情報)。

 ジェノサイドとは、ナチスによるユダヤ人大量虐殺であるホロコーストの責任追及から生まれた概念で、1948年に国連で採択されたジェノサイド条約(ジェノサイド罪の防止と処罰に関する条約)では、

「国民的、民族的、人種的または宗教的な集団の全部または一部を集団それ自体として破壊する意図をもって行われる行為」

と定義されています。同条約では、ジェノサイドを主導した個人を、その国の裁判所或いは国際刑事裁判所で処罰できるとしています。

 今回のガザ攻撃をめぐっては、OHCHR(国連人権高等弁務官事務所)のニューヨーク事務所の所長であったクレイグ・モカイバー氏がその辞表の中で「教科書通りのジェノサイドだ」と糾弾。「米国、英国、そしてヨーロッパの大部分の政府は、この恐ろしい攻撃に全面的に加担している」「積極的に軍事支援を行い、経済的・情報的支援を提供し、イスラエルの残虐行為を政治的および外交的に隠蔽している」と猛批判しました。

〇民間人保護は「選択肢」ではなく「義務」

 イスラエル側は、「難民キャンプにハマスの指揮官がいた」「救急車にハマスの構成員が乗っていた」等と主張しますが、国際人道法では、戦争において、そこに攻撃目標があるとしても、市民の巻き添えを避けることが強く求められています。

 ジャバリア難民キャンプ空爆と同日に、国連安全保障理事会でUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)のフィリップ・ラザリーニ事務局長は、イスラエルによるガザ攻撃での犠牲者の約7割が女性や子どもであることについて、「これはコラテラル・ダメージ(巻き添え被害)ですらない」と批判。「民間人と、国連の施設、学校、病院、礼拝所、民間人を受け入れる避難所を含む民間インフラが、ガザ地区全域、南北全域で常に保護されなければいけないことは、『選択肢』ではなく、『義務』である」と強調し、「国際人道法を厳格に遵守しなければならない」と求めました(関連情報)。

〇攻撃目標はハマスなのか、一般市民なのか?

 イスラエル側の空爆が、ハマスを攻撃するためのものであったとしても、上述のように正当化されるものではないのですが、そもそも空爆が本当にハマス攻略のためのものかどうかすら、疑問を持たざるを得ません。というのも、ハマスの拠点は、最も深いところで地下70メートル、全長で約500キロ(東京メトロの約2.5倍)というアリの巣のように複雑に張りめぐらされた地下トンネルの中にあります。

イスラエル軍の空爆は大規模なものですが、「ガザメトロ」とも呼ばれる地下拠点に潜むハマス戦闘員や幹部を倒すには非効率すぎるのに対し、民間人の犠牲が大きすぎるというのが、実際のところでしょう。ハマスを攻略するのであれば、トンネル内にイスラエル軍の兵士達を送り込み掃討作戦を行うとか、あるいは、トンネル内に爆弾を仕掛け落盤させたり、大量の海水を流し込むなどして、トンネルを使用不可の状況に追い込む等の方が効果的なはずです。それにもかかわらず、大規模な空爆を続けているのは、もはやハマスも市民も関係なく、ガザの住民を大量に殺すこと自体が目的化しているのではないかと勘繰りたくなります。

〇ネタニヤフ首相の「ガザ皆殺し」発言

 例えば、イスラエルのネタニヤフ政権の閣僚で、エルサレム問題・遺産相であるエリヤフ氏は、ガザに原爆を使用することも「一つの選択肢だ」と述べました関連情報)。これに対し、ネタニヤフ首相はエリヤフ氏を閣議に参加させない処分を下していますが、それは「原爆」という余りにもわかりやすく反感を買いやすい言葉をエリヤフ氏が使ったからにすぎないのかもしれません。ネタニヤフ首相自身、先月28日に行ったガザ攻撃についての演説の中で、旧約聖書(申命記25章17節)を引用し、「アマレクがあなたにしたことを思い出さなければならない」と発言し、物議を呼んでいます(関連情報)。

 旧約聖書において、アマレクとは、古代イスラエルの民のライバル的な存在とされる民族で、神は「あなたはアマレクの名を天の下から消し去らなければならない」として、アマレクの民を滅亡させることを命じたと書かれています。また、旧約聖書の歴史書の一つであり、ユダヤ教の預言書である「サムエル記」(15章3節)では、より具体的に、「アマレクの民を亡ぼしなさい、彼らに関するもの全てを破壊しなさい。男も女も幼児も乳飲み子も、牛も羊もラクダもロバも殺しなさい」と書かれているのです。

〇「ガザの消滅」が最終目的?

 これらの一連の発言と共に、ガザそのものを無くすことを、つまり、ガザの住民の全てを境界を接するエジプトへと追い出すことがイスラエル政府周辺から主張されています。ネタニヤフ首相の元補佐官でイスラエルの安全保障政策に強い影響力を持つとされる、メイル・ベン・シャバット氏が所長を務めるシンクタンク「ミスガブ研究所」は、「ガザ住民全体の移転と最終定住」という政策提言をまとめました。同提言は、「エジプト政府と協力して、ガザ住民をエジプトへと避難させる、またとない機会だ」として、エジプトの余剰住宅等をイスラエルの国費で購入し、そこにガザの住民を移住させるべきだと主張。それが、「長年の問題の解決策」だとしているのです。

 当のイスラエル政府もリークされた同国諜報省の内部文書から、ガザ住民をエジプトのシナイ半島に強制移住させ、ガザ境界に無人地帯をつくり、帰還できないようにすることが、今後の選択肢の一つとして検討していたことが発覚しました(関連情報)。

〇「これは第二の独立戦争」発言が意味するもの

 これらの発言や提言・計画から鑑みると、「これはイスラエルにとって第二の独立戦争だ」というネタニヤフ首相の発言の意味合いにも不気味さを感じます。というのも、イスラエルの建国宣言に反発したアラブ諸国との戦争(第一次中東戦争1948~1949年)で、70万人ものパレスチナ人が土地を追われ、その後、難民達やその子どもや孫の世代も帰還できずに現在に至っています。またイスラエル建国前夜の1948年4月から5月にかけて、イスラエル建国を目指すユダヤ人武装勢力が、いわゆる「ダレット計画」として、デイル・ヤシン村など、パレスチナ人の村々を襲って無差別虐殺や強姦、破壊行為を組織的に行い、恐怖を煽ってパレスチナ人達を追い払い、土地を奪うということが繰り返されたのです。そうした歴史的経緯から考えれば、ネタニヤフ首相の「第二の独立戦争」発言はあまりに無神経とも言えますが、今、現実に起きている「ジェノサイド」とも言えるガザ攻撃の実態からすると、不謹慎というよりも、むしろ確信犯的な発言のようにも見えます。

〇繰り返される国際法違反に日本も毅然とした姿勢を

 いずれにせよ、非戦闘員である民間人の大量殺戮や、その地域全体のインフラを破壊し、水や食料、燃料等を断つ等の行為、そして強制移住は「人道に対する罪」であり、けっして容認できるものではありません。イタリアの社会権担当大臣のヨネ・ベララ氏は、ロシアに対するような経済制裁をイスラエルに科し、また同国への武器輸出の禁止、戦争犯罪としてICC(国際刑事裁判所)への提訴を行うよう、主張しています

 ハマス等による襲撃もまた許されないものですし、それはそれで戦争犯罪として裁かれるべきだとしても、やはり、そろそろイスラエルの行っている数々の国際人道法違反に対し、しかるべき対応をする頃合いなのでしょう。そのような点で、何とも情けないのが、岸田政権の腰砕けぶりです。国会で野党に「イスラエルのガザ攻撃で行っていることは国際法違反ではないか?」と問いただされても、岸田首相は「現実の状況をしっかり確認できない立場にあるわが国として、法的な判断をする立場にない」と逃げました。

 一方で岸田首相はロシアに対しては、「国際法の明白な違反」と批判しています。米国バイデン政権の親イスラエル、反ロシアの姿勢に配慮したのでしょうが、そうしたダブルスタンダードこそ、国際社会、そして米国内でもバイデン政権への強い憤りの源となっています。米国との関係が深い日本だからこそ、むしろ、国際法違反へのダブルスタンダードを是正し、国連とも協力しながら、ガザ攻撃を止めるため尽力すべきでしょう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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