アトピー性皮膚炎と心の健康の深い関係 - 最新の研究結果をやさしく解説
【アトピー性皮膚炎って、こころにも影響があるの?】
アトピー性皮膚炎は、長く続く皮膚の炎症で、世界中の多くの人が悩んでいる病気です。アトピー性皮膚炎があると、かゆみや肌の痛みなどの体の症状だけでなく、不安やうつといった心の症状も現れることがわかっています。
実際に、アトピー性皮膚炎の人は、そうでない人に比べて、不安障害やうつ病になる割合が高いことが報告されています。アトピー性皮膚炎の症状が重いほど、不安やうつのレベルも高くなりがちです。
ただし、皮膚の症状が良くなっても、自分を傷つけたいと思ったり、集中力が下がったりするなど、一部のうつ症状は残ってしまうこともあります。
そのため、アトピー性皮膚炎の治療では、皮膚の症状を抑えることが、心の健康を守ることにもつながります。
【お薬で不安やうつは改善する?】
最近の研究で、アトピー性皮膚炎の治療に使われるお薬が、不安やうつの症状を和らげることがわかってきました。中でも注目されているのが、アブロシチニブ、バリシチニブ、デュピルマブという比較的新しいお薬です。
アブロシチニブとバリシチニブは、JAK阻害薬と呼ばれる種類の飲み薬です。JAK阻害薬は、炎症を引き起こす体の反応を抑えることで、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。一方、デュピルマブは、IL-4とIL-13という炎症に関係する物質の働きを阻害する生物学的製剤(注射)です。これらのお薬は、アトピー性皮膚炎の症状を直接改善するだけでなく、患者さんの心の状態にもいい影響を与えるようです。
例えば、アブロシチニブを飲んだ人は、そうでない人に比べて、不安やうつの程度が明らかに低くなったという研究結果があります。バリシチニブやデュピルマブでも、同じような効果が認められています。
ただ、これらの研究の多くは、不安やうつを主に調べたものではないため、さらに詳しく調べる必要があります。また、不安やうつの治療薬を直接試した研究は少ないので、アトピー性皮膚炎の人にこれらの薬がどれくらい効果があるのかは、いまだよくわかっていません。
【お薬以外の治療法は?】
お薬以外の治療法でも、アトピー性皮膚炎の人の不安やうつの改善に、ある程度の効果が認められています。代表的なのは、患者教育プログラムや認知行動療法、リラックス法などです。
例えば、アトピー性皮膚炎の子供を持つお母さんを対象に、直接会って教育したりオンラインで教育したりするプログラムを行ったところ、プログラムが終わる頃には、お母さんの不安のレベルが明らかに下がったという報告があります。
また、筋肉をゆっくりほぐすリラックス法(漸進的筋弛緩法)を行ったグループでは、不安やうつの程度が明らかに低くなったという研究結果もあります。
ただし、お薬以外の治療法の研究は、お薬の研究に比べると少なく、効果の程度にはバラつきがあります。また、お薬以外の治療法だけでは、うつの症状がなかなか良くならないこともあるようです。
これからは、お薬とお薬以外の治療法を組み合わせるなど、より効果的な方法を探していく必要がありそうです。また、お薬以外の治療法の効果を確かめるための、しっかりとした研究を増やしていくことも大切です。
【まとめ】
アトピー性皮膚炎は、私たちの体だけでなく、心の健康にも大きな影響を与える病気です。アブロシチニブ、バリシチニブ、デュピルマブといった新しい治療薬が、不安やうつの症状を改善する可能性が示されています。これらのお薬は、アトピー性皮膚炎の炎症を抑えることで、皮膚の症状だけでなく、心の症状にも良い影響を与えるようです。
一方、お薬以外の治療法では、患者教育プログラムや認知行動療法、リラックス法などである程度の効果が認められていますが、研究の数や効果の程度にはバラつきがあります。お薬とお薬以外の治療法のそれぞれの効果と課題をよく理解して、患者さん一人ひとりに合った治療法を選ぶことが大切だと考えられます。
アトピー性皮膚炎で不安やうつに悩んでいる人は、一人で抱え込まずに、医師や周りの人に相談することが大切です。適切な治療を受けることで、皮膚の症状だけでなく、心の健康も改善できる可能性があります。
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