ニューレディー・ラボ バーチャル読書会イスラエル 人類史上最もやっかいな問題
■出版元の情報
https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000819332023.html
■目次
第1部 何が起こっているのか?
1章 ユダヤ人とイスラエル
2章 シオニストの思想
3章 ちょっと待て、ここには人がいる
4章 イギリス人がやってくる
5章 イスラエルとナクバ
6章 追い出された人びと
7章 1950年代
8章 ビッグバン
9章 激動
10章 振り落とす
11章 イスラエルはラビンを待っている
12章 賢明な希望が潰えて
13章 ブルドーザーの最後の不意打ち
14章 民主主義の後退
第2部 イスラエルについて話すのがこれほど難しいのはなぜか?
15章 地図は領土ではない
16章 イスラエルのアラブ系国民
17章 恋物語?
18章 入植地
19章 BDSについて語るときにわれわれが語ること
20章 Aで始まる例の単語
21章 Aで始まるもう一つの単語
22章 中心地の赤い雌牛
23章 希望を持つ理由
■読んだ私の感想(ネタバレなし)
この本はユダヤ系アメリカ人で、イスラエルの民主主義を名実共に達成させるためのNGO「新イスラエル基金」のCEOである社会活動家が書いた本である。つまり当事者のユダヤ系の人ではあるが、アメリカ人で、民主主義を重んじるという点からも、割とリベラルな視点(アメリカの民主党寄り)で語られている本である。
ユダヤ系の人々については今まで西洋史を学んできた中で、古代ギリシア・ローマ時代から直近まで、たびたび登場してきた。特に古代ローマ時代にはディアスポラ(離散)と呼ばれることが起こり、住んでいた地を追われ、地中海沿岸の各地に移り住んでいったことをよく覚えている。
その後、ユダヤ系の人々は中世から近世まで貿易や商業、金貸し(金融)の分野で活躍し、地中海沿岸のみならず、黒海沿岸や東欧、西欧、北アフリカにとどまらず、アメリカ大陸などでもコミュニティを維持し続けた。なんといっても、宗教やそれに基づく慣習に特徴があり、各地で独自のコミュニティを維持してきた。この宗教に基づいた文化維持こそがユダヤ民族を特徴づけるものだといえる。この辺りは本書ではさらっと書いてあった。
この本はどちらかというと第二次世界大戦前後のシオニズム運動(現在のイスラエルの地にユダヤ人の国家を建国しようという運動)と1948年の建国以後の周辺諸国との闘いの歴史を中心に描いている。現代の問題点がその辺りの歴史に起因しているからだ。
イスラエルの問題は中東だけの地域問題でなく、世界の動きに連動した問題である。それは建国の歴史に欧米の大国が絡んでいるからである。だがしかし、そこから占領や抑圧や入植といった、建国理念に反した行動がなぜ起こったのか?それに対して反対を言えないアメリカの原因や理由なども書いてある。まさかのユダヤ系アメリカ人の影響力ではなく、別の理由が本書を読んでわかってきた。またユダヤ系と一口で言っても、2000年近くの歴史で多様になっていて、ユダヤ系同士の中でも差別があるということも全く知らなかった。
国民国家とは?民主主義とは?国際法とは?民族のアイデンティティとは?人権とは?差別とは?色々考えさせられた。
第二次世界大戦当時の時代背景から、世界的な人権意識や環境(ITを含む)の変化もあり、世界はますますややこしくなっている。だけど、この紛争から学び、考え、解決を考えることが、これからの世界の新しい秩序を考えるのに役立つかもしれない。
我々は同時代に生きている。同じような問題がやがて我が身に降りかかってくる可能性もある。それは韓国と北朝鮮という民族国家の問題かもしれないし、民主主義と権威主義の対立かもしれない。世界に溢れている自国第一主義の風潮や、抹殺も厭わない領土占有や他民族に対する暴力かもしれない。世界はつながって影響を与えあっている。
他人事ではなく、何が起こっているのかを理解し、拙いながらも解決の糸口を考えるのは、望ましい世界を作っていくうえでも重要なことになるのではないかと私は考えている。本書は平易な言葉で書かれていて、イスラエルという国の歴史と問題点がわかりやすくまとめられていた。この問題を考えていく上、大いに役立つ本だった。
■読書会のトークテーマ(以下ネタばれあり)
1. この本で一番印象に残った事実は何ですか?
1948年の5月のイスラエル建国 3票
・つい最近の建国!ということを恥ずかしながら知らなかった。
第二次世界大戦後の民族自決の流れで、パレスチナという所に
既に住民がいたのに、後から入って国を作ったことに驚いた。
・シオニズムという思想で2000年近く離散していた人々が
その思いだけで国家を作ったということに驚く。自分の
ルーツが華僑で、同じ民族であれば、国は違えど繋がって
いられるという考えで、リスク回避でまとまらない点も
あり、ユダヤの人がどういう価値観なのか気になった。
・ややこしそうで見てみないふりをして来たが、はじめて
考えた。ユダヤ教は選民思想があって、戻ってきたいという
思いで実際に戻ってきたが、住んでいる人がいるのに
追い出して作ったんだということに驚いた。自分がされたら
絶対に呪う。
ラビン首相が暗殺されたこと 2票
・一言で言うと「惜しいな」と思った。その後に罪もない沢山
の人が亡くなっているから、この人が生きていたらもっと
変わった未来だったのではないかと思う。
・せっかくオスロ合意で和平が進もうとしたのに、暗殺で途絶
えて惜しかった。防弾チョッキを着ていなかったことも
悔やまれる。この暗殺がなければ和平が進んでいたのか
と思う。ドラァグクイーンのルドミラさんがオスロ合意の映画
「OSLO」 を勧めていた
ユダヤ人の種族の違いが沢山あること 2票
・多種多様。ヨーロッパからアフリカ、エチオピアの奥地まで
沢山の種族がいて、それぞれが長年ユダヤのアイデンティティ
を持ち続けていたことに驚く。ホロコーストで約600万人が
亡くなったのに、それでも沢山いる所も凄い。
・同じユダヤ系だが、ヨーロッパから来た人と中東やアフリカ
から来た人で、国に受け入れる時の待遇が違っていた。
同じユダヤ人なのに、えーそんなことするんだ!?と驚いた。
アメリカの立場の複雑さ 2票
・アメリカのユダヤ人がリベラルで圧倒的に民主党を支持
しているのに、ユダヤでないキリスト教の宗派や解釈の
問題で、現状のリベラルとは言えないイスラエルを支持
してしまっていることに驚いた。
・安保理決議で唯一拒否権を行使しているウクライナとの
ダブルスタンダードに失望。やはり昔先住民を追い出して
できた国なので、同根の問題を抱えるイスラエルを非難
できないのではないかと思った。
イスラエルが占領地に入植活動を行っていること 1票
・国際法違反であり、21世紀に植民地時代と同じことを
やっている。アパルトヘイトに近いものでもあり応援
できない。
ユダヤ教の超正統派女性の権利を蔑ろにしている所 1票
・最近のキャンペーンで行われていたところに驚いた。
イスラエルは兵役も男女平等にあると聞いていたので
もっとフラットなジェンダー意識を持っている国だと
思っていた。
2. この本に出てきた人で一番印象に残った人は誰ですか?
ラビン 4票
・ルース・ベイダー・ギンズバーグさんというアメリカの
最高裁判事の映画にオスロ会議の握手が出てきて、
印象に残った。平和になると思ったのに、平和の解釈の
違いや、価値観の異なる人たちとの付き合いの複雑さ
を考えさせられた。
・和平をするために協力をしたり、嫌いなアラファトとも
感情を抜きにして、動いた。
・ぶっきらぼうでもスカッとしたパレスチナ生まれのユダヤ人。
立派だった。「和平は友人とではなく、全く共感が
できない相手と結ぶものだ」という言葉に本気さを感じた。
・リーダーシップのお手本として、大いに参考になった。
上に立つ人は仲良しこよしではなく孤独でも判断しなければ
ならないことがある。ラビンは強い信念をもっていた。
亡くなったからこそ伝説になった。
べン・グリオン 1票
・ベン・グリオンが語った「ベングリオンの三角形」は
イスラエルのみならず普遍的な意味を持つ。
オスロ合意にも大きな影響を与えている。
バッセム・タミミ 1票
・生涯を通じて占領反対を訴えてきた活躍家であり、
パレスチナの非暴力抵抗主義者としてよく知られた
人物。子供たちを海に連れていきたい・投票権が
欲しいという願望から、イスラエルの過酷な統治が
浮かび上がってきて、応援したいと思い、印象に残った。
ダニエル・ソカッチ 1票
・この本の筆者本人。ユダヤ人の方々は悲しい歴史を持つが
世界中に散り散りバラバラになったけど、ユダヤ人という
アイデンティティをどのようにして持ち続けていたのかな
と思い、興味を持った。日本人だとそういう考えに至るのか?
筆者を通じて考えさせられた。
アイマン・オデー 1票
・アラブ系イスラエル人の活動家。
すべてのイスラエル人のために闘いたいという言葉に、
アラブ人のイメージを崩された。こういう物静かで
覚悟が決まった人が出てくるとこれからの時代も
変わるのではないかと思い、うれしかった。
トランプ元大統領 1票
・なんでそんなネタニヤフと親密な関係なの?と思ったり
アメリカの1/4が福音派で宗教的に道具としてぴったり
ハマったことや、娘の配偶者との関係などあって
謎が少し解けて印象に残った。
ネタニヤフ 1票
・良い人とか悪い人とかではなく、長期政権で引っ張って、
票を集めているカリスマ性が凄い。好戦的で実際に戦って
いるのに、多数を引き付ける。選ばれ続けていることから
イスラエルの国民性もあるのではないかと思う。
アブドゥル=ナセル エジプト大統領 1票
・昭和のギャグ「成さばなる 成さねばならぬ何事も
ナセルはアラブの大統領」で興味を持ったが、
YouTubeに演説している映像があって、カリスマ性があって、
聴衆の熱狂が凄かった。アラブのスーパーヒーロー。
3. この先、イスラエルはどういう選択をすると思いますか?
意見1
南アフリカのように分離独立
ガザはパレスチナに、ヨルダン川西岸はバチカンのような
中立国を作り、3つの宗教の聖地として独立。
1945年時点は人権や民族消滅という危機があったが
今の時代はもう古い。戦争も火力ではなくサイバーや
新技術を用いるから国土面積はいらないのではないか。
意見2
結局アメリカの政策に左右される。
ラファ侵攻についてもアメリカが拒否権を行使した。
しかし、アメリカも意見が割れている。アメリカ以外は
まとまっているので、アメリカの国論次第だと思う。
意見3
ユダヤ教/キリスト教/イスラム教は厳しい時代に生まれた
宗教。男が優位なのはその影響。試練や苦難に耐えるための
ものだけど、厳しい現状があり、なかなか変われないと
思うので、まだまだ混乱は続くのではないか。最終的には
難民を移送するビジネスが出てきそうで怖い。
意見4
パレスチナ人民のハマスへの支持が、調査を行うと根強い。
ハマスは原理主義に近く、武装闘争を掲げているので、
和平はしばらくは厳しいと思う。
意見5
行くとこまでいく。イスラエルは攻撃し続ける。
ネタニヤフの本心はわからないけど、下からの突き上げで
今更やめられない。止められないのではないか。
和平を切り出すと暗殺されてしまいそう。
意見6
ロスチャイルドがどうすれば儲かるかという視点で考えると
戦争をしていた方が経済が回って良い。ウクライナはもう
戦争が終わってしまいそうなので、きっとイスラエルでの
戦争が続く。終結よりも戦争状態が経済的に良いので、
残念ながら続く。
意見7
パレスチナの聖地は完全封鎖。バーチャルリアリティだけで
のみ立ち入りやお互いの生活を経験できるようにして、
草の根活動的に相互理解を進めていけたら良いなとは思う。
理想論だがバーチャルで繋がって相互理解やボーダレスという考えが
生まれると良い。
意見8
イスラエルはずっと殺し合いを続けるのではないか。
ただ、殺し過ぎが全世界に情報として流れていて、
それを見たイスラエルの若い世代が影響を受けて
宗教観や平和への価値観が変わるかもしれない。
意見9
イスラエル国家建国宣言がとにかく素晴らしいので、
そこに回帰してほしい。すべての宗教や人種に寛容。
ユダヤ人は学ぶ国民。やっていることの矛盾に気付いてほしい
意識高い系の国であるということを思い出してほしい。
意見10
闘い続ける。アメリカに平和を望むリーダーが出てこないと駄目。
争うのは仕方がないかなと思って、そこをやめろというのは厳しいが、
デジタルやバーチャルで人が死なない方法で勝負ができないのかなと思う。
意見11
指導者による。ラビンのような人が現れれば好転の兆しが
見えるが、そうじゃないと難しい。また、宗教というのは
個人の心のよりどころであるべきものが解釈が出てきて
しまう。世界中の良心や価値観の変化や技術革新などを
活かしながら考えていかなければいけないと思う。ただ
ISのようなネットを使った宗教には気を付けなければならない。
以上