【ボン】2020年ベートーヴェン生誕250周年に向かって活気づく街が注目されるワケとは
3Bと呼ばれるドイツが輩出した偉大な作曲家たち。バッハ、ベートーヴェン、ブラームスの3人だ。なかでもボン生まれのベートーヴェンは、2020年に生誕250周年を迎えるとあって、いま世界で最も注目を浴びている音楽家だろう。
ボンは、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven・1770-1827)がウィーンに拠点を移す22歳まで暮らした街。
生家は現在博物館「ベートーヴェンハウス」として公開されており、この街を訪れた人が必ず足を運ぶスポットだ。また毎年秋にはベートーヴェン音楽祭が開催され好評を博している。
クラッシック音楽ファンでなくても、ベートーヴェンの「エリーゼのために」や「運命」などの名作を耳にしたことがあるに違いない。
「楽聖」と称えられる作曲家がこの街で生まれてから2020年で250周年を迎える。
フランク・ヴァルター・シュタインマイヤー連邦大統領主催の下、2019年12月から1年にわたり特別コンサートや記念行事など盛りだくさんのイベントが開催される予定だ。
ボンは、どんな様子なのか現地を訪ねた。
BTHVN2020
ドイツ西部、ライン川沿いに位置するボンは、第二次世界大戦後から1999年までドイツ連邦共和国(西ドイツ)の首都として脚光を浴びた。東西統一後ボンは、連邦政府機関の多くが首都ベルリンへ移転したため、かつてのように世間の耳目を集めることことは少なくなった。
一方、政界人の往来は減少したとはいえ、依然としてボンを訪れる人は絶えない。目指すのは、ベートーヴェンの生家とベートーヴェン音楽祭だ。また、ドイツの歴史を知る博物館や美術館もあり、観光を楽しめる街としても人気だ。
今、ボンで話題の中心となっているテーマは、2020年に迎えるベートーヴェン生誕250周年だ。現地でベートーヴェンハウス財団ディレクターのマルテ・ベッヒャー氏(Malte Boecher)にお話を伺う機会を得た。
「この特別記念イベントがボンで催されるのは、2019年12月16日から2020年12月17日まで。中心となるのは、ベートーヴェンハウス財団の傘下に立ち上げられた「BTHVN2020」準備委員会・いわゆるプロジェクトチーム(Beethoven Jubilaeums GmbH)です。
今年11月上旬にはイベント期間中のプログラムもほぼ固まり、本格的な準備が始まります。
また、BTNVN2020を率いる責任者ラルフ・ビルクナー氏(Ralf Birkner)と広報チーフのクラウディア・ウェラーさん(Dr. Claudia Weller)にもお目にかかることが出来た。
プロジェクト名「BTHVN2020」の「BTHVN」は、彼がサインをする際に母音を省いて短縮したBthvnと記したことに由来します。さらに、ここには生誕250周年の特別な思いが込められています。
B: Bonner Buerger ボン市民
T: Tonkustler 音の達人
H: Humanist 人道主義者
V: Visionaer 夢想家
N: Naturfreund 自然愛好者
これらを掘り下げてみると以下の通りだ。
B: 街の偉大な息子ベートーヴェンは、1770年12月ボンに生まれ、22歳まで暮らした。特別記念祭期間中は、市民祭りや街全体のイルミネーション、次世代の若者たちを対象としたプロジェクトなど盛りだくさんの行事が繰り広げられる。
T: 彼の作品は340にも上るが、記念イベント中は可能な限り広く届ける。国際的な舞台で活躍する音楽家のコンサートを始め、ジャズ、ロック、ポップ音楽とベートーヴェン作品のコラボレーションなどを催す。
H: ベートーヴェンは理想的な社会の実現目指して、音楽を通じてヒューマニストの使命を果たそうとしたと言われる。理想的な社会とは、人はみな平等で兄弟みたいになること、民主制度、国民主権など。ドイツ国内で2500回に上るコンサートを開催。
V:未来に向けて国境を越えたプロジェクト、ボンからウィーンやベートーヴェンゆかりの地でのフェスティバルを計画。ビジュアルを用いた音楽「プログラム」などを提供する。
N:1807年から1808年の間にウィーン近郊(現在のウィーン第19区)で作曲した「交響曲第六番田園」は、代表作の一つ。自然を愛し、自然の中で癒し、孤独感とインスピレーションを得たベートーヴェンを偲んだテーマ。
という5つの主軸BTHVNに沿ったもの。偉大な作曲家として名声を得たベートーヴェンだが、それとは別に一人の人間としてどんな側面を持っていたのかを知ることが出来るだろう。
ボンが誇る偉大な息子
ベートーヴェンは、祖父が宮廷楽長、父が宮廷歌手という家系で育った。その父の指導で幼いころからピアノのレッスンを受けた。厳しい英才教育をつけた父の夢は、息子が幼少のモーツァルトのような宮廷音楽家として成功する事だった。
ベートーヴェンは、めきめきとその頭角を現し、なんと7歳で、ケルンにて初の演奏会を行った。さらに12歳には初めて自作を発表した。のちにボンの宮廷楽団の奏者となった彼は、音楽家として輝かしいスタートを果たし22歳でウィーンヘ出向き、多くの作品を生み出し成功を収めた。
ところが、27歳の頃から難聴に苦しみ48歳で完全に聴力を失い、1827年オーストリア・ウィーンで終焉を迎えた。彼の作品は340にも上るが、自分の耳では聴くことができなかったもののひとつが、交響曲第九番だそう。
大学の街、そして博物館通りで歴史と文化を堪能
ボンは大学の街としても知られる。今年は、数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞をボン大学教授ペーター・ショルツェ氏(Peter Scholze)が授与されて注目を浴びた。同氏は、なんと30歳という若さで受賞者4人のうちの1人に選ばれるという快挙を遂げた。
マックスプランク研究所(ドイツを代表する学術研究機関)のディレクターを兼任する同氏は、米国学術界からも引く手あまただが、母校のボン大学に留まった。
この大学校舎から南に向かう地下鉄を利用し、ホイスアレー/ミュージアムマイル(Heussalle/Museumsmeile )駅で降りると博物館通り(ミュージアムマイル)と呼ばれるフリードリッヒ・エベルト通り(Friedlich-Ebert‐Allee)の並木道に到着。この通りには、ドイツの歴史を知る博物館、ボン市立美術館、国立絵画展示館などが軒を連ねている。
なかでもドイツ歴史博物館は、地下鉄から下車してそのまま入口に通じているので大変アクセスしやすい。何度訪れても新しい発見がある内容の濃い展示が魅力だ。しかも入場は無料。平日でもグループ訪問者や家族連れの姿が見られた。今回は展示の最後に、難民テーマが追加されており、興味深い説明があった。
クラツシック音楽は、ちょっと敷居が高いと身構えてしまう人もいるかもしれない。だが、ベートーヴェン生誕250周年記念イベントを契機として気軽に音楽を楽しんでみたい。
まずは、日本では12月の定番音楽となった「第九」を聴きながら、ベートーヴェンに思いを馳せてみるのはいかがだろうか。