永瀬拓矢王座が勝ってタイに。復調の証となった「と金のタダ捨て」~第69期王座戦五番勝負第2局~
15日、第69期王座戦五番勝負第2局が行われ、永瀬拓矢王座(29)が挑戦者の木村一基九段(48)に勝って通算1勝1敗のタイとした。
先手番の木村九段が得意の相掛かりに誘導し、一手一手が難しい形勢判断のつきにくい将棋になった。
中盤で攻め込んだのは木村九段。飛車を切って一気に襲い掛かる。
しかしそこをこらえた永瀬王座が、終盤に見事な指しまわしをみせて勝ちをもぎとった。
玉の逃亡
第1局では木村九段の名手△9九角が話題となった。しかし裏を返せば永瀬王座がその手を食らってしまったことになる。慎重な棋風の永瀬王座としては珍しく、やや精彩を欠いたようにみえた。
その直後に行われた第4回ABEMAトーナメント(準決勝、vsチーム木村)でも、結果こそ2勝1敗とタイトルホルダーの貫禄は示したものの、内容的にはいつもの強さが影を潜めていた。
永瀬王座は8月に藤井聡太三冠(19)との初の番勝負となる第34期竜王戦挑戦者決定三番勝負を戦い、敗れた。調子を崩していたのは喪失感が要因かもしれない。
しかし日にちが空いたこともあってか、本局はいつもの強さを取り戻していた。
ペースを握ったのは中盤でみせた玉の早逃げだった。
この▲7四歩は次に▲6二飛という手を狙っている。△同金は▲同成香から詰みがあり、△4一玉と逃げても▲7二飛成と金をタダで取られて受けが難しい。
つまり△7八となどで攻め合うのは負け筋となる。
そこで図から△4二玉▲7三歩成△3四歩▲7二と△3三玉と早逃げしたのが好判断だった。
こうした逃げ方は敗走と紙一重である。しかし本局の場合は△7八とという確実な攻めが残っているため、効果的な早逃げだった。
と金のタダ捨て
そして迎えた終盤戦。と金のタダ捨てが勝ちをたぐりよせる一手となった。
7八にいたと金を6八に寄った図だ。▲同角と取られてしまうが、△6七銀が厳しい攻めになる。角が逃げれば△7八飛の王手が厳しく先手玉はもたない。
ただ△6七銀には▲5六桂という勝負手がある。以下△6八銀成には▲4五桂から長手数の詰みがあり、後手は△2二金打と受ける必要がある。
以下▲4三桂成△同玉▲4四金△4二玉に▲9五角が角を逃げつつ詰めろをかける絶好の一手にみえる。
▲5一角成までの詰みを受けるのは尋常な手では難しい。
しかし、△7八飛▲3九玉△1七角▲2八歩△2七桂▲2九玉△4四角成という好手順がある。
最後の△4四角成によって逃げ道をふさぐ金を除去し、先手玉に△1九金の詰めろをかけている。いわゆる詰めろ逃れの詰めろだ。
こうなれば後手の勝ちとなる。
いまの手順以外にも△6八とに対して様々な手段があるが、先手に勝ちを導く手は残されていなかった。
後手は第2図で△6八と以外に勝ちを引き寄せる手段はなく、たった一つしかない正解ルートを永瀬王座はつかみとったのである。
永瀬王座復調、木村九段は正念場へ
△6八とのような手は相手に手段を委ねており、好手を指されたら負ける怖さがある。不調時は自分の読みに自信が持てず、こうした手を指すのをためらってしまう。
もちろん読み切れてしまえば指せるのだが、第2図は限られた時間内では読み切れないほど難解な局面だ。
感想戦を聞いていても永瀬王座はすべてを読み切っていたわけではなかった。
しかしそれでもこの手を指し、勝利をもぎとった。それは永瀬王座の復調の証であると筆者はみる。
ここ最近、永瀬王座は成績がやや伸び悩んでいる。本局を落とせば王座防衛にも黄色信号が灯り、「4強」からの脱落もみえるところだった。
まさに正念場ともいえる一局を制した。
第3局は22日(水)に行われる。その前に木村九段は20日(祝・月)に藤井三冠と第79期名人戦・順位戦B級1組を戦う。
この対局が22日に及ぼす影響は大きいだろう。
木村九段としては、勝てば当然いい影響をもって22日に臨めるし、悪い内容で負ければ疲労と共に精神的にも引きずってしまうだろう。
今度は木村九段が正念場を迎える番だ。これまでも苦しい場面を乗り越えてきた木村九段の戦いぶりに注目したい。