日産ブランド「泥沼」 過剰設備と北米販売金融の苦境で、3期連続の赤字が視野
2年連続で6700億円の巨額赤字
日産自動車が28日発表した2021年3月期決算の業績見通しは、最終損益が6700億円の赤字となる。20年3月期は6712億円の最終赤字を計上しており、2期連続の巨額赤字だ。
21年3月期は、新型コロナウイルスの影響でグローバル販売台数が前年同期比16・3%マイナスの約413万台に減少すると見込まれることなどから4700億円の営業赤字を計上。これに加え、傘下の三菱自動車が3600億円の最終赤字になることに伴う持ち分法適用会社の損失や工場の操業停止対応費用、特別退職手当などの構造改革費用を特別損失として計上したことが響いた。
「売れば売るほど損する」残存価値の低下
20年3月期の営業赤字は405億円。そこから赤字額が4295億円拡大して21年3月期に4700億円の赤字となる要因の詳細は次の通りだ。販売減の影響で4250億円、為替の影響で400億円、リースバックされた(ローン終了の)車両の残存価値の減少の影響で850億円の計5500億円がマイナス要因。プラス要因として固定費削減が1205億円。1205億円-5500億円=-4295憶円となった。
新型コロナウイルス禍の影響による販売減は各社共通の苦しみだが、今の日産の苦境を象徴しているのが残存価値減少による850億円のマイナスだ。自動車メーカーは北米を中心に高級車を残価設定型のローンで販売している。あらかじめ高額の残価を設定して3年程度をめどにローンを組み、毎月の支払額を少なくして所得の少ない人にも高級車を売ることが可能ととなるローンのことだ。
このローンの収益構造は、引き取った中古車が残価よりも高く売れることで成り立っている。そのため、一定のブランド力があり中古車価格が維持できるメーカーでないとうま味がない。そればかりか、中古車が残価より安いと新車を売れば売るほどメーカーが損をするようになり、収益を圧迫していく。
北米では新型SUV「ローグ」で反転攻勢へ
日産は「ゴーン経営」時代に北米で無理な値引き販売をして台数のみを追求したので、ブランド価値が下がり、それが中古車の残価の減少を招いた。特に「フリート販売」と呼ばれるレンタカー向けに値引き販売をして押し込んだことがブランド価値を毀損する大きな要因となった。ただ現在は、「北米では1台当たりの小売価格が700ドル上昇して改善している」(アシュワニ・グプタCOO)とのことで、大幅な値引き販売をやめてブランド力向上に取り組んでいるが、すぐに効果は出にくい。
ただ、日産は「北米で人気のあるSUVの『ローグ』をモデルチェンジしてこれから値引き販売を抑えて売っていくので収益性は徐々に改善できる。『ローグ』に限らず他にも商品力のある新車を投入していく計画なので、残価の問題は解消できるだろう」と説明する。
「マツダ地獄」と同じ構造
実は日産が1990年代後半に経営危機に陥った理由の一つが、同じく北米での中古車の残存価値の低下により、売れば売るほど損をする状況に追い込まれたことだった。この残存価値の低下はいったん負のスパイラルに落ち込むと、抜け出すのは至難の業だ。日産は20余年前と同じ失敗を繰り返しているように見える。
他社の例ではかつて「マツダ地獄」と揶揄され、マツダ車を買うと、下取り価格が安いので次の新車もマツダ車しか買えない時代が続いたが、その理由も同じようなことだ。マツダは顧客が価値を認める「スカイアクティブエンジン」搭載の新型車を出すことなどによって大幅な値引き販売をやめることができ、ようやく「マツダ地獄」から脱した。
赤字がさらに膨らみ「1兆円説」
日産が28日に同時に発表した21年3月期の第一・四半期(20年4~6月)決算も、営業損益が前年同期の16億円の黒字から1539億円の赤字、最終損益が64億円の黒字から2856億円の赤字に転落。グローバル販売台数が47・7%減の約64万台に落ち込んだことなどが響いた。販売減に伴って生産台数も大きく落ち込んでおり、たとえば北米生産は82%減の約6万3000台、国内生産は67%減の約6万台だった。
第二・四半期、第三・四半期も厳しい情勢が続き、日産は第四・四半期以降に回復すると見ている。しかし、21年3月期決算の通期での世界生産台数はよくて380万台程度。前年同期から70万台以上も生産が落ち込むことになる。実際の生産能力との乖離が大きく、工場の稼働率は50%~60%と見られる。日産の損益分岐点は稼働率80%と言われているので、こうした状況から考えると、6700億円の赤字がさらに拡大する可能性もあり、「販売回復に手間取れば最終赤字が1兆円近くになるかもしれない」(日産元幹部)との見方もある。
日産は5月28日に発表した中期経営計画「日産NEXT」(20~23年度)で、22年3月期には黒字化して営業利益率2%以上を収益目標の一つに掲げている。しかし、この目標達成も厳しい状況に追い込まれそうだ。
足を引っ張る北米
今年4~6月の中国における日産の生産台数は前年同期を上回るほど回復しており、販売の落ち込みも小さいだけに中国での収益を当てにしている面がある。しかし、「営業利益率2%」は、中国事業の業績をすべて連結決算に取り入れるフル連結にした場合の数字であり、あくまで日産社内での管理指標。外部に公開する東京証券取引所に届ける決算データは中国事業をフル連結ではなく、持ち分法適用にしなければならないため、中国事業の収益がすべて決算に入れられず、営業利益率が落ちる。
さらに日産が収益源としている北米事業が営業赤字に転落しており、前述した「残存価格問題」もあって業績の足を引っ張っており、すぐに回復は見込めないだろう。新型コロナ問題の収束も見通せない中、この厳しい生産、販売情勢が続けば、22年3月期も黒字化は見込めず、3期連続の赤字も視野に入ってくる。
こうした見方に対して日産は「新型コロナの問題がこれ以上市場に影響を及ぼさず、新車が売れるようになれば22年3月期には反転して、中国事業を持ち分法適用にしても黒字化する」と説明する。
いずれ内田社長の進退を問う声も
20年3月期と21年3月期の2年連続の赤字は、「ゴーン経営」時代の負の遺産の処理の面もあったが、3年連続の赤字となれば、構造改革に全責任を負うことを明言している内田誠社長の進退を問う声が出始めるだろう。今の日産は社外取締役で構成される指名委員会が経営トップを決める仕組みとなっている。
「すでに一部の社外取締役が外部のコンサルティング企業を使って内田社長の経営者としての資質や手腕の調査を始めた」と日産関係者は明かす。
新型コロナウイルス禍という予期せぬ問題が浮上したとはいえ、日産の経営が健全化し、安定する道筋はまだ見えていない。