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渡瀬恒彦さん、撮影所でも絶大な人気者だった

中西正男芸能記者

14日に俳優・渡瀬恒彦さんが亡くなった。

17日に営まれた密葬では、自らも闘病中で公の場にはほとんど出てきていない兄・渡哲也がマスコミ対応。病床でも、出演予定だったドラマのセリフを覚えていた、など最期まで衰えることのなかった弟の情熱を明かした。

コワモテ俳優と評判だったが…

渡瀬さんとは不思議と縁があり、僕がデイリースポーツに入社したての20代半ばの頃から度々取材をさせてもらった。

最初に取材をしたのは、東映京都撮影所にある渡瀬さん専用の部屋。東映の撮影所には、小学校の教室の入口に“○年△組”みたいな札がつけられているように、部屋の入口に渡瀬さんや松方弘樹さんの名前を書いた小さな木の札が掲げられた看板俳優さん専用の部屋があるのだが、その中でのインタビューだった。

先輩記者から「渡瀬さん、若い頃は□□さんも、△△さんもシメた人だからな…」などと有名なコワモテ俳優をぶちのめした武勇伝を吹き込まれ、なんとも言えない緊張感で入室。こちらは完全にビビッているため質問が滞る場面もたびたびあったのだが、全くイラつくそぶりもなく「大丈夫、大丈夫!!」と柔和な笑顔を返してもらったことを昨日のことのように思い出す。

ただ、優しさの中にも、すごみを感じたのは渡瀬さんのオーラ。座っていようが、スタッフさんと雑談していようが、そこらへんを歩いていようが、渡瀬さんの半径2メートルくらいは芝居の空気というか、映画の空気というか、何をしていても絵になる存在感と、容易には近づけない迫力があったこともしっかりと覚えている。

男気と親分肌が魅力だった

年代的には個人的に深い付き合いがあったわけではないが、大先輩の記者に話を聞くと、みんな同じようなことを力説する。

「もし、京都の撮影所の昔からのスタッフさんに『あなたが好きなスターさんは?』というアンケートをとったとしたら、名だたるスターの中でも間違いなくトップクラスに入ってくるのが渡瀬さん。豪快さと陽気さで愛されたのが松方弘樹さんだとすると、男気と親分肌で愛されたのが渡瀬さんだった。

京都にあった渡瀬さんの家は、当時、スタッフのたまり場にもなっていたし、本当に多くの人から慕われる存在だった」(京都の撮影所をよく知るベテラン記者)。

悪役や斬られ役にも光を!

今でこそ、悪役や斬られ役にも光があたる世の中になったが、実は、その源流を作ったのも渡瀬さん。忘年会などの場で大部屋の悪役俳優を集め、彼らの話を聞くうちに「なんとか、こいつらが出る流れも作れないものか」と考え、自らが発起人となり“ピラニア軍団”を立ち上げさせ、主役以外も脚光を浴びるシステムを考案した。

「昔は、今なんかと比べ物にならないほど、主役と脇役の差が歴然としていた。光があたるのは主役だけ。そのほかは、文字どおり、死に役だった。その時代で、この考え方ができるのは画期的なこと」(前出ベテラン記者)。

圧倒的な男気で、周りの人間の心をわしづかみにした渡瀬さん。とてつもなく分厚いページがまた閉じてしまった。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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