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斧で車をこじ開けて救出されたタイガー・ウッズ。「命に別状はない」が、「命を落とさなかったのは奇跡」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

「命を落とさなかったのは奇跡だ」

ロサンゼルス市警のポリス・オフィサーの言葉が、タイガー・ウッズの交通事故の激しさを物語っていた。

米メディアによると、ウッズが単独事故を起こしたのはロサンゼルス南西部の高級住宅街パロスベルデスを南北に走るホーソーン・ブルーバード上の下り坂だった。地元の警察官は「あの下り坂は事故多発地帯です」と言っていたが、地元の住民は「あそこはギアを落として走れば、さほどの急傾斜ではないから、事故を起こすような道ではない」とも言っている。

だが、ウッズは事故を起こしてしまった。2月23日の午前7時12分。雲一つない快晴の朝、閑静な住宅街に「ガツン、ガツン、ガツン」という轟音が数回鳴り響いたそうだ。

音を聞いて飛び出してきた近所の住民が911に緊急通報。約10分後、ロサンゼルス郡警察が駆け付けたとき、ヒュンダイ製の高級SUV車「ジェネシスGV80」が道路から6メートル以上も離れた脇のブッシュの中で、横転した状態になっていた。車のサイドボディには、先週、ロサンゼルス近郊のリビエラCCで開催されたジェネシス招待の大会ロゴが記されていた。

このとき、その車の運転席にいる人物がタイガー・ウッズであることは、警察官も、駆け付けた近所の人々も誰一人、「想像もしていなかった」。

車両は大破しており、主に前部の損傷が激しかった。警察官は周囲の状況から、車両が数回、横転したことが、すぐにわかったという。

「運転手は意識があり、シートベルトも着用していた」

そのとき、運転手がウッズであることが初めてわかった。ウッズは車の中に閉じ込められた状態だった。消防署のクレーン車の出動要請はすでに行なわれていたが、救出に当たった警察官らはクレーンを待つ間、咄嗟の判断で斧のようなものを使って車をこじ開け、ウッズを引っ張り出した。

「意識はしっかりしていたが、出血量はかなり多かった。足首を負傷しており、脚は左右とも複数のケガが見て取れた。とりわけ片方の脚の損傷が激しかった。命を落とさなかったことは奇跡だ」

ウッズが見事な勝利を挙げたとき、また1つ、新たなメジャー優勝を飾ったとき、米ゴルフ界、いや世界のゴルフ界が歓喜し、大勢のファンが歓喜に酔いしれたことが、これまで幾度あったことだろう。

しかし、その逆で、ウッズの「まさか」の出来事に戦慄を覚えたことは、これが3度目になる。

2009年11月27日にウッズがフロリダ州オーランドの自宅近くで消火栓にぶつかった小さな交通事故は、その後、未曽有の不倫騒動へと発展していった。

2度目は、2017年5月29日の早朝3時(現地時間)。フロリダ州ジュピターの自宅近くの路上に停止していた車の中で朦朧とした状態のウッズがDUIで逮捕されたという一報は、世界を驚かせた。

今回の交通事故は3度目の衝撃となった。運転していたのは、先週、大会ホストを務めたジェネシス招待のタイトル・スポンサーの車。常にスポンサーに対して義理堅く、真摯な姿勢であるウッズらしいなと感じさせられる。

報道を聞いた米国のゴルフファンの中には、昨年1月に突然この世を去った元NBAスター選手、コービー・ブライアントのヘリコプター事故のことが「頭によぎった」という人々も多い様子だ。

米ツアー仲間であるオーストラリア出身のアダム・スコットも「タイガーやコービーはアンタッチャブルだと思われがちだが、そうではない。彼らも人間なんだ。ただただ回復を祈っています」と悲痛な表情で語ったという。

ウッズは昨年12月に長男チャーリーくんと父子でPNCチャンピオンシップに出場し、元気な姿を見せていたが、実際は、その試合の間に腰に痛みを覚え、大会後に生涯5度目の腰の手術を受けていた。

そのリハビリ途上だったため、先週のジェネシス招待には出場できず、大会ホストの役割を縮小して務めていた。4月のマスターズ出場が期待されていたが、「僕も出場できたらいいなと思っている」と言うにとどめ、出場の可否は明言しなかった。

今回の交通事故で、もはやマスターズ出場の可否どころではなくなったことだけは確かであり、今はウッズの回復を祈るばかりである。

現地からの一報によれば、ウッズの命に別状はないとのこと。「命を落とさなかったのは奇跡だ」という言葉が示す通り、命に別状がないという今の状態はさらなる奇跡。ゴルファーとしての再起の可能性は、もちろん気になるが、今は、ただただその奇跡に感謝し、ウッズの回復を祈っている。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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