Yahoo!ニュース

ブラッド・ピットと連絡を取り合っていますが、本人ではないのでしょうか?被害に遭わないために必要なこと

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:アフロ)

「数日前から、ブラッド・ピットと連絡を取り合っていますが、本人ではないのでしょうか?」

著名人になりすました男に、お金を騙し取られた40代女性の記事「著名人ディープフェイク詐欺、国内初確認か?ブラッド・ピット、マーク・ハーモン…ハリウッド詐欺日本に上陸!」を読んだ、60代の女性から連絡をもらいました。

話を聞けば、Instagramで出会った後、すでにブラッド・ピットとLINEの交換をしているとのことでした。やはり、このなりすましの手口に引っ掛かっている方が多くいるようです。さっそく、詳しく話を伺いました。

なぜ、本人だと信じてしまったのでしょうか?

前回の記事では、ブラッド・ピット本人と思わせる人物を画面に出してきて、ビデオ通話をさせることで女性を信じさせようとしてきましたが、今回は?

出会いは、InstagramのリクエストとDMから

今年1月、Instagramにブラッド・ピットを名乗る男からのリクエスト申請が「Hello」というDMとともに届けられました。彼女はブラッド・ピット本人からの連絡だろうかと思い「Nice to meet you」と返事をしてつながります。

男は「ここは公式アカウントなので、あまり使っていない。LINEでメッセージのやりとりをしたい」といいます。

しかし彼女は躊躇します。

実は、昨年末より「YOSHIKI」のなりすましと思われる人物とLINEで連絡を取り合い、面倒な目に遭って警察にも相談に行っていたからです。

そこで彼女は「有名人のなりすましが多く、詐欺もあるので、あなたが本人かどうかわからない……」とLINE交換を躊躇します。

すると、相手は「今、自分を証明するものは、免許証しかないけれど」といって、ブラッド・ピットの顔写真のついたDRIVER LICENSEの画像を送ってきました。

そして「ファンに、こんなものを見せるのは初めてなんだ。この話は絶対に誰にも言わないと、約束して欲しい」といいます。

情報提供者に送られてきた、DRIVER LICENSEの写真(筆者加工)
情報提供者に送られてきた、DRIVER LICENSEの写真(筆者加工)

それを見て、彼女は、やはり本人かもしれないと思い、LINEでつながります。

しかし「誰にも言わないよう」に釘を刺して周りに相談できない状況を作り、「あなたと僕との秘密」といって特別意識を持たせて信じさせようとする手口は、国際ロマンス詐欺などでも使われていますので、このDRIVER LICENSEも偽物とみて間違いないでしょう。

個人情報を教えることの危険

「メッセージのやりとりは英語ですか?」と、筆者が尋ねると「彼は日本語もできるというので、日本語でやりとりをしました」と答えます。

しかしその日本語があまりにも下手だったので、彼に言ったそうです。

「きちんと、日本語の勉強をした方がいいですよ」

彼女はオンラインで日本語の勉強を教えていましたので、「機会があれば、ここで勉強してみてはどうですか?」と、自身が指導している教室のHPのURLを送りました。

「おこがましいことですが、ブラッド・ピット本人を、自らの勉強の場に誘ってみました」と彼女は話します。

それを聞いて筆者は「危険ですね。こちらの個人情報を詐欺師に教えてしまいましたから」と危険性を話しましたが、彼女は「でも、自己紹介のページにもURLを載せているので、大丈夫かと思いました」と答えます。

「実は、詐欺師たちは、多くの人に詐欺のアプローチをしていますので、相手の自己紹介のページをろくに見ていないのです」

時に、筆者が国際ロマンス詐欺関連の記事をSNS上にアップすると、詐欺師と思われる女性たちからも「いいね」をつけられることがよくあります。

過去には、友達申請してきた詐欺師と思われる女性に「自己紹介を見ましたか?」と尋ねると、その後に「ごめんなさい」という返事がきたのを最後に、連絡が途絶えたこともあります。

ここからも詐欺師の側は、筆者の「詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト」の自己紹介などを見ずに、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるで送ってきていることがわかります。

「メッセージなどで個人情報を伝えてしまうと、この人物は詐欺に引っ掛かると思われて、次々に詐欺のアプローチがやってきてしまうことになります。ターゲットに選ばれてしまうことが、とても危険なのです」

「どうすれば…」

「まずは、InstagramでDMをしてきた人物を「・・・」が縦になった部分をタップして通報してください。そしてLINEもブロックしてください」

いつ起こるかわからないトラブルのために、キャプチャーの方法を覚えておく

「ところで、お持ちのスマホで、画面のキャプチャーをできますか?」

「いいえ、できません」

というのも、なりすました相手の画像を送ってほしいとお願いしても、なかなか届かないので「もしや?」と思って聞いてみると、やはりそうでした。

「画面キャプチャーのやり方は覚えておいた方がよいですね。今後もSNSを利用したり、ネットで商品の注文をするのであれば、この方法は知っておいてください。これにより、詐欺などの証拠が押さえられるからです」

今、ネットでのトラブルは増加しています。詐欺だけではなく、誇大な広告で、商品を騙し売りする悪徳商法もみられます。また、数千円で商品をクレジットで買ったつもりが、10万円を超える利用額になっていたケースもありますので、何かおかしいな、と思った時には画面のキャプチャーを撮っておくことをお勧めします。

自分でトラブルの解決ができない時には、「188」(消費者ホットライン)などに相談することになりますが、その時も解決のためには、相手とのやりとりの証拠を握っておき、相談員に見せることも必要になります。

よくあるケースとして「詐欺などで嫌な思いをした」との思いから、メッセージやメールなどのやりとりをすぐに消してしまう人もいますが、それもダメです。画像を証拠として残しておいてから、消去することをお勧めします。不測の事態はその後も起こり得るものなので、証拠を残しておくことは必須です。

彼女がInstagramを始めてから1~2年ですが、こうしたネット上のトラブルを意識した対応をしていない中高年の世代がどうしても狙われてしまいます。

彼女は昨年、Facebookで出会った、YOSHIKIになりすました3~4人の人物とも連絡先を交換していました。今回、その状況を聞こうとしました。ノートにはその事実経過をメモしているようですが、細かく話を確かめていくと、なりすました人物が多いために、どの順番で、どの人物と話した内容なのかなど、かなり混乱しているようでした。

幸い彼女は金銭的被害には遭わなかったからよいですが、もし被害があって警察に行った時、証拠の画像も残っていないなかでは、被害の事実をうまく伝えられないことになります。

著名な人物がSNSを通じて、突然、連絡を取ってくることはない

彼女がつながった相手のLINEIDを教えもらい、ブラッド・ピットになりすました人物と連絡を取ろうとしましたが、検索をしても出てきません。やはり、騙せると思うターゲットを絞って詐欺のアプローチをしかけていることがよくわかります。

そこで、彼女がDMを受けたInstagramのアカウントを検索すると、まったく同じ人物は出てきませんでしたが、実に多くのブラッド・ピットが出てきます。

Instagramに出てきた、なりすましと思われるブラッド・ピットのアカウント画像。なかには公式マークを装うような写真も(筆者加工)
Instagramに出てきた、なりすましと思われるブラッド・ピットのアカウント画像。なかには公式マークを装うような写真も(筆者加工)

彼女がブラッド・ピット本人ではないかと思った要因について、DRIVER LICENSE以外の理由も尋ねました。

すると「なりすました人はいると思いましたが、こうしたなかには、本当の著名人もいるかもしれないと思いまして」と答えます。

そこでお話をしました。

「20年近くテレビなどで芸能人の方々と、数多くのお仕事をさせて頂いていますが、見ず知らずの一般の方にSNSを通じて『友達になりたい』などという連絡をした方は、一人も知りません。もしそうした人物がやってきたとしたら、『なりすましの危険人物』と判断しても、構わないと思います」

彼女はその後、Instagramにブラッド・ピットになりすました人物を通報したところ、相手のアカウントのフォロー人数はゼロになったそうです。すばやく対応してもらえたようです。

知らぬ間にSNSを通じて、詐欺師に情報を与えていることも

今回のケースを通じて、なぜ、中高年の方がなりすまし被害に遭うのかがみえてきたように思います。

SNS利用者の気づかないところで、詐欺グループに情報を渡していることがあります。

たとえば、自分が好きな芸能人をフォローすることで、詐欺師に「その人物のファン」ということが伝わり、その人物になりすましてやってこようとするわけです。

前回の記事の40代の女性も、マーク・ハーモンのなりすましの金銭的被害に遭いましたが、やはり彼が主演するドラマの公式アカウントをフォローしており、おそらくそうした情報をもとにアプローチされたと思われます。

今回の60代女性も、YOSHIKIの音楽が好きでしたので、彼のアカウントをFacebookでフォローしていた情報から、昨年、YOSHIKIになりすました人物からアプローチを受けたと考えてよいでしょう。

SNSでは、いつの間にか自身の趣味嗜好が相手に知られていることがあります。ネット上のトラブルはいつ発生するかわからない。そのことを念頭に置いた上での危機意識を持った利用が何より必要です。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

多田文明の最近の記事