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大ヒットのわけ。『銀魂2』劇場版と配信ドラマ『世にも奇妙な銀魂ちゃん』のすばらしき連携

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「銀魂2 世にも奇妙な銀魂ちゃん』より

人気少年漫画『銀魂』(作:空知英秋)の実写映画化『銀魂2 掟は破るためにこそある』(福田雄一監督)が好評公開中。興収は20億円を突破した。

パート2はパート1より勢いが落ちる例も少なくないが、SNSをざっと見ると、パート2のほうが面白いという意見も散見される。

江戸時代末期、宇宙人に侵略され刀を奪われた武士たちの世界で、万事屋というなんでも屋を営む主人公・坂田銀時(小栗旬)とその仲間たちのSF時代劇コメディ。パート2は原作の「将軍接待篇」と「真選組動乱篇」から構成され、前半笑い、後半アクションと中身充実。

見どころは、CGを駆使したアクションパートが迫力あること、「イケメンの無駄使い」と予告で冗談めかしながら実際は、窪田正孝、三浦春馬などのアラサーイケメン及び、若手イケメン吉沢亮などの勢いのいいアクション(主役の小栗旬のアクションは長年の鍛錬が生きた堂々たる安定感)。これで時代劇版『クローズZERO』もしくは『HIGH &LOW』シリーズのような風情を確立したといっていいかもしれない。

とはいえ主軸はそこだけじゃないはず。『銀魂』の一番の魅力は原作の魅力でもあるパロディ色満載のギャグのはず。かつて島本和彦の漫画『逆境ナイン』(05年)を映画化した際に島本のメタフィクションの構造を学び、それが代表作『勇者ヨシヒコ』シリーズ(11年〜)で開花した福田雄一の自家薬籠中のパロディ及びメタフィクションの難しい部分をとっぱらって徹底的にポップにした笑いがのびのびと生かされている映画が『銀魂2』であり、説明するのも無粋だが、そもそも原作が幕末時代劇のパロディをはじめとして、様々な作品のパロディを盛り込んでいる。

福田もそういう作品を得意としているので水を得たサカナのよう。だからこそバジェットの大きい、たくさんの動員数を狙う実写映画だからか半分くらい締めるかっこいい部分は福田監督である意味があるのか(冗談ですんで)という疑問もある。なぜなら福田は笑いが大好きと公言してはばからないからだ。

そんな福田らしさが徹頭徹尾出ているのがdTV及びYouTubeで配信されている『世にも奇妙な銀魂ちゃん』のほうだろう。

福田が原作でも大好きなエピソードを実写化。『眠れないアル篇』『土方禁煙篇』(配信中)『いくつになっても歯医者はイヤ篇』(9月1日配信)の3本立で、こちらは純粋に笑いに徹している。

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3作中、2本も主演の小栗旬が出ているのが、それだけこの作品に気持ちがあることを感じさせる。本編のおまけ的な配信ドラマは、脇役を使ったスピンオフになることが少なくないからだ。

『眠れないアル篇』は銀時と神楽(橋本環奈)による明日早起きしないといけない時に限って眠れなくなるという、あるあるコント。

福田監督作品で美少女の趣を破壊しまくる橋本環奈はここでも見事に空知×福田の世界を体現。小栗旬とも万事屋チームとして息がすっかり合っている。

『土方禁煙篇』は禁煙のご時世、喫煙者である真選組副長・土方(柳楽優弥)が煙草を吸える場を求めて宇宙を旅する。

その道中、『銀河鉄道999』のメーテルぽい人(山本美月)と鉄郎っぽい人(矢本悠馬)と出会う。これは福田のオリジナルアイデアで、原作にもある『ドラゴンボール』っぽいネタと合わせて強烈なパンチを効かせている。とりわけ山本美月のメーテルは見惚れる。

近藤(中村勘九郎)、沖田(吉沢亮)ほか真選組も集結。

9月1日に配信される『いくつになっても歯医者はイヤ篇』は、銀時と土方が治療に訪れた歯医者はとてつもなくやばげで、ふたりは戦々恐々となる。狂気の世界と言っていいほど、理性のネジが外れた世界が描かれている。

アニメ版で長谷川泰三(マダオ〈まるでダメなおっさん〉)の声を担当している立木文彦が実写版のマダオとして登場することも注目ポイントで。撮影現場では福田も小栗も大喜びだったという。

他にもまさかのゲストが参加している。

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誰にも起こりうる”あるある”と誰もがわかるパロディ、観客に刺さるものばかりが徹底的にまぶされているのが『銀魂」の魅力。

それを演じるにあたり、俳優はいかに原作漫画に近づくか、いかにテンションを上げるかが肝で、とにかくみんなすごいことになっている。禁煙篇は大人気アニメのパロディの面白さも大きいが、『歯医者篇』は小栗旬と柳楽優弥のテンション対決。ふたりの目がどれだけ剥かれるか吸い込まれるように見入ってしまう。柳楽優弥の白目の美しさは注目に値する。小栗旬はしゅっとした顔に虫歯の特殊メイク(?)で臨む徹底ぶり。役者魂を感じた。

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それから、忘れちゃならないのは、各話にもれなくついてくる松平片栗虎(堤真一)の司会。きれいな女性をはべらして語る脱力感は本編のテンションといいバランスを取っている。やる気対決する銀魂俳優たちの中でさすがの風格(余裕)だ。

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『銀魂2』のセットを流用しながら撮影しているらしきところも、映画を見てからドラマを見るといっそう楽しめる。

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(C)空知英秋/集英社 (C)2018映画「銀魂2」製作委員会 (C)2018 エイベックス通信放送

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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