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「成りすまし詐欺の欧州トップは英国」

小林恭子ジャーナリスト
英調査会社「フェローズ」のウェブサイト

他人の個人情報(ID)を盗んで、クレジットカードを作り、高額な買い物などをするーそんな「成りすまし」行為による詐欺(別名「ID詐欺」)の被害が、欧州内で最も多いのは英国だ。全人口の24%がID詐欺の被害にあったことがあるという。平均被害額は、一人あたり約1000ポンド(約12万円)に上る。

英国では、今月がID詐欺撲滅期間となっており、これに合わせて、調査会社「フェローズ」がこの種の詐欺による被害調査を公表した。

欧州内の人口別の被害率ランキングでは英国がトップで、これにロシア(20%)、スペイン(18%)、ポーランド(17%)、ドイツ(15%)、イタリアとフランス(ともに14%)が続いた。平均被害額が最も高いのはドイツだった(約2万8000ポンド)。

英民間企業および公的組織が加盟する、詐欺撲滅のための非営利組織CIFAShttp://www.cifas.org.uk/によると、今年1月から9月までに英国で発生したID詐欺犯罪は9万560件。これは前年比16.5%の増加だという。

成りすましが発生しても、その事実にすぐに気づかない人も多い。英国では詐欺行為に気づくまでに7ヶ月ほどかかるという。

フェローズのウェブサイトhttp://www.stop-idfraud.co.uk/によると、犯罪者が他人の個人情報を盗む方法には、(1)かばん、財布などを盗む、(2)ゴミ箱から銀行口座の明細書などをあさる、(3)住所変更届けなどによって、他人の郵便物を受け取る、(4)詐欺目的で電子メールを送り、個人情報を得る、(5)ソーシャルメディアのサイトに掲載された個人情報を集める、などがあるという。携帯電話を使ってネットバンキングやソーシャルメディアを利用する際に、ログオフをしないままに複数の行為を続けている場合も、個人情報を盗まれやすい。

ID詐欺の中でも、急速に増えているのが、ネットを使っての個人情報の違法取得行為だ。

今年7月、BBCニュースが報じたところによると、1月から4月の3ヶ月間で、オンライン上で1200万点にものぼる個人情報が詐欺行為に利用されたという(信用調査会社エクスペリアン調べ)。2年前と比較して、3倍の増加だ。

消費者がネットを利用する際、平均26のログイン用ユーザー情報を使うが、パスワードは5つのみだった。また、3分の2の人が、既に使わなくなったが削除していないログイン・アカウントを持っていた。

エクスペリアン社は、パスワードを頻繁に変え、他人には分かりにくい組み合わせにすることを勧めている。

ID詐欺の被害の内訳は、「ローンが組めなくなった、クレジットカードが使えなくなった」(14%)、「他人に大きな負債を作られた」(9%)、「携帯電話の契約を組むことができなかった」(7%)、「自分が作ったのではない借金について、取立人に追われた」(7%)など。

みなさんは、ID詐欺の被害をこうむったことがあるだろうか?

筆者は残念ながら、経験がある。詳細は書かないが、誰にでも起きる可能性があると思っている。

英国に住んでいて、この件で一つだけ救いがあるとすれば、被害にあう人が多いためか、金融機関の対応が早い。物的証拠を示すと、即座に払い戻しなどの対応を取ってくれた(ただし、ID詐欺であることが理解されず、払い戻しもないままで苦しむ人のケースも少なくないようだ)。

あるとき、BBCのラジオ番組を聞いていたら、丁度、ネット詐欺の話を取り上げていた。消費者アドバイザーのコメントが、今でも忘れられない。「もし、絶対にネット詐欺の被害にあいたくなかったらどうするか?」と質問され、「ネットを一切使わないこと」と答えていた。

もちろん、インターネットをまったく使わないことはほぼ不可能だ。アドバイザーは「自衛しなさい」と言いたかったのだと思う。

ただし、いくら自衛しても、自分ではどうしようもないこともある。

それは、金融機関や病院など個人情報を扱う組織で働く人が、情報を犯罪者に売ってしまうことがあるからだ。

インターネット・バンキングやオンラインショッピングが盛んな英国では、個人の自衛策とともに、「いつか発生するもの」という認識を共有することで、いざIDが盗まれたことが発覚したときのために、救済策をしっかりさせるーこんな両輪体制が必須のようだ。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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