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谷村新司さんを谷村新司たらしめたラジオの力

中西正男芸能記者
(写真:アフロ)

谷村新司さんが亡くなりました。歌手、楽曲制作者として達者なことはいわずもがな。中国でもとても大きな存在感を示していたことは多くの人が知るところです。

ただ、谷村さんという表現者を語る上で欠かせないのがラジオ。谷村新司さんを谷村新司たらしめた大きな要素はラジオの力。それを強く感じます。

1972年から文化放送「セイ!ヤング」でパーソナリティーを務め、MBSラジオ「MBSヤングタウン」でもムーブメントを起こしました。

心に響く美しい声でこれでもかと下ネタを発射する。ただ、下品になりすぎず、面白さはマックス。すぐさま若者から絶大な支持を得ることになりました。

ラジオの力とは何なのか。これは笑福亭鶴瓶さん、明石家さんまさん、そして上沼恵美子さんらが数十年にわたってラジオをやり続けていることにもつながると思います。

テレビは多くの人で作り上げる共同作品です。出演者も多い、スタッフさんも多い。ただ、ラジオはしゃべり手の話がほぼ全て。もちろん、スタッフさんも何人かいらっしゃいますが、最低限のシステムを維持するための人数で、そのまましゃべり手の話をリスナーさんに届ける。そんな場になっているのが現実だと思います。

誰でもできる〝しゃべる〟ということを商品にする。しかも、しゃべる本人の能力と、センスと、責任で商品にする。誰の手も入らない代わりに、誰も助けてくれない。

この潔い空間がこの上なく心地よく、この上なく難しい。これでもかと愛情がある場であると同時に、自らへの超高負荷トレーニングでもある。だからこそ、プロであればあるほど、その場から離れないのだろうなと思います。

そこで、自らの城を築いた谷村さん。心底楽しみ、心底悩み、心底力を振り絞って、ラジオ番組という作品を一回一回作っていった。その結果、ファンというよりも信者に近いリスナーが醸成されていったのだと思います。

そこで培った「エロも、恋も、悩みも、恥も、全てオレたちのことを分かってくれている兄貴」という積み重ね。それがあるからこそ、楽曲にも言いようのない〝隠し味〟になっていた。

「昴」も「サライ」も壮大な曲です。何もかもを包括するようなスケール感がある曲です。ただ、どれだけ大きなテーマを打ち出したとしても、その根底には「なんでも分かってくれている兄貴」がいる。テーマが浮足立たない。ふわふわしない。それを成立させているのがラジオで出し続けた〝人間性の重し〟だったと思います。

どれだけ大きなものを作っても、どれだけ偉くなっても、根っこがぶれない。この構図を作るのが「人を見せる」ラジオという場の力だと思います。

今でいうと、福山雅治さんやaikoさんも同じようなことをされているのかもしれませんが、何十年も前からそれを体現していた。この意味は非常に大きなものです。

谷村さんのすごさが語られれば語られるほど、そこに紐づくラジオの力。それも感じざるを得ません。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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