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ジェニファー・ロペスとベン・アフレックが婚前契約をしなかったワケ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
昨年12月には熱愛ぶりを見せつけていた夫妻だが…(写真:ロイター/アフロ)

 自称“最高のラブストーリー”は、ハッピーエンドにならなかった。現地時間20日(火)、ジェニファー・ロペス(55)がベン・アフレック(52)に対する離婚を申請したのだ。

 このこと自体は、まるで驚きではない。夫妻のトラブルは3ヶ月ほど前から報道されてきたこと。散々物色した末に昨年ふたりが購入した6,800万ドル(今日の換算レートでおよそ99億円)のビバリーヒルズの豪邸はすでに売りに出されており、アフレックは早くも自分用の新居を買っている。誰の目にも、離婚は秒読みだった。

 アフレックが新居を買ったのは、東海岸でロペスが華やかに自分の誕生日を祝っていた日。当てつけでわざわざこの日を選んだというよりは、アフレックにとってロペスはそれだけどうでも良い存在になっていたのだと思われる。逆に、ロペスは、ふたりがジョージア州で結婚式を挙げた記念日である8月20日を選んで離婚申請をしたようだ。「Daily Mail」が報じるところによれば、ロペスはアフレックを不快にさせたかったのだという。

 しかし、アフレックにとっては、これまたどうでも良いことで、何も感じていないらしい。彼の中でこの結婚はとうに終わっており、ロペスにこれ以上恥をかかせないよう、彼女が離婚申請をするのを待っていたのだ。どちらが離婚申請をしたのかは、その後の離婚条件の交渉にまったく影響を及ぼさないが、プライドやPR面で意味がある。たとえば、ブラッド・ピットとジェニファー・アニストンが別れたのはピットがアンジェリーナ・ジョリーと一緒になりたかったからだが、別居の発表は共同で行い、離婚申請はアニストンがしている。

運命の相手、最後の結婚だと信じていた

 だが、今回の離婚申請には、別の意味で驚きの要素があった。TMZが報じるところによると、ロペスとアフレックは婚前契約(pre-nup)をしていなかったらしいのだ。

 pre-nupがなければ、結婚している間に築かれた財産は平等に分けられてしまい、収入に差があるカップルの場合、どちらかが損をする。離婚条件の交渉の中で異議を申し立てることもできるとはいえ、pre-nupはそもそも契約であり、パワフルだ。最近も、ケビン・コスナーとの離婚でクリスティーン・バウムガートナーがゴネたが、裁判所はpre-nupを尊重した。

 70年代に結婚したセレブカップルであればそういう認識もなかっただろうが、近年、pre-nupは、アメリカのセレブや金持ちの間で常識となっている。2016年のジョニー・デップとアンバー・ハードの離婚の時もpre-nupがなかったと判明し、世間は意外に思ったが、2022年の名誉毀損裁判中、デップはpre-nupを求めたのにハードが逃げ切った事実が明らかになった。pre-nupがないまま結婚に至ったため、デップは同じ内容の契約を結婚後にするpost-nupを結ぼうともしたのだが、これまたかなわなかったのだ。

20年を経て復活した愛に、ふたりは胸をときめかせた
20年を経て復活した愛に、ふたりは胸をときめかせた写真:Splash/アフロ

 ロペスとアフレックは、どちらも離婚経験者。ロペスの場合はすでにバツ3である。それだけに、この重要性はわかりきっていたはず。周囲もやるように勧めたに違いない。にもかかわらず、なぜあえてパスしたのか。それは、ふたりとも本気でこれは真実の愛、運命の結びつきであり、離婚などありえないと信じていたからではないか。離婚した場合に備えたpre-nupを結ぶということは、離婚の可能性を考えていること。きっと、ふたりの盛り上がりに影を差す、魔の存在だったのだ。

アルバムと映画を通じて、アフレックへの愛を世間に叫ぶ

 とりわけロペスは、その信念をあらゆる形で世間に宣言してきている。

 2003年9月、結婚式の数日前になって急遽挙式を延期し、2004年1月に破局したふたりが2021 年に再び交際を始めると、世間はそのニュースで持ちきりになった。そんな中、ロペスは、「今度は絶対に大丈夫。そう確信がなければまたつきあい始めたりしない」とメディアに対して宣言している。結婚すると、ロペスはすぐさま苗字をアフレックに変更。アメリカでは夫婦別姓が認められているのに、あえて夫の名に変えたことについて、当時ロペスは、「私たちは夫婦になったのだから。私は誇りに思っている」と述べている

 50代になったというのに、ふたりの惚気ぶりは20年前と変わらなかった。公の場でこれでもかというほど愛を表現し合った彼らは、昨年のスーパーボウルで放映されたダンキン(旧ダンキン・ドーナツ)のコマーシャルにも、自分たち自身として出演している。その自虐的なギャグは好評を得て、今年のスーパーボウルでは続編が流れた。

 さらに、ロペスは、今年リリースされたアルバム「This Is Me…Now」で、アフレックへの愛を表現。タイトルは、アフレックと最初にカップルだった2002年にリリースされた「This Is Me…Then」を受けたものだ。

 それに付随して、ロペスは、「This Is Me…Now ディス・イズ・ミー…ナウ」、「グレイテスト・ラブストーリー・ネバー・トールド」という2本の映画を、自腹を切って製作している。自分たちの愛を「これまで語られていない最高のラブストーリー」と呼ぶというのはなかなかのこと。周囲の人から反対を受けても、ロペスは、回り回って運命の愛をつかんだ喜びを叫びたくてしょうがなかったのだろう。これらの映画にはアフレックも出演している上、「グレイテスト・ラブストーリー〜」は、アフレックとマット・デイモンのプロダクション会社が製作している。ロペスが「This Is Me…Now」の脚本を書くことを、アフレックは応援し、励ましてくれたとも、ロペスは語っている。

 だが、本音ではどうだったのか。彼は、「グレイテスト・ラブストーリー〜」の中で、自分たちの恋愛がソーシャルメディアのネタになるのは嫌だと述べているのである。その上で、アフレックは、ロペスとカップルになる以上、それは避けられないことだと悟ったとも語っている。

自作映画公開の3ヶ月後、愛は冷める

 ふたりの仲に問題があるのではとささやかれ始めたのは、これらの映画が発表されてわずか3ヶ月後のこと。カップルで出席するはずだったMETガラにアフレックは来ず、ロペスの主演映画「アトラス」のプレミアでも、ロペスはソロでレッドカーペットを歩いた。あれだけいちゃいちゃしていたふたりが一緒にいる様子がパパラッチされることもすっかりなくなり、パパラッチや世間が異常に気づくのに、そう時間はかからなかった。

「アトラス」のL.A.プレミアにアフレックは姿を見せなかった(Getty Images for Netflix)
「アトラス」のL.A.プレミアにアフレックは姿を見せなかった(Getty Images for Netflix)

“最高のラブストーリー”があっというまに終わってしまった今、ふたりを待ち受けるのは、pre-nupのない状態での離婚交渉だ。ただし、結婚期間は短く、共に50代であるふたりの間には子供がいないため(アフレックは元妻ジェニファー・ガーナーとの間に3人の子供、ロペスは3番目の夫マーク・アンソニーとの間に双子を授かっている。子供たちは全員10代)、そう複雑にはならないかもしれない。

 離婚申請にあたり、ロペスは、元配偶者サポートは要求しない、アフレックにも要求してほしくないと主張している。総資産はロペスが4億ドル、アフレックが1億5,000万ドルと推定されており、たしかにお金の面倒を見てもらう必要はどちらにもないだろう。

 しかし、だからと言って交渉がすんなり行くとは限らない。“最高のラブストーリー”にはどんな続きが待ち受けているだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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