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ゴルフ界の王者ウッズが8億ドルを拒絶して愛し続けるPGAツアーの来季日程が示す「最高の舞台」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

 暦が8月に変わった途端、世界中のゴルフ界を駆け巡ったのは、リブゴルフを率いるグレッグ・ノーマンが、米国のTVショーで明かした衝撃的な数字だった。

 リブゴルフが移籍料として王者タイガー・ウッズにオファーしていた金額は「7億ドル~8億ドル(約1052億円)だった」。

 ウッズがリブゴルフから巨額をオファーされながら、移籍話を拒絶したことは、すでに周知の事実だったが、オファーされた金額は、フィル・ミケルソンの2億ドル、ダスティン・ジョンソンの1億5000万ドルを参考にしつつ、さまざまな噂や推測が出回っていた。

 だが、8億ドルという数字が明かされると、「まさか、これほどの巨額だったとは」と、あっけにとられた。

 しかし、オファーが巨額であればあるほど、それをきっぱり突き返して「NO」と答えたウッズの姿勢は、これまで以上に際立つ。

 ともに歩んできたPGAツアーに感謝し、PGAツアーを愛し続けるウッズの矜持として語り継がれ、これからプロを目指すジュニアや若い選手たちからも敬われるのではないだろうか。

 PGAツアーに残ることを選んだ選手たち、リブゴルフに移らないことを選んだ選手たちは、ウッズが示した姿勢こそが自分たちの理想像だと感じ、これからもPGAツアーをみんなで盛り立てようという思いを強めているはずである。

 そして、そうした精神論のみならず、PGAツアーに残ることには、現実的にリブゴルフに勝るとも劣らない大きなうまみがあることが、来季の日程・詳細が発表された今、あらためて頷けた。

【シード選手は減少、2000万ドル級の3大会新設】

 今年6月、PGAツアーを率いるジェイ・モナハン会長は「戦う武器がマネーだけだとしたら、PGAツアーはこれ以上、リブゴルフとは戦えない」と、マネー戦争においては白旗を挙げたかのような発言をした。

 しかし、8月1日に発表された来季の日程や詳細をよくよく咀嚼してみると、PGAツアーは大健闘していることが、ひしひしと伝わってくる。

 PGAツアーの2022-2023年シーズンは全47試合。大きな変化は、シーズンエンドのプレーオフ第1戦、フェデックス・セントジュード選手権に進出できる人数が、これまでの125名から70名に減らされ、その70名が翌シーズンのフルシード選手となる点だ。

 第2戦のBMW選手権には、そのうちの50名が進出。最終戦のツアー選手権への出場人数は、これまで通り、30名で変わらない。

 そして、第2戦進出を決めた50名は、プレーオフ3試合終了後に新規に開催される3大会への出場資格を得る。その3大会は、アジア、欧州、中東で開催される予定で、いずれも1試合の賞金総額はリブゴルフと同じ2000万ドル級となる。

【6試合を2000万ドル級へ】

 新設の3大会とは別に、従来から開催されている6大会も、賞金総額が2000万ドル級に引き上げられる。

 具体的には、ジェネシス招待、A・パーマー招待、メモリアル招待のインビテーショナル3大会と世界選手権のデル・マッチプレー選手権が2000万ドルとなり、1月のセントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズは1500万ドル、フラッグシップ大会のプレーヤーズ選手権は最高額の2500万ドルとなる。

 これら6大会の賞金総額は1億2000万ドルゆえ、平均すると1大会は2000万ドル級だ。

 この6大会と新設の3大会で効率よく稼ぐことができれば、これまでのPGAツアーでは叶わなかったほどのビッグマネーを手に入れることも可能になる。

 さらに言えば、リブゴルフの選手が来年のメジャー4大会に出場できるかどうかは、いまなお定かではなく、もし彼らが出場不可となったら、メジャー4大会の賞金は、リブゴルフ以外の選手たちが稼ぐことになり、メジャー4大会も今年以上に賞金が引き上げられることが予想されるため、そうなれば、リブゴルフと同等の2000万ドル級の大会は(6+3+4)で合計13試合になる。

 ちなみに、来季のリブゴルフは年間14試合で、年間の賞金総額は4億500万ドルだ。PGAツアーは、メジャー4大会を除いた43試合の賞金総額が4億2860万ドルだが、何試合に出るかは選手が自由に決定できる。

 PGAツアーは「試合数が多すぎて大変だった」などとリブゴルフに移った選手たちは口を揃えているが、出たい試合を選び、好きな数だけ出られる自由は、PGAツアーにはあるが、リブゴルフにはない。

 そして、そういう自由があるPGAツアーには、自由と共に、リブゴルフとほぼ同等の賞金を授ける大会が来季は13試合もあるのだから、どっちのツアーがどういいかは、「言わずもがな」ではないだろうか。

【高額賞金+ビッグなボーナス】

 ところで、リブゴルフには個人戦と同時進行でチーム戦が行われ、毎試合、500万ドルの賞金がトップ3のチームに分配される。

 PGAツアーでは、チーム戦もそのための賞金もない。だが、PGAツアーでは、賞金以外に、さまざまなボーナスが支払われる。

 来季は、フェデックスカップ・ボーナスが7500万ドル、コムキャスト・ビジネス・ツアー・トップ10が2000万ドル、PIP(プレーヤー・インパクト・プログラム)が5000万ドルで、ボーナス総額は1億4500万ドルとなる。

 シーズンを通じて好成績を出し、フェデックスカップを上位で終え、話題性のある言動で人気や露出を増やせば、かなりのビッグボーナスも手に入れることができるというわけだ。

【必死で戦ってこそ】

 とはいえ、大幅アップされる賞金も、今まで以上にビッグになるボーナスも、リブゴルフのようにギャランティされているものではなく、いいゴルフができて、いい成績が出せて、大勢のファンから支持と声援を得ることができない限り、手に入らないお金だ。

 だが、それを目指し、必死で戦うからこそのプロゴルファーである。

 ゴルフの戦いによって、賞金やボーナスを見事にもぎ取るからこそ、最高の戦士、理想のアスリートとして、子供たちや若者たちの憧れの的となる。

 ウッズは、どこまでも、そういう最高の戦士、そういう理想のアスリートであり続けたいと思っているからこそ、8億ドルの巨額オファーをきっぱり拒絶した。

 そんなウッズの矜持とPGAツアーの戦士たちの熱いスピリッツが溢れ、リブゴルフと並ぶほどの高額賞金とボーナスが用意されているPGAツアーが「やっぱり最高の舞台」であることを、リブゴルフへ移った選手たちが痛感させられる日が、近いうちに到来しそうに思えてならない。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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