U-20女子ワールドカップで、一際目をひく日本の応援。PNGと日本の深いつながりとは?
パプアニューギニア(以下:PNG)で行なわれているU-20女子ワールドカップ(以下:U-20ワールドカップ)は、連日、白熱した試合が繰り広げられている。
その中で、一際目をひくのがU-20日本女子代表(以下:ヤングなでしこ)の応援団だ。日本代表スタジアムで定番となった応援歌が次々に歌われ、まるでホームスタジアムのような雰囲気を作り出している。
この応援に、選手たちも勇気付けられているようだ。
「現地の方の歓迎が本当にすごくて、感動しました。みなさんに日本の魅力的なサッカーを見せて、サッカーが好きになってほしいですし、日本のサッカーにも興味を持ってもらいたいです。」(乗松瑠華)
「日本が試合をするときにこちらの現地の日本人の方や、日本人ではない方もすごく応援してくれて、それは本当に、自分たちにとって力になっています。」(長谷川唯)
日本から来ているサポーターが多いのかと思いきや、地元・ポートモレスビーの人々も多い。中でも、子供たちが大半を占めている。
この応援団を取りまとめているのが、JICAの技術協力プロジェクトを担当する伊藤明徳さんだ。伊藤さんは、PNGの教育支援を1990年から25年続けている。現在は「理数科教育の質の改善プロジェクト・チーフアドバイザー」として、PNGの小学校の国定教科書の作成などを手がけている。
伊藤さんは言う。
「体格や強さがある海外の選手たちに、小柄な選手が多い日本が技術を活かして戦っているのがすごいですよね。とても誇らしく感じますし、自分もそうやって仕事を頑張らなければいけないな、と思うんです。」
【日本との深いつながり】
PNGは太平洋戦争の際、日本軍がオーストラリア軍と激戦を繰り広げた地だ。戦後は日本からPNGに対して公的援助をし、日本はPNGから液化天然ガスの安定供給を受けている。
今回、ヤングなでしこの応援をしている子供たちの中には、ポートモレスビーのワイガニ地区にある、ワードストリップ小学校(Wardstrip Primary School)の生徒たちがいる。
ワードストリップ小学校はPNGで最大の小学校であり、日本の「草の根無償資金協力(※)」によって校舎の一部が造られた。一方、2011年3月11日の東日本大震災の際には、小学校で義援金を集めて日本に送ってくれたのだという。それに対して、日本は仙台育英高校がお礼に勉強机を送った。こういったエピソードもあり、日本とのつながりは深い。
今回、U-20ワールドカップの入場チケットの値段は10キナ(約340円)で、決して安い値段ではないが、チケットを日本人会で買い、子供たちはスタジアムに応援しに来ている。息の合った応援は、練習を重ねたものだ。5月にPNGで行われたプレ大会のために、伊藤さんらが子供たちを集め、時間をかけて準備した。今大会ではその際の応援をベースに、さらにクオリティが高まった応援を披露している。
※開発途上国の地方公共団体、教育・医療機関、並びに途上国において活動している国際及びローカルNGO(非政府団体)等が現地において実施する比較的小規模なプロジェクトに対し、資金協力を行うもの。
【サッカーに夢中になる子供たち】
ワードストリップ小学校を訪れると、子供たちの好奇心いっぱいの目線が一斉にこちらを見つめた。
カメラを向けると、嬉しそうに真っ白な歯を見せる。シャイな子供もいるが、目を逸らすことはなく、恥ずかしそうにしながらも必ず手を振り返す。「人見知り」という概念は、PNGの人々にはなさそうだ。
小学校は1年生から8年生まであり、授業風景は賑やかだった。
この日は午後にサッカーの授業があった。すでに授業が終わって帰宅時間となった生徒たちがまったく帰る気配を見せないので、様子を見ていると、みんな校庭に集まって、サッカーの授業に見入っている。授業をしていたのは年長のクラスで、男女混合で行われていた。
PNGで人気のスポーツといえばラグビーだが、サッカーはそれに次いで人気が高い。
ある生徒は裸足で、ある生徒はビーチサンダルでボールを蹴っていた。校庭は粒の大きな砂利だ。だが、子供たちはビーチサンダルの紐が切れても気にすることなく、夢中でボールを蹴り続けていた。女の子も男の子に遠慮することなくボールを追う。
見守るギャラリーの子供たちは歓声を上げ、目を輝かせていた。PNGの子供たちは、サッカーを見るのも大好きなのだ。
【女性スポーツが盛んなPNG】
PNGでは、女性のスポーツも盛んだ。地域によって流行っているスポーツは違うが、ポートモレスビーではサッカー、ラグビー、クリケットなどは女性プレイヤーも多く、小さい頃からチームがあるという。ラグビーは、通常のルールとは違い、「タッチラグビー」で、危険を回避するための特別ルールがあるようだ。
今回のU-20ワールドカップで、PNGはグループリーグ3戦全敗で敗退を余儀なくされたが、今大会の開催を機に、よりプレーヤーの数は増えるだろう。問題は、指導者不足だ。800を超える民族が共生しているPNGでは身内意識が強くなる傾向があり、指導者になった者が、出身地が同じ選手を優先的に選んでしまうことが少なくないという。今後は、FIFAの指導者派遣制度により、優秀な指導者が育っていくことだろう。
今大会の日本の応援が、どの国の応援にも負けず劣らず華やかなのは、これらの背景によるものだ。準々決勝のブラジル戦では、新たに高校生も参加し、さらに応援団の人数が増えた。
「パプアニューギニアの人々は、喜怒哀楽をストレートに表現します。日本と共通するのは、相手に対するリスペクトの心ですね。」(伊藤さん)
日本では「控え目」であることを美徳とする習慣もあるが、ピッチで繰り広げられるプレーに一喜一憂する、PNGの人々のストレートな感情表現は新鮮だ。
準々決勝で勝利したブラジル戦後、選手たちは真っ先にスタンドに挨拶に行き、応援団にお礼を告げ、ハイタッチを交わした。
準決勝のフランス戦(29日)でも、地元の生徒たちの応援が、日本の勝利を力強く後押しすることだろう。
【渡航を考えている方へ】
最後になるが、今後、日本から応援に来る予定を立てている人は、以下のことに十分に注意して、安全に渡航してほしい。
PNGは800を超える民族と数万種と言われる動植物が共生する多様性に満ちた国であり、「また来たい」と思わせる深い魅力を秘めている。だが、一方で今大会の開催地であるポートモレスビーは、貧困や失業を背景とした犯罪が多く、治安面で十分な配慮が必要と言われている。もしPNGに入国する場合は、単独行動を絶対に避け、現地の旅行会社にサポートを頼んで渡航することをぜひお勧めしたい。バックパッカーで一人旅に慣れている人も、ポートモレスビーではその感覚が通用しないと思った方が良い。団体で行動する場合でも、危険と言われる場所や時間帯(夜間は特に危険)を避けるべきだ。公共交通機関や徒歩はリスクが高く、個人タクシーも危険なので、現地旅行会社指定のタクシーを利用した方が良い。
十分な配慮をした上で渡航すれば、良い思い出を作れると思う。
JICAプロジェクトの伊藤さんによると、現地旅行会社は以下の2社がお勧めだという。
PNGジャパン http://www.png-japan.co.jp
カモメツアー https://www.kamometour.co.jp/tour_det.php?area=6