【自民党総裁選】 かつて鉄の結束を誇った竹下派はとうとう分裂選挙へ
「竹下会長に一任するわけにはいかない」
9月20日に予定されている自民党総裁選は安倍晋三首相と石破茂元自民党幹事長の一騎打ちとなる様相だが、まさかの衆議院竹下派の「自主投票」で石破氏が窮地に陥りそうだ。竹下派の竹下亘会長の地元は島根県で、石破氏の地元は鳥取県。2年前の参議院選から両県が合区となり、青木幹雄元自民党参議院会長の長男の一彦氏が当選した。その関係で青木氏が石破氏を応援してくれたまでは良かったが、石破氏は竹下派まるごとの支持は得られそうにない。青木氏の影響力が強い参議院ではなんとか石破氏支持でまとめたものの、8月7日午後に開かれた同派閥所属の衆議院議員対象のヒアリングでは、石破氏支持に反対しないが「竹下会長に一任するわけにはいかない」との声が想定以上に多かった。
かつては鉄の結束力を誇り、自民党の中心として君臨してきた竹下派(平成研・かつての経世会)。しかし額賀派だった9年間には総裁候補を立てられず、その影響力は弱まるばかりで、いまでは細田派、麻生派に続く党内第3勢力に甘んじている。
党内では次々と安倍支持に
数の上でも石破氏支持は不利に見える。現在のところ安倍首相を支持して選対を組織するのは、総裁派閥の細田派と盟友の麻生太郎財務相の麻生派に加え、7月24日に安倍支持を表明した岸田文雄政調会長が率いる岸田派の3派閥。さらに石原派が加わる予定で、405名の国会議員のうち過半数を制することになる。これに竹下派内の安倍首相支持票や無派閥の票が加われば、国会議員票は300近くになる計算だ。
一方で石破氏が頼りにするのは地方票だ。今回の総裁選では、405の国会議員票とその同数の地方票で争われる。2012年の総裁選では、安倍首相が87票の地方票を獲得したのに対し、石破氏が獲得した地方票はその倍近くの165票。国会議員票では安倍首相の6割程度しか獲得できなかったが、得票総数では58票も上回った。よって石破氏には「自分は地方に強い」という意識が強い。
2012年の総裁選とは違う
果たしてその思惑通りに事は運ぶのか。一部には「2012年の総裁選は民主党政権時に行われ、野党の党首を決める選挙だったが、今度は違う」との声もある。確かにポストにまつわる噂も流れており、大臣などを狙うならなんとしても勝馬に乗る必要があるだろう。
だが来年の統一地方選や参議院選を考えるなら、果たして現政権のままでいいのか。実際に次期参議院選では、「6年前に勝ち過ぎた自民党は議席数を落とし、与党は3分の2を割る」と言われている。それでは悲願の憲法改正発議も不可能だ。
2019年10月に予定されている消費税率アップも、安倍政権のネックになるかもしれない。10%への増税は過去2回延期され、財政面からも「安倍政権としての3度目の延期」は不可能とされる。しかしながら消費税増税時には景気後退が必然だ。1997年の3%から5%への増税は橋本龍太郎政権を吹き飛ばし、2014年4月の5%から8%への増税はスーパーやデパートなど小売り業を1年近く前年割させた上、駆け込み需要の反動として3兆円ほどGDPを減少させた。これに目を付けたのが石破氏で、テレビの討論番組で「年収が189万円以下の人が929万人もいる。これをなんとかするのが政治だが、来年消費税を上げるかどうかを真剣に議論すべき」と訴えた。
平成研の終焉か
こうしたことを考慮して、青木氏は石破氏支持を決めたと言われる。青木氏の目に映るのは統一地方選と参議院選で、とりわけ地方選はかなり厳しい情勢になると青木氏は見なしているようだ。
「我々は安倍圧勝しか見えないが、外から見た風景は違うんだろうなあ」
自民党のある秘書は青木氏の動向についてこう述べた。かつて“5人組”のひとりとして密室で森喜朗総理を誕生させ、「参議院のドン」として絶大な権力を持っていた青木氏だが、国政を離れてすでに8年。その威力の喪失は田中角栄の流れをくむ経世会を源流とし、竹下登、小渕恵三、橋本龍太郎と3名の首相を生み出して日本の政治史を彩ってきた平成研究会の終焉を意味するのかもしれない。