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伊藤園のAIタレントCMに抱く大きな違和感 #ハリウッドのストライキ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「AIは芸術ではない」と書かれたプラカードを持ってデモに参加する俳優(筆者撮影)

 ハリウッドで全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)がストライキを始めて、100日以上が経つ。ストライキ開始以来ストップしていた話し合いは、今月初めにようやく再開するも、決裂。現地時間24日(火)に再び話し合いのテーブルにつく予定だが、両者の間には大きな隔たりがある。落とし所を見つけることができるのか、いつそれが起きるのかは不明だ。

 俳優たちが、彼らの雇用主に当たるメジャースタジオ、配信会社の代表、全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)と次の3年間の労働契約を結ぶにあたって要求していることは、最低賃金の引き上げ、配信作品のレジデュアル(印税)、オーディションのやり方など多数ある。AIの規制も、その中に含まれる重要な項目だ。スタジオ側は俳優本人の許可を取ると主張しているものの、一度スキャンしたものを使い回されることのないよう、SAG-AFTRAは、もっと厳格な規制を求めている。演技、表現という芸術は、人間だけが持つものだ。そのほうが安いからとAIがどんどん使われるようになったら、その領域が侵害され、俳優という職業自体の将来が脅かされる。

 そんなところへ、日本で流れているという伊藤園のCMを見て、非常に驚いた。そこに出ているのは人間ではなく、AIのタレント。ハリウッドの俳優たちが苦しい思いをして戦っている時に、彼らがまさに恐れていることが、日本ではもう平然と行われていたのだ。

「ねとらぼ」の記事によると、伊藤園は「AIのタレントの起用を前提としていたわけではない」とのことで、今後についても「現状、継続的に起用することを含め、起用の予定はない」という。つまり、もしかしたら、これ1回きりかもしれないということ。個人的には、人間が美味しそうに飲むから「美味しいのかな」と思うのであって、AIにやらせて同じ効果があるのか疑問を覚えたのだが、そういうことも含め、時間をかけて検証をするということなのかと思われる。

 しかし、今後、同社や別の会社がまたAIのタレントを使う可能性もある。それは、俳優さんたちにとって大きな脅威だ。

 企業というのは、お金を節約できて効率の良い方法を求めるもの。それは、日本の会社も、ハリウッドのメジャースタジオや配信会社も同じだ。それが優先されるがために、人間ならではのもの、人間が作り出す芸術が壊されてしまわないよう、ハリウッドでそれらを生み出す人たちは抵抗しているのである。もちろん、テクノロジーに奪われた職業は、ほかにもある。しかし、人間のふりをしたAIに娯楽を提供してもらう世の中になってもいいのか。

 この問題は組合ではなく、政府が主導して決めていくべきだとの意見も、アメリカでは聞かれる。だが、そこに直接かかわる人たちにしてみれば、手をこまねいてただ待っているわけにはいかないのだ。俳優たちよりひと足先にストライキを始め、先月末にやっと終了した全米脚本家組合(WGA)も、AIの問題を重視していた。交渉が断絶している間には、AMPTPとWGAの契約更新は3年後にまたあるのだから、その件はその時まで先送りできないのかという声もあったが、それに対して「3年後にはどうなっているかわからない」という危機感の強い反論も聞かれた。そして脚本家たちは、納得のいく合意を手にしてみせたのである。

 SAG-AFTRAがストライキのために特設したウェブサイトには、「パフォーマーとしての私たちのキャリアは今、危機に立たされている」と書かれている。それはハリウッドで働く俳優たちに限った話ではない。伊藤園のCMは、それを証明した。ハリウッドの俳優がAIについて望み通りの規制を得られたとしても、それが自動的に日本にも適用されることにはならない。日本の俳優、クリエイターたちも、この問題のために何かをするべき時ではないだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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