初防衛まであと1勝。藤井聡太棋聖がみせた残り7分からの超技巧に感嘆の声
18日、第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第2局が行われ、藤井聡太棋聖(18)が渡辺明名人(37)に勝って通算2勝0敗とし、防衛まであと1勝とした。
相掛かり戦法から長いねじり合いの続いた一局。
藤井棋聖が残り時間の少ない中で素晴らしい指しまわしをみせて、粘る渡辺名人を振り切った。
長手数の熱戦
総手数171手。平均手数が110手程度とされる中、長手数の対局だった。
そして長手数の対局でも本局は特に密度が濃かった。
手数が長いからといって、必ずしも熱戦とは限らない。
駒組みが長く、手待ちなどもあって戦いが始まるのが遅かった場合。
早い段階でどちらかが大きくリードを奪い、時間をかけてゆっくり仕留めた場合。
これらは熱戦とは言われない。
しかし本局は早い段階で定跡から外れて互いの構想力が問われる展開となり、大きな差がつかず均衡のとれた時間が長く、文字通り長手数の熱戦だった。
そして長手数の対局では持ち時間の使い方が勝負のカギを握る。長く続く中終盤にいかに時間を残しておくか、そこが勝負の分かれ目になりやすい。
対局中、筆者はこうツイートしていた。
この段階ではまだ63手で、結果的には半分にも到達していなかった。
ここで藤井棋聖の残り時間はわずか24分。しかも次の手に17分使って7分に減った。対する渡辺名人は50分を残していた。
超技巧
この残り時間で終局までの道のりをどう乗り切るのか、自分が指していたら途方に暮れそうだ。
しかし、ここから藤井棋聖が超技巧をみせて互角だった形勢が傾いていく。
7分に減っていた藤井棋聖の残り時間は71手目に2分消費して5分になった。
(注:1分未満で指せば残り時間は消費されない)
そこから約20手を時間の消費なく指し継ぎ、その間に渡辺名人がほんのわずかなスキをみせた。その場面については本人がブログで語っている。
結果的にここが勝負を分けるポイントになった。
藤井棋聖は93手目に1分を消費してから約20手を残り4分で指し継ぎ、113手目に1分を消費。この時点で優位はハッキリしたものになっていた。
1分未満の消費が多い中で正確な指し手を続け、リードを着実に広げた。対局開始から9時間以上が経過し、疲労もピークに近い中で驚異的な身体の体力と脳の体力である。
124手目に渡辺名人が先に残り1分に追い込まれた。その時、藤井棋聖の残り時間は3分。いつの間にか残り時間が逆転していた。
藤井棋聖が145手目に1分を消費し、この辺りで最後の決め手が見えていたのだろう。
結局、残り時間を2分残して終局となった。
リードしてからの藤井棋聖の安定感にも目をひかれた。終盤では自玉にも危機が迫り複雑な局面が続いていた。弱気なところをみせればすぐにつけ込まれただろう。
普通の相手であれば残り時間の切迫と相まってミスを出し、渡辺名人が逆転しても不思議はない展開だった。
しかし藤井棋聖は自玉と相手の攻めの間合いをはかり、最後は銀のタダ捨てで勝負を決めた。強者はなにげなく勝ちを決める、それを体現する指しまわしだった。
こういう展開ではその人の底力が試される。
一局の将棋をデザインする力に欠けると、均衡のとれた戦いに持ち込むのは難しい。
均衡のとれた戦いが続けば読みの力が試される。
そして長時間に耐えうる体力や集中力が求められる。
残り時間が少ない中で藤井棋聖がみせた超技巧には、Web上やABEMAの解説などで感嘆の声があがっていた。筆者も中継を観ながらただただ感嘆していた。
第3局は7月3日に
渡辺名人と藤井棋聖の対戦は8戦目。本局の結果で藤井棋聖の7勝1敗となった。
渡辺名人をもってしてこの成績は、信じがたいものがある。
局後のインタビューでは渡辺名人が落胆する様子をみてとれた。総合力が問われる展開で負けたことによるショックもあるだろう。
本局は渡辺名人が早々に前例を外し、定跡外の戦いへ持ち込んだ。
後手番ではある意味オーソドックスな戦略ではあるが、定跡形を好む渡辺名人にしては珍しい。
前局は研究勝負ともいえるような戦いだったが、藤井棋聖の見事な対応に渡辺名人としては力を発揮できなかった。本局はそれをふまえて地力勝負の展開を望んだのだろう。
しかし互いに力を出し合う展開でも敗れたことで、渡辺名人は今後の戦略の立て方がより難しさを増したように思う。
第3局は7月3日(土)に行われる。藤井棋聖が勝てば初めての防衛が決まる。
そしてタイトル獲得通算3期の規定により九段に昇段し、渡辺名人のもつ九段昇段最年少記録を更新する。
29日にお~いお茶杯第63期王位戦七番勝負が開幕し、藤井棋聖はよりタイトな日程での戦いを強いられる。
その点、今後は渡辺名人のほうが準備の時間を多く割いて戦いに臨める。どういう戦略を立てるのか、そして藤井棋聖が渡辺名人の戦略にどう対抗するのか。
第3局がどんな戦いになるのか、今から楽しみである。