宗谷海峡でロシア海軍哨戒機が領空侵犯、空自戦闘機が初のフレア警告を実施
防衛省の発表によると、ロシア軍のIl-38哨戒機が9月23日の13時台から15時台にかけて3度にわたり北海道礼文島の北方の日本領海上空を侵犯したことを確認しました。
侵入機の飛行パターンから対潜哨戒の訓練を行っていた可能性が高く、爆弾倉の扉も開いていたのでソノブイを実際に投下していた可能性があります。(※ソノブイ:航空機投下式のブイ型ソナー)
なお林官房長官の記者会見でスクランブルに上がった航空自衛隊の戦闘機が侵入機に対して警告としてフレア(囮熱源)を使用したことが言及されています。(※フレア:赤外線誘導式の対空ミサイルを欺瞞する目的の囮熱源)
目的外使用になりますが、フレアは派手に光るので警告や威嚇にも使えます。ロシア戦闘機や中国戦闘機は威嚇目的でも多用しますが、西側の国の空軍では滅多に威嚇目的での使用は行われず、日本の航空自衛隊がフレアを警告で使用したのは今回が公式には史上初になります。
ロシア機による領空侵犯について:防衛省(令和6年9月23日)
- 13時03分頃~13時04分頃
- 15時31分頃
- 15時42分頃~15時43分頃
※対潜哨戒ソノブイ敷設パターン
※ロシア海軍Il-38哨戒機
※爆弾倉の扉が開いている
今回の航空自衛隊の撮影ではロシア海軍のIl-38哨戒機がソノブイを投下した様子そのものは映っていませんが、爆弾倉の扉が開いている以上はソノブイを投下した可能性があります。ロシア方式は爆弾倉(爆雷、機雷、魚雷、爆弾などを搭載可能)でソノブイも運用します。
なお西側の哨戒機のソノブイは爆弾倉とは別個に専用の投下装置を設けており、ロシアとは運用方式が異なっています。
参考:ロシア海軍北方艦隊のIl-38哨戒機のソノブイ投下の様子
※過去の参考映像。
今回のロシア哨戒機はわざと日本領空を侵犯したのか、それともうっかり入ってしまったのか。もしも領空に入る気が無いなら安全マージンを取って予め飛行経路を余裕をもって設定する筈です。そして最近はGPSやグロナスなど衛星測位システムの航法支援がある筈ですから、航路がずれていることに3度も気付かないということは考え難いように思えます。おそらく意図的に挑発を行い、スクランブルに上がってきた航空自衛隊の戦闘機を訓練目標として利用していたのかもしれません。
なおIl-38哨戒機の領空侵犯の前に中国艦隊とロシア艦隊が現場海域の付近に来ていました。合同演習を実施中だったのです。あるいはこの中国ロシア合同艦隊をアメリカ原潜が情報収集目的で追尾して来た可能性があり、これに対処するためにIl-38哨戒機が対潜哨戒任務を行っていた可能性もあります。
中国及びロシア海軍艦艇の動向について:防衛省統合幕僚監部(令和6年9月23日)
- 中国海軍レンハイ級ミサイル駆逐艦(艦番号104) ※「無錫(ウーシー)」
- 中国海軍ルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦(艦番号117) ※「西寧(シーニン)」
- 中国海軍ジャンカイⅡ級フリゲート(艦番号547) ※「臨沂(リンイー)」
- 中国海軍フチ級補給艦(艦番号889) ※「太湖(タイフー)」
- 中国海軍ドンディアオ級情報収集艦(艦番号794) ※「天狼星(テンランシン)」
- ロシア海軍ウダロイⅠ級駆逐艦(艦番号548) ※「アドミラル・パンテレーエフ」
- ロシア海軍ウダロイⅠ級駆逐艦(艦番号564) ※「アドミラル・トリブツ」
- ロシア海軍グリシャⅤ級小型フリゲート(艦番号332) ※「МПК-107」
- ロシア海軍グリシャⅤ級小型フリゲート(艦番号375) ※「МПК-82」
【関連記事】※フレアを威嚇・警告用に使う例
※戦闘機用のフレアは「囮熱源」「熱囮弾」あたりが適当な訳語。火炎弾は直訳過ぎて△、照明弾や閃光弾は誤訳で×になる。ただし過去に戦闘機用のフレアが登場する以前はフレアを照明弾や発煙筒の意味で使うこともあった。また偵察機用の夜間写真撮影用の照明目的のフラッシュ・フレアという特殊装備もあったが、暗視カメラの発達によって現在は使われていない。
※この時の事件では真相は不明。中国側から自衛隊機がフレアを使った証拠は提示されなかったが、日本側も使ったか使わなかったかの明言は行わなかった。