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『トリリオンゲーム』の凜々社長役で脚光。福本莉子が真面目すぎる役にハマる理由

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)TBS/高橋裕子

1兆ドルを稼いで成り上がる道が佳境に入るドラマ『トリリオンゲーム』。主人公のハル(目黒蓮)とガク(佐野勇斗)が興したベンチャーで社長となった高橋凜々を、福本莉子が演じている。「東宝シンデレラ」オーディションのグランプリからデビューし、映画などでは数々の主演も務めてきたが、プライムタイムの連続ドラマでは初レギュラー。将来をおおいに期待されてきた資質が、超真面目で堅物な役で広く注目を集めている。

合間に鶴を折ろうとしたら箱になって

――『トリリオンゲーム』の公式Xで、莉子さんが現場でメモ帳に描いた落書きの写真が上がって、「かわいい」と話題になりました。

福本 会社のシーンでずっと自分の席にいて、ちょっと時間があったときに、何か描きたいなと思ったんです。ちょうど目の前に充電器のキャラクターがいて、これなら私でも描けるなと。まさか隠し撮りをされているとは思いませんでした(笑)。

――そういう落書きはよくしているんですか?

福本 やりますね。この前はメモ用紙を正方形に切って、鶴を折ろうとしたら、なぜか箱になってしまいました(笑)。折り鶴なんて小学生以来だったから、折り方を忘れてしまっていて。でも、その箱には今クリップを入れていて、机の上で有効活用しています(笑)。

――プライムタイムの連続ドラマでは初レギュラーですが、今までにない反響も感じていますか?

福本 すごくあります。地元の友だちからトリンリン(セレクトショップのAIキャラクター)のあいさつをマネした動画が送られてきました。ヘッドホンを着けて完全再現していたり、盛り上がってくれているのが嬉しかったです。Xでも“トリンリン”がトレンド入りして、「原作のまんま」「頑張っている姿がいい」という感想もあって、励みになりました。

小学生の頃に教わったルールを守ってます

――超真面目で堅物の凜々を演じるうえで、どんなことを考えましたか?

福本 初登場の2話では、とにかく声を大きくしたり、動きや表情で堅物感をお伝えしようとしました。バイトしていた花屋さんで、お客さんを追い掛けるシーンも、角を直角に曲がったら面白いという話になって、ロボットみたいな感じでやってみたり(笑)。

――そういう真面目さは、莉子さんにもあるものですか?

福本 私も根は真面目で堅物です。頭で考えてしまうほうで、ルールとかもすごく気にします。当たり前ですけど赤信号は絶対に渡らないとか、電車の優先席には座らないとか、小学生の頃に教えられたことを今でも守っていて。だから、凜々を演じていて違和感はありませんでした。

――そんな凜々も、トリンリンの“中の人”はノリノリでやっているようでした。公園でも手振りを付けて「またのご相談もお待ちしてます♪」とか。

福本 最初は困惑してましたけど、頼まれたら断れないのも凜々なので。苦戦しながら、だんだん板に付いてきました。トリンリンポーズみたいなものも、ちょっとダサいんですけど(笑)、慣れてきた感じでした。

――莉子さん自身がああいうノリになることは?

福本 ないですね(笑)。だから、テンション高めでやるのは大変でした。

事前に不安を潰しておきたいタイプです

――凜々はトリリオンゲーム社に採用されて、ひと晩でベンチャービジネスについて調べて、書類をドッサリ作ってきました。ああいう情報収集は、女優さんとして役の準備ですることもありますか?

福本 結構あります。原作があれば読んで、自分が演じる役の情報や心情を探って、わからないことはネットで調べたり。台本との違いも確認して、疑問点は書き出して監督に相談して、気持ちを整理します。

――特に下調べした量が多かった作品というと?

福本 映画の『今夜、世界からこの恋が消えても』では、すごく調べました。記憶障害のことや症状、日記も書いている役だったので、インプットしないといけないことはとても多かったです。

――そういうことも真面目に調べておきたい感じですか?

福本 はい。不安を潰しておきたいタイプです。

人生であんな大声を出したことはありません

――今回も事前に不安はあったんですか?

福本 もちろんありました。ファンの多い人気マンガが原作ですし、凜々のキャラクターを生身の人間が演じたらどうなるんだろうと。最初、就活で全落ちしている描写があって。私自身は就活をしたことがないので、まず友だちにどう進めていくものか聞きました。OB訪問とか知識を仕入れて、YouTubeで面接のやり方やNGな受け答えの動画を観たりもしました。

――普通の就活生は受かるために観るわけですが、落ちそうな受け答えを研究したわけですね(笑)。

福本 それをずっと考えていました。特に最初のシーンは、凜々のキャラを強く出したかったので、すごく悩みましたね。でも、現場に入ったら思い切りやろうと。面接シーンを振り切ってやれたとき、手応えを感じました。人生であんな大きな声を出したことはなくて(笑)。テストからフルパワーでやらせていただきました。

――他に、これまでで印象的だったシーンはありますか?

福本 2話はトリンリンもあって台詞がかなりの量で、すごく大変でした。「ミニマム・バイアブル・プロダクト」とかビジネス用語は普段使わないので、丸暗記でなく自分で理解したうえで皆さんにわかっていただけるように、調べるところから始めました。

――本当に真面目なんですね。

広い中華料理店のど真ん中で緊張しました

――巨大企業の社長令嬢のキリカに「あなたが決断して」と詰められたところは、現場でも緊迫感はありました?

福本 ありました。だだっ広い中華料理店のど真ん中で、桐姫様に面と向かって言うのは、すごく緊張しました。

――キリカ役の今田美桜さんは、莉子さんにとってどんな存在ですか?

福本 かわいらしい役が多い印象がありましたけど、今回の桐姫様では目力がすごくて、威厳もあってハッとさせられます。お芝居だとわかっていても、ちょっと怖いくらいでした(笑)。でも、撮影の合間にお話しすると、気さくでやさしい方でした。

――凜々は花屋でバイトをしていましたが、莉子さんもしばらく前のインスタに花を生けた写真が上がっていました。

福本 あれは1年くらい前から習っている茶道で、お点前をする前に1人で生けたんです。お花は好きで、道を歩いていて見たりもします。

――トリンリンで花のギフトを案内するときに役立ちました?

福本 カタカナが多くて難しかったです。しかも、何件も対応しないといけなかったので、台詞よりオフ台詞が多いくらいでした。

ワガママは言わずに極力自分でやります

――トリリオンゲーム社のようなベンチャー企業は、自分だったら入りたいと思いますか?

福本 楽しそうではありますよね。いろいろな事業にチャレンジして、成功していくのはすごいなと思います。でも、友だちと興した会社は、仲間割れが起きたときに大変そうですね。

――“世界一のワガママ男”のハルとは、一緒に働くとしたらどうでしょう?

福本 外で何をしているのか、ちゃんと事前に言ってほしいとは思います(笑)。物語が後半になっても、まだガクと凜々はダマされて「またハッタリ?」みたいな展開が多いので。そろそろ手の内を教えてくれたらいいのに……という気持ちはめちゃくちゃあります。

――莉子さんは子どもの頃も含め、ワガママを言ったことは?

福本 言ってるつもりはないですね。自分でやれることは、極力自分でやるようにしてきました。

――ガクも凜々もハルと出会って人生が大きく変わりました。莉子さんにはそんな出会いはありましたか?

福本 私の人生のターニングポイントは「東宝シンデレラ」のオーディションを受けたことで、ある友だちに勧められたんですね。幼稚園、小学校と同じで、中学に入ってから話すようになって、そのタイミングで「こういうオーディションがあるけど、受けてみたら?」と。今はその子と連絡が取れなくなって、何をしているのかも知らないんです。そのときだけ話すようになってオーディションを受けたので、今思えば運命的でした。

追い込まれて悪夢を見ることはなくなりました

――自分が起業するなら、どんな業種にしますか?

福本 服が好きなので、アパレルにはちょっと興味があります。でも、毎シーズン新作を出すのは大変そうで、やれるとは思えません(笑)。

――デビュー前には、起業でないにせよ、将来やりたかった仕事もありました?

福本 音楽関係の仕事はいいなと思っていました。フェスもよく行っていたので、ラジオ局に入って主催できたら楽しそうかなと、漠然と考えてはいました。

――実際には今後も女優として活躍されていくのが必然で、今年は日本アカデミー賞の新人俳優賞も受賞しました。デビュー以来、順調な歩みが続いている感覚ですか?

福本 毎回、壁にはぶつかります。自分にはない一面を持っていたり、自分と違う人間を演じることに悩みますけど、いろいろな挑戦ができるので。大変でも、気持ち的にはすごく楽しいです。

――悩むときは胃が痛くなったりもするんですか?

福本 デビューした頃はありました。初めての舞台のときは、追い込まれて悪夢を見たり。

――舞台で台詞が飛んでしまう夢とか?

福本 そういう夢も見ましたし、ちょっと言えないような怖い夢もありました(笑)。最近はそういう悪夢はないですね。

――自信も付いてきたんでしょうね。

福本 自信というか、「あの作品をやれたんだから、今回もできるだろう」と思えるようになれました。すごくうまくいったわけではないにしても、一生懸命もがいて役を作って演じた経験は、また頑張ろうという力になっています。

爪痕を残して「いいな」と思ってもらえたら

――莉子さんは沢口靖子さん、長澤まさみさん、上白石萌歌さんらが受賞した「東宝シンデレラ」のグランプリからデビューして、今回はプライムタイムの初レギュラー。傍から見ている分には、主役を張る日も遠くないように感じます。ご自分でもそんな心構えはありますか?

福本 もちろん、いつかやりたいとは思っています。それまでにいろいろな役を経験して、爪痕を残せたらいいなと。「この子、何かいいな」と思ってもらえるように演じていきたいです。

――凜々はまさにそうなっていると思います。今、役者として越えないといけない壁みたいなものはありますか?

福本 ドラマをやっていて思うのは、撮影スピードが映画よりすごく速くて。直前に台本をもらって、すぐお芝居をする。そのスピード感に、まだちょっと慣れていなくて。自分の中で表現を瞬時にブラッシュアップして、より良いものを出せるようにしたいです。

コメディで大阪弁を活かせたら

――自分で映画やドラマを観ていて、「こういう役をやりたい」と思うことはないですか?

福本 友だちには「すごく悪い役を見てみたい」と言われます(笑)。

――イメージとは逆の。

福本 そういう悪役をやりたい気持ちは、自分でもあります。あと、コメディもやってみたいです。関西人なので、大阪弁をお芝居で活かせたらいいなと思っています。意外と今まで、そういう役がなかったので。

――コメディを観るのは好きなんですか?

福本 もちろん観てます。コメディというか、『トゥルーマン・ショー』が好きです。主役のジム・キャリーが面白くて。でも、人を笑わせるのは、すごく難しいことなのかなとも思います。

撮影続きで外に出ると暑さに驚きます

――この夏は『トリリオンゲーム』の撮影に明け暮れる感じですか?

福本 そうですね。地元にも帰らず、ずっと撮影しています。

――猛暑が続いていますが、夏バテ対策はしていました?

福本 基本的に撮影はずっと室内で、気づいたら1日が終わっていることが多くて、熱中症とは無縁の生活をしていました。空き時間もだいたい控え室で寝ていて。たまに休みの日に外に出ると、あまりに暑くて驚きます(笑)。

――仕事以外では、夏の思い出はできませんでした?

福本 この前、家族で美術館に行って、休日を楽しみました。上野の東京都美術館でアンリ・マティス展を20年ぶりにやっていて、親が見たがっていたので。

――莉子さんも絵が好きなんですか?

福本 たまに展覧会には行きます。印象派のモネ展とか友だちと見ました。

オリジナルストーリーに入って想像がつきません

――撮影はこれから佳境に入るわけですね。

福本 8話からオリジナルストーリーになって、最終回までの展開は私もまだ聞いていません。この前、原作者の方が現場にいらして「凜々はガクくんを支えてあげてね」と言われました。特別な感情も芽生えてくるみたいなので、楽しみにしていてください。

――毎回冒頭などで挿入される未来のトリリオンゲーム社のシーンでは、ガクが社長になっていて、ハルも凜々もいません。

福本 あれも気になりますよね。何がどう来て、ああなったのか、まったく想像がつきません。みんなで仲良く終われたらいいんですけどね。

――クランクアップしたら、秋のお楽しみはありますか?

福本 栗ごはんですね(笑)。毎年楽しみにしています。秋もまたお仕事はあるので、そちらも頑張っていきます。

Profile

福本莉子(ふくもと・りこ)

2000年11月25日生まれ、大阪府出身。

2016年に第8回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリ。2018年に映画『のみとり侍』で女優デビュー、同年にミュージカル『魔女の宅急便』に主演。主な出演作は映画『思い、思われ、ふり、ふられ』、『しあわせのマスカット』、『君が落とした青空』、『今夜、世界からこの恋が消えても』、ドラマ『消えた初恋』、『昭和歌謡ミュージカルドラマ また逢う日まで』、『赤いナースコール』、舞台『アルキメデスの大戦』など。ドラマ『トリリオンゲーム』(TBS系)に出演中。10月から『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』(フジテレビ系)に出演。

金曜ドラマ『トリリオンゲーム』

TBS系/金曜22:00~

公式HP

(C)TBS/高橋裕子
(C)TBS/高橋裕子

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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