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飲食店の宴会で食べ残しゼロ10ヶ条 50年前、食品企業の女性社員が立ち上げた「葵会」の会長を務めて

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
Wakiya一笑美茶楼(いちえみちゃろう)で提供された9種類の前菜(筆者撮影)

2019年1月31日、50年間続いた食品企業の勉強会「葵会」の歴史が幕を閉じた。「葵会」は、1969年(昭和44年)、女性社員が会社の外で活動することが難しかった時代、食品メーカーなど6社の女性社員達有志が立ち上げた、月一回の勉強会。会の名前の由来は、当時、東京都内にあった「葵会館」を勉強会の会場にしたことだという。

毎年2月の総会で会長を選出し、多数決で勉強会のテーマを決め、毎月の幹事会社を決定。内容は、プロを招いての講演会、料理の文化や調理技術を学ぶ料理講習会、製造現場を訪問する工場見学の、主に3種類。会場は、会員会社の会議室などを借りる。事務局や会計は企業名の五十音順に毎年の持ち回り。幹事会社は、その月の会場とテーマに合う講師を決め、各社出欠を募り、当日の司会進行を務める。

葵会「食品ロス」をテーマにした勉強会で講演する筆者(岩本道代氏撮影)
葵会「食品ロス」をテーマにした勉強会で講演する筆者(岩本道代氏撮影)

筆者は最初に入社した日用品メーカー研究所の時に、同じ部署の食品担当者が出席していたことで、「葵会」の存在を知った。その後、退職して参加した青年海外協力隊を経て食品メーカーに入社し、直属上司の消費者・広報室長から引き継ぎ、会員となった。2006年度と2007年度に会長を務め、その後、2018年度(現在)も会長を務めた。この会から得られた人脈や食の知見は計り知れない。

調べた限りでは、女性の会で50年間続いた会は、葵会の他に現時点では存在しない。「ヒーブ」の通称で知られている日本ヒーブ協議会(消費者関連部門で働く女性の会)は1978年創立だそうで、2018年に40周年を迎えている。

最盛期の2000年代初期には40数社、60名以上が会員として活動した。だが、2008年のリーマンショック頃からだろうか、企業のリストラや事業整理などが続き、会員が徐々に抜けていった。2018年には6社19名となり、一つの会社が年に2回も幹事役を務めなければならなくなった。インターネットやスマートフォンの普及により、手軽に情報を入手できる時代となり、2019年1月31日をもって閉会することになった。会の創設者である方が兵庫県神戸市から東京まで駆けつけた。20代から80代まで幅広い世代の女性が集まり、新年会を兼ねての賑やかな会となった。

今回の会食では食べ残しがなかった。どうすれば宴会の場で食品ロスが出ないのか?飲食店側の視点と顧客側の視点から、それぞれ5点ずつ、10ヶ条としてまとめてみたい。

一品ごとに料理の説明をする脇屋友詞(わきや・ゆうじ)シェフ(筆者撮影)
一品ごとに料理の説明をする脇屋友詞(わきや・ゆうじ)シェフ(筆者撮影)

飲食店側

シェフ・給仕が料理を伝える

会場として葵会が選んだのは、黄綬褒章など数々の賞を受賞している、脇屋友詞(わきや・ゆうじ)シェフのお店、「Wakiya一笑美茶楼(いちえみちゃろう)」。15歳から料理の道に入り、国内外から評価されている脇屋シェフが、全ての料理の説明をして下さった。白菜を揚げてからさらに蒸してトロトロにした料理は、説明をお聞きするだけで、一つの素材に費やした時間の長さや手間が伝わってきて、食べる前から期待とワクワク感が高まった。

菜の花のスープ(筆者撮影)
菜の花のスープ(筆者撮影)

品数が多く、聞き漏らした点もあったが、料理が給仕されるごとに給仕役の方に聞くと、どなたも快く説明して下さった。

地のもの・旬のものを使う

「春近し」ということで、あさりの汁で煮込んだ菜の花のスープや、ふきのとうを素揚げして大根餅と揚げ蓮根の上にのせた料理などが供された。日本特有の四季が感じられ、楽しむことができた。

小さな容器に添えられたご飯(筆者撮影)
小さな容器に添えられたご飯(筆者撮影)

顧客に合わせた量を提供する

どの料理も、顧客の食べる量に合わせた量が出されていた。全員女性で、かつ、一部は高齢の方もいらっしゃるので、ご飯などもほんの少しだった。それでも一粒も残さず満腹感を得ることができた。

女性顧客の気持ちを汲んだデザート3種(筆者撮影)
女性顧客の気持ちを汲んだデザート3種(筆者撮影)

顧客の嗜好に合わせる

最初の前菜は、一口ずつ9種類、でもそれぞれ手の込んだ料理。デザートも、女性の「少しずつ多種類食べたい」気持ちに応えていて、杏仁豆腐・マンゴープリン・マーラーカオ(蒸しパン)の3種類をちょっとずつ一皿にのせたものだった。

今回は全員女性だったが、男性が多く、食事より、飲むことや名刺交換がメインの宴会や立食パーティであれば、食べ物は少なくした方が残らないと思う。

作る場を見せる

エンターテインメント要素を盛り込んで、という趣旨だと思うが、参加者の中から「シェフ立候補者」を2名選び、2名が前に立って、脇屋シェフのレシピの麻婆豆腐を調理した。材料や調理の順番は脇屋シェフが説明し、出来上がったものと厨房で作ったものを両方味わうことができるという贅沢さだった。

顧客側

愛ある店を選ぶ

理想論に過ぎないし、いつもそうできないのは承知の上で言うと、「食べ物やそこで働く人に対して愛情のあるお店を選ぶ」こと。食べ物を愛おしみ、敬意を払っているお店では、そう簡単には捨てない。食べ物を大切にしているお店を選び、美味しいお料理に対してその対価を払うことで、そのお店の経営が続いていくことに貢献できる。「買い物は投票」とは言うが、「飲食も投票」だ。

食べ物や働く人を粗末にするお店ではなく、それらに愛情を注ぎ大切にしているお店を選んで足を運び、応援していきたい。

幹事が呼びかける

最初に会長の挨拶として筆者が話す際、「今日は美味しく料理をいただいて、食べ残しのないようにしましょう」と参加者に呼びかけた。会が終わってから参加者と話をしたら「井出さんが食品ロスのないようにって言ったから、ちゃんと食べようって思いました」と話しかけてくれた方がいた。京都市の実証実験でも、幹事が声がけした場合としない場合とで、食べ残し量のグラムが違っていることが結果として出ている。宴会や懇親会の場合、幹事が最初や途中に声をかける、ただそれだけで、食べきろうという意識が心に残る。

料理に込められた手間と時間が思われる一品(筆者撮影)
料理に込められた手間と時間が思われる一品(筆者撮影)

腰を落ち着けて食と対話する

食事は「エサ」じゃない。腰を落ち着けて、会話をしながら、食事を堪能すること。立食より着席の方がいい、と思っていたが、先日、立ち飲み屋で6時間近く立ちっぱなしで食べ切った経験を得た。座るか立つかの問題より、「腰を落ち着けて料理に対峙する」ことの方が大切だ、と感じた。立食パーティでは、えてして、料理をいただくというより、多数の人と挨拶する方が優先するように思う。

昨日の会では、「食」を職業にする人たちだけあって、一品一品が出てくるごとに、「このインゲンは、茹でたのではなく、素揚げしてあるからこんなに噛みごたえがあるのかなあ?」など、まさに「堪能した」という感じだった。丸テーブルや四角いテーブル6つにそれぞれ分かれて座り、皆で分け合うものが残っていたら、「いかがですか?」と声を掛け合って食べ切った。

大根餅の上に、海老のジャンを使ったレンコンと、素揚げしたふきのとうのお料理(筆者撮影)
大根餅の上に、海老のジャンを使ったレンコンと、素揚げしたふきのとうのお料理(筆者撮影)

五感で楽しむ

「腰を落ち着けて堪能する」にも共通するが、料理を五感いっぱい使って楽しむこと。ふきのとうや菜の花の香り、ミミガーやキクラゲのコリコリした食感、五味、など、楽しんで食べれば、そうそう残ることはない。

一生に一度と心得る

今回の会食は、50年の歴史が閉じる記念の日だった。まさに、一生に一度。初めて会った人、あるいは久しぶりに会った人とも、次に会う機会があるとは限らない。

本当は、このような会でなくても、誰と食べるのでも、その日その人と食べるチャンスは、一生に一度なのだ。自分の人生で残された食事回数があと何回なのかは誰にもわからない。いつ人生が終わっても後悔のないよう、一回ごとの食事を味わい尽くしたい。その姿勢が、ひいては無駄のない食事に自然に繋がる。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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