プロ野球のセ・リーグは阪神が１８年ぶりのリーグ優勝を果たした。関西の盛り上がりはすさまじく、報道によれば経済効果は９６９億円だという。率いたのは今季から２度目の就任となった岡田彰布監督だ。前回の２００５年と合わせ、自身は監督２度目のリーグV。優勝を「アレ」という隠語で、選手にプレッシャーをかけることなく、関西人たちも面白おかしく「アレ」を意識しながらシーズンを楽しんだ。結果、ペナントレースを独走した指揮官。「監督力」を見せつけたキーワードは、「伝える」だと考える。

　私のシーズン開幕前の優勝予想が当たったという結果とは裏腹に、複雑な心境もある。それは、大竹耕太郎、村上頌樹両投手で積み上げた２０勝という予想もしていなかった２人が、私が活躍を予想しておきながら前半戦を不調で苦しんだ青柳晃洋投手の「穴」を埋めたからだ。

　２人に加え、先発と中継ぎがそろった投手陣が阪神独走の鍵を握ったのは間違いない。リーグで唯一２点台となる２・６１（以下、数字はいずれもリーグ優勝が決まった１４日時点）。長丁場のシーズンを勝ち抜く上で、投手陣の重要性を改めて印象づけた優勝だった。

　興味深かったのは、岡田監督がTBS系のニュースサイト「TBS NEWS DIG」内の槙原寛己さんとの対談で明かしている内容だ。

　まずはチーム本塁打がリーグ５位の７１本塁打、打率もリーグ３位の・２４７にも関わらず、総得点はリーグ唯一５００点を超えている（５０４点）要因に、大事な場面での四球があるという点だ。

　岡田監督は対談の中で、四球の査定ポイントを上げるように球団と掛け合ったと明かしている。特に試合終盤の競った場面で、先頭打者の四球はヒットと同じポイントになるようにしたという。私の経験上、投手はランナーを出すという結果では、「ヒットも四球も同じ」くらいダメージがある。

　そして、岡田監督は、四球の査定ポイントが上がったことを選手たちにも伝えているという点が重要だ。

　対談時の９月１１日時点で、大山悠輔選手リーグ1位の８８個、近本光司選手が３位の６４個、中野拓夢選手が５位の５３個、佐藤輝明選手が６位の５２個と上位６人中４人に阪神の選手が名前を連ねる。上位も中軸も安打と同じ評価につながる四球で査定ポイントもアップできるなら、この結果にも納得できる。

　四球を評価する指揮官は、自軍の投手の与四球にも厳しくなる。それゆえか、阪神が相手チームに与える四球数がリーグでもダントツで少ない。「大事な場面で四球を選べ、大事な場面で四球を出さないチーム」は、相手からみれば手強いのは当然だろう。

　投手起用に際しても、興味深い点があった。

　マウンド度胸があると踏んだ島本浩也投手には「お前はランナーいてるとき用や」と伝えたという。救援経験がある立場でいえば、イニングの頭からの方が当然、投げやすい。試合終盤によく走者がいる場面を任され、そこを抑え込んでいけるのは、私の現役時代でいえば、中日の浅尾拓也投手くらいのイメージしかない。

　また、なかなか先発機会に恵まれなかった桐敷拓馬投手が２軍のフレッシュオールスターで抑えを担ったときの好投から「中継ぎタイプ」と見極めて起用したりと、選手をみる「目」も確かだ。前回２００５年のリーグ優勝でも、やはり先発から中継ぎへ転向させた藤川球児氏の活躍が大きかった。

　もちろん、こうした配置転換は偶然の産物ではない。２軍戦も含めて、試合を自らの目でチェックし、チーム全体をマネジメントする姿勢があるからこそ、自信を持って行えるのだろう。

　チームの戦力を理解し、起用や采配に活かす。しかも、自らの意図を選手にも伝え、チーム内でも共有する。積極的なコミュニケーションは若い監督の手法というイメージがあるかもしれないが、球界最年長の岡田監督もまた、巧みにタクトをふるう上で重宝した人心掌握術かもしれない。もちろん、選手の活躍が第一で、ファンの応援、前回の優勝から昨季まで指揮を執った他の監督、コーチたちが蒔いた種も開花したからこその優勝でもある。阪神タイガース、まさに、あっぱれである。