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「えっ!養子はダブルで相続できるの!?」~養子縁組と相続の関係

竹内豊行政書士
意外と知られていない「養子縁組」と「相続」の関係を解説します。(写真:イメージマート)

田中一郎さん(仮名・60歳)の父・田中太郎さん(仮名)は老衰で亡くなりました。享年90歳の大往生でした。田中さんの母・良子さん(仮名)は既に10年前に亡くなっていたので、一郎さんは「ウチは相続でもめることはないな。弟の二郎は5年前に妻の母親と養子縁組をして姓も佐藤に変えているし。相続人は自分一人だからもめようがないからな。今考えると、二郎が養子に行ってくれてよかった」と胸をなでおろしていました。

一郎さんは2人兄弟で、弟の二郎さん(55歳)は5年前に妻・由美さん(48歳)の母親・佐藤静子さん(75歳)と養子縁組をしたのです。その理由は、静子さんは夫と死別して一人暮らしをしていて、由美さんは一人娘だったので、静子さんから「二郎さんと養子縁組をして佐藤家の墓を守って欲しい」と言われたのでした。二郎さんはその要望を受け入れて妻の母・静子さんと養子縁組をして姓も佐藤に変えたのでした。

養子に出たのに実の親の相続権はあるのか?

一郎さんは太郎さんの四九日の法要のときに二郎さんから「オヤジの相続なんだけど、俺にも半分遺産をもらう権利はあるから、分け方を考えておいてくれないかな」と突然遺産分けの話を持ち出されました。一郎さんは驚いて「だってお前は養子に行って家から出てるだろ。苗字だって田中から佐藤に変わってるし!」と言い返しましたが、「養子に入ってもオヤジ(実親)の相続の権利は残っているんだよ。今の話、考えておいてくれよ」と言い残して帰ってしまいました。一郎さんは「二郎の言うことが正しければ厄介なことになるな・・・」と頭を抱えてしまいました。

養子には二重の相続権がある

養子制度は、後継ぎや扶養を目的とする場合に利用されることがあります。養子縁組は、養親なるべき者と養子となるべき者との合意に基づく養子縁組届が役所に受理されることにより成立します(民法799条)。

そして、養子は縁組成立の当日から、養親の嫡出子(養親から生まれた子)としての身分を取得します。ただし、実の親(実親)との親子関係も残るため、養親との二重の親子関係が成立します。その結果、養子は実親と養親の両方の相続人となります。

なお、養子縁組により、養子は養親の姓に改められます(民法810条)。これを「養親子同氏の原則」といいます。

このように、養子は実親と養親の二人の親の相続権を有します。つまり、養子は実親と養親のダブルで相続できるのです。したがって、養子に行ったからといって実の親の相続権を失うことにはなりません。兄弟姉妹の中に養子に行った方がいる場合はその方も遺産分けの話し合いに参加してもらう必要があります。くれぐれもご注意ください。

※この記事は、民法を基にしたフィクションです。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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