株価急落の行方、求められる「国際協調」の理想と現実
世界同時株安が止まらない。日経平均株価は8月21日に2万円の大台を割り込んだが、週明けの24日に1万9,000円台を割り込んだのに続き、本日(25日)は1万7,000円台に突入する動きを見せている。今年高値からの最大下落率は15%を超えており、僅か1週間で株式市場の景色は一変してしまっている。
上場企業の2015年4~6月期の連結経常利益は前年同期比24%の増益となっており、輸出企業のみならず内需企業でも過去最高益を更新する企業が目立った。ただ、中国経済の減速、そして米国の利上げ観測を背景に世界の金融市場に動揺が走る中、これまで良好なパフォーマンスを保ってきた日本株でさえも強力な売り圧力に晒されている。
菅官房長官が「日本経済の緩やかな回復基調は替わらない」との認識を示した上で「海外市場の動向を注視する」とコメントしているが、その背景には仮に日本が直ちに何らかの行動を起こしても大きな意味はないとの見方がある。麻生財務相も、「リーマン・ショックの時の不安と今回は全く違う」として、世界経済の基盤には自信を示している。
8月25日の日経平均株価は一時プラサイドに切り返す動きを見せたが、その要因としては単純な「下げ過ぎ感」と同時に、「政策期待」の声が聞かれる状況にある。即ち、世界の首脳が株安を放置できなくなり、何らかの政策対応に踏み切るのではないかとの期待感がある。菅長官は、「G7と連携して、必要なら必要な対応策を取っていく」方針も確認している。
■抗日行事に集中する中国への失望
ただ、こうした「国際協調」実現は容易ではない。そもそも、今回の株価急落の直接的な要因としては中国経済の減速懸念があり、仮にG7が国際協調を演出したとしても、大きな効果は期待できない。米国の利上げ時期が接近する中、中国の過剰設備解消の遅れ、金融システム改革の遅れなどのこれまで潜在化していた問題が表面化する中、G7が単独で切ることのできるカードは多くない。必要なのは中国も含めた国際協調の動きだが、直ちにG20にまで国際協調の動きを広げて政策パッケージが打ち出される実現可能性は低いと言わざるを得ない。
そもそも、G20内でも米連邦準備制度理事会(FRB)が早ければ9月にも利上げに踏み切る可能性がある一方、諸外国は景気支援での金融緩和、通過防衛での金融引き締めと政策対応が割れており、金融政策の方向性が大きく異なっている。
このため、8月27~29日まで米カンザスシティ連銀主催でジャクソンホールにて開催される年次シンポジウムにおいて、出席を予定している日本・米国・欧州・中国などセントラルバンカー(中銀当局者)が何を語り合うのかが、世界金融市場の行方を左右しかねない状況になっている。今回はイエレンFRB議長が既に欠席を表明しているが、市場関係者の動揺を収束させるに足るメッセージを打ち出すことができるのか、セントラルバンカー達の手腕が試されることになる。
中国当局がなりふり構わずに打ち出した株価対策が不発に終わる中、中国の指導部が世界経済・金融市場の震源地になっている現実に向き合い、自国経済・金融市場の安定化に向けてあらゆる手段を講じることができるかに、世界が注目している。中国では9月3日の「抗日戦争勝利70年」記念式典で国威発揚が目指されているが、抗日行事への準備ばかりにエネルギーが注がれる現状に、市場が中国に向ける視線は厳しさを増している。このタイミングで天津の爆破事故など当局の機密主義ばかりが目立つことも、中国リスクを増幅させている。