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男子バレー西田有志が体感する、初めての「世界」

田中夕子スポーツライター、フリーライター
18歳のオポジット、西田有志。スピードと躍動感あふれるプレーは日本の新たな武器。(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

初めて味わう「嬉しさ」と「悔しさ」

 男子バレー世界選手権1次ラウンド第3戦、スロベニアと対戦した日本は1-3で敗れた。

 サーブ、ブロックと連携したレシーブからなるスロベニアのトータルディフェンスにはめられ、2敗目を喫した悔しさを露わにする選手の中で、最も悔しそうな表情を浮かべていたのが今季日本代表に初選出された18歳のオポジット、西田有志だった。

「いつもより思い切りできていなかったというか、自分の中で、まだまだ弱い部分があったと思います。スパイクに関しては課題を上げるところはそんなにないですけど、向こうのブロック、レシーブのシステムに(自分のスパイクボールを)上げられてしまった。あそこではめられるんじゃなくて、自分からどういうふうに仕掛けていくかがまだまだ安易だったと思います」

 初勝利を挙げた2戦目のドミニカ共和国との試合では、出場時にアップゾーンからコートまで、ぴょんぴょん飛び跳ねながら進み、「やっと出られた」と目を輝かせた。未体験の舞台はすべてが新鮮で、ここで敗れる悔しさもまた、初めての経験。西田は、初めての「世界」を体感していた。

自分は子供。「痛くないから出してくれ」

 三重・海星高校在学時からVプレミアリーグのジェイテクトスティングスの内定選手として出場し、高いポテンシャルと攻撃力を存分に発揮。瞬く間に日本の「エース」と呼ばれるポジションに躍り出た。

 5月に開幕し、世界各国を転戦したネーションズリーグでもポイントゲッターとして活躍。1月に18歳になったばかりとは思えない存在感とプレーを、昨季はドイツ、今季はポーランドリーグでプレーする日本代表主将の柳田将洋も「映像で見た時も『すごいな』と思っていたけれど、実際に見たらパンチ力があって、めちゃくちゃすごかった」と称賛。中垣内祐一監督が「ベスト8相当」と目標を掲げる世界選手権でも、西田が果たす役割や活躍に期待を寄せる声は少なくなかった。

 すべてが順風満帆に進んでいると思われた、そんな時にアクシデントが生じる。ローマでの開幕戦を3日後に控えた練習時、隣にいた選手とブロックの着地時に接触し左膝を負傷。「それほど痛みは感じなかった」と言うが、大事をとって初戦は欠場。1つのターゲットとしてきた、フォロイタリコでのイタリアとの開幕戦に出場することはかなわなかった。

「ケガした時は、挫折じゃないですけど、あ、終わった、って思ったんです。この大会でケガ人をつれながら試合をしても、と考えたし、ホントに危機感を感じていました。時間が空いて、ケアもしてもらったし、体づくりもできてよかったんですけど、僕、まだ子供なんで『痛くないから出してくれ』っていう気持ちのほうが強かったんですけど、そんなこと言えないし(笑)。我慢して、我慢して、だからコートに立てた時は嬉しかったし、まだまだ、もっと出たい、と思う気持ちが強くなりました」

デカい相手には一番負けたくない

 スロベニア戦もスタートから出場したわけではなかったが、2セット目からフルでコートに立ち、得意なコースを狙ったジャンプサーブでブレイクを重ね、ブロックの間を無理に抜こうとするのではなく、当てて飛ばす、豪快なスパイクで得点を重ねた。

 だが、第2セットを日本に取られたスロベニアもすぐ西田の攻撃に対策を練り、実践する。ブロックで塞いだコースの抜けた場所にレシーバーが入り、2セット目には決まったスパイクが拾われる。少しずつ生じた迷いはサーブにも連動し、得意なゾーンに攻めて有効だったはずが「もっと一工夫したほうがいいのではないか」と考え始め、攻め切れない。

 その結果、スロベニアにはめられる形で敗れ、悔しさだけでなく、もどかしさも残った。

「考えなくてもいいことを考えてミスを出してしまった。向こうのレシーブがよかったので、どうやったら崩せるのか、自分の中でちょっとしたネガティブさが出てしまったんだと思います」

 とはいえ、まだ試合は続く。残り2戦で勝利すれば2次ラウンド進出は十分に可能であり、重要なのは敗戦から出た課題を消化すること。下を向く理由など微塵もない。

 そしてそれは、他ならぬ西田自身が誰よりも一番、そう思っているはずだ。

「自分がちっさいから、いつもデカい選手と戦う時は『絶対、勝ったるでな』っていう気持ちでいつもやっているし、勝った時はすごく嬉しいんで。その気持ちだけは、絶対忘れちゃダメだと思うし、とにかくデカい相手には一番負けたくないです」

 ようやくスタートラインに立った。嬉しさも、悔しさも力にして、負けず嫌いの本領発揮はこれからだ。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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