巨大なダークマターの塊が、天の川銀河を歪ませていた!?
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「天の川銀河の奇妙な構造に対する新たな説明」というテーマで動画をお送りします。
天の川銀河は、同じ分類の一般的な銀河とは一部異なる形状をしていることがわかっています。
天の川銀河の奇妙な形状の原因には、完璧な説明が存在していませんでしたが、今回新たに「天の川銀河全体を取り囲む巨大なダークマターの塊の傾きが原因」であるという説が浮上しました。
本動画ではそんな最新のニュースについて、じっくりとまとめていきたいと思います。
●天の川銀河の奇妙な形状
天の川銀河はあまりに巨大すぎて、その中にある地球から探査機を銀河の外へ飛ばして、俯瞰的にその全貌を見ることが不可能です。そのため最も身近な銀河でありながら、謎が多く残されています。
しかし観測技術の進歩と共に、ガイア宇宙望遠鏡などの登場もあり、銀河にある億単位の星々の個々の位置や運動を細かく調べ上げることで、天の川銀河の全体像が徐々に理解されつつある現状です。
天の川銀河の基本的な特徴としては、まずその形状的に「棒渦巻銀河」に分類されることが挙げられます。
棒渦巻銀河は星が高密度で集まった円盤構造を持ち、中心のさらに高密度で星が集まり、横から見ると膨らみを持っている「バルジ」領域を貫くように、棒状に長い構造が伸びているという特徴を持っています。
そして天の川銀河の円盤構造の直径は約10万光年あり、太陽系は天の川銀河中心から約26000光年離れたところに位置しています。
天の川銀河には、一般的な棒渦巻銀河には見られない奇妙な特徴が見られます。
その代表例が「たわみ(warp)」で、銀河円盤がまるでポテトチップスのように、一方が上方に、もう一方が下方に歪んでいることです。
そして銀河円盤中心部から離れるほど、円盤の厚みが増していく「フレア(flare)」という構造も知られています。
●たわみの原因は銀河衝突?
このような銀河円盤規模の巨大なたわみは、何が原因で生じたのでしょうか?
実はたわみの存在自体は1950年代から知られていたものの、その発生原因は長年不明で、銀河間の磁場の影響など様々な説が提唱されてきました。
そんな中、欧州宇宙機関(ESA)のガイアプロジェクトが、このたわみの原因を解明した可能性があると近年発表しました。
ガイアは天の川銀河内の数十億個もの恒星の位置や速度などの詳細なデータを得ることで、銀河の構造やその歴史、未来について理解することを目的としたプロジェクトです。
これまでに目覚ましい活躍をしています。
ガイアの分析により、このたわみ構造の公転周期が6-7億年であると判明しました。
これは太陽系が約2億年で銀河を1周するのと比べると遅いですが、たわみ構造の形成原因がこれまで考えられていた銀河磁場など他の要因だった場合では説明できないほど、予想外に速いものであったそうです。
このことから、このたわみ構造を形成したのはより高エネルギーの現象、つまり銀河同士の衝突である可能性が高まりました。天の川銀河自体も、矮小銀河との衝突で大きな影響を受けているということです。
しかし銀河衝突によってたわみ構造は説明できても、フレア構造など天の川銀河のその他の特徴を同時に説明することはできていませんでした。
●ダークマターハローを原因とする新説
実は2022年11月、たわみやフレア構造とは別の天の川銀河に関する奇妙な特徴である「恒星ハローの傾き」が新たに発見されました。
そしてそこから理論を展開すると、円盤のたわみやフレア構造まで説明できる可能性が浮上しました。
まずは2022年11月に発見された恒星ハローの傾きについて解説し、その後最新の説明についても触れたいと思います。
○恒星ハローの傾きとは
天の川銀河には、低密度の恒星やダークマターが円盤構造全体を球状で包み込むように分布している「ハロー」と呼ばれる構造が存在しています。
ハローはその成分ごとにさらに構造が分けられ、恒星や球状星団から成るハローを特に「恒星ハロー」、ダークマターから成るハローを「ダークマターハロー」と呼びます。
天の川銀河の場合ディスクの半径が約5万光年とされているのに対し、恒星ハローの半径は数十万光年にもわたって広がっているそうです。
それだけ広大な範囲に広がっているにも拘らず、銀河全体に含まれる恒星の総質量のうち、恒星ハローに含まれるのは全体の1%程度しかないそうです。
そのため恒星ハローは非常に希薄で、暗く観測が困難な構造です。
また、そこに所属する恒星は非常に年齢が高く、ほとんどが今から120億年以上前に誕生した低質量星だとされています。
そんな天の川銀河の恒星ハローですが、従来は綺麗な球形をしていると考えられていたものの、実際はラグビーボールのように潰れた形をしていることが2022年11月に発表されました。
研究チームは、地球から観測できる億単位の恒星の位置や組成、運動などのデータを集めている「ガイア」と、さらに遠方の星のデータを評価できる「H3」のデータセットから、天の川銀河の恒星ハローの形状を分析を行いました。
恒星ハローに含まれる星々は、ディスクに含まれる星々とは速度成分や、化学組成等のパラメータが明確に異なるため、それらを調べることでどの星が恒星ハロー内の星なのかを理解することができます。
その結果、明確にラグビーボールのように非球形で、しかも傾いたハロー構造が浮かび上がってきました。
具体的にはこの構造は銀河面に対して25度傾いており、縦横奥行きの3軸の長さの比が10:8:7となっていたそうです。
○ダークマターハローの傾きを考慮した結果…
これまでにこれらのような発見と理解があった中、恒星ハローの傾きを発表したメンバーを含むハーバード・スミソニアン天体物理学センターが率いる研究チームは、新たに興味深い発見をもたらしました。
実は恒星ハローだけでなく、ダークマターハローも銀河面に対して25度傾いていると考えると、円盤のたわみやフレア構造といった、天の川銀河に関する奇妙な特徴をまとめて説明できるというのです。
円盤に対してダークマターハローも25度傾いた銀河のモデルをコンピュータシミュレーション上で作り、そこで星やガスの軌道変化を実に50億年分も計算しました。
その結果、ダークマターハローが傾いた銀河では、実際に円盤構造のたわみやフレア構造までもが再現されたそうです。
シミュレーションによると、ダークマターハローの傾きは、約70億年前の銀河衝突によって引き起こされた可能性が示されています。
もともとダークマターハローは銀河面に対して50度ほども傾いていましたが、徐々に水平に近づき、現在は25度になっているとのことです。
もしかすると天の川銀河は、傾いたダークマターハローに包まれているのかもしれません。