海賊党が政権入りも 「パナマ文書」がアイスランドの政治を変えた
議席3倍増
世界最北の島国アイスランドで議会選(定数63)が29日行われました。開票が3分の1進んだ時点での速報値ではインターネットの自由と直接民主主義を唱える市民運動「海賊党」が得票率13%強で9議席を獲得し、議会第3党に躍進する見通しです。
前回2013年の議会選で海賊党は得票率5.1%で3議席、議会第6党でした。タックスヘイブン(租税回避地)の実態を暴いた「パナマ文書」で資産隠し疑惑を指摘されたグンロイグソン首相(進歩党)が今年4月、辞任したことを受け、来年に予定されていた議会選が前倒し実施されました。
グンロイグソン首相が辞任する前まで海賊党は世論調査の政党支持率で首位を独走(上の折れ線グラフ)していました。その後は実績のある独立党が巻き返しており、今議会選では20議席を獲得する見通し(速報値)です。
しかし海賊党、左翼環境運動(速報値12議席)、社会民主同盟(同4議席)、明るい未来(同4議席)の野党4党で計29議席に到達するので、改革(同7議席)を巻き込めれば連立政権を樹立できます。
女性党首はウィキリークスのシンパ
海賊党の女性党首ビルギッタ・ヨンスドッティルは、09年にアイスランドを訪れた告発サイト「ウィキリークス」創設者ジュリアン・アサンジと一緒に「表現の自由」に関連する法整備の強化に努めるなど、ウィキリークスと協力してきました。
翌10年にはイラクで米軍ヘリが民間人を攻撃する動画の編集に関わり、ウィキリークスがこの動画を公開して世界に衝撃を与えるのを支援します。ウィキリークスに機密情報を漏らし、現在、服役中のチェルシー・エリザベス・マニングの釈放を訴えています。
今や世界約70カ国に広がる海賊党の名は違法コピーされたCDなどの海賊版に由来し、06年にスウェーデンで設立されました。私的目的でのインターネット上のファイル交換や海賊版CDの合法化、ネット空間のプライバシー保護を主張し、09年の欧州議会選ではスウェーデンから2人の議員が選出されました。
11年9月のドイツ・ベルリン特別市(州と同格)議会選では州議会レベルで初めて海賊党が初めて5%の最低ラインを越えて15議席を獲得しました。しかし今年9月のベルリン特別市議会選では反移民・難民を唱える新興政党「ドイツのための選択肢」が議席をゼロから25に増やしたあおりで海賊党は壊滅しています。
海賊党がアイスランドで支持されるようになった大きなきっかけは世界金融危機です。金融立国を目指していたアイスランドでは国力をはるかに上回る規模の金融資産を抱えていたため、世界金融危機で金融システムが完全に破たん。当時のホルデ首相(独立党)は職務怠慢で有罪判決を受けます。
そしてグンロイグソン首相(進歩党)にも「パナマ文書」の暴露によって資産隠しを図っていた疑惑が浮上。既存政党や政治支配層(エスタブリッシュメント)への信頼は大きく損なわれます。
アイスランドの人口は33万人強で、このサイズなら間接民主主義でなくても、ICT(情報通信技術)を上手く使えば、透明性が高く、効率的なデジタル直接民主主義が実現できるという思いがあるのかもしれません。
インターネットの個人使用率は世界一
アイスランドは水力発電や地熱発電で発電量が大きく、電気代が安いのです。しかも気温が低く、コンピューターの冷却コストを抑えるのに適しています。このためアイスランドはICTのデータセンターの誘致に力を入れています。
世界経済フォーラムの「世界情報技術レポート 2016」で、アイスランドは、インターネットの個人使用率、PCの世帯普及率、バーチャルソーシャルネットワーク使用率、人口1人当たりの発電量、インターネットサーバー数(人口100万人換算)で世界一になっています。
海賊党は(1)インターネットを誰にとっても自由な言論空間にする(2)権力の透明化を進める(3)新しいテクノロジーは新しい利益と発展をもたらすと考えており、世界的なハッカー集団「アノニマス」でも活動するメンバーもいると言われています。
アイスランドの海賊党は週35時間労働、合法薬物の緩和、著作権法の見直しを主張しており、もし政権に参加することになれば、デジタル直接民主主義のテストケースになるインパクトを秘めています。
(おわり)