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英アマゾン・キンドルでの自費出版の話 その2

小林恭子ジャーナリスト
レイチェル・アボットさんのアマゾン・キンドルの著者サイト

今年4に開催されたロンドン・ブック・フェアーで聞いた、アマゾン・キンドルでの電子書籍・自己出版の話を続けたい。(筆者ブログ「英国メディア・ウオッチ」掲載分の転載です。数字は当時のもの。)

「キンドル・ディレクト・パブリッシング(KDP)」についてのセミナーに出てみた。以前から、アマゾンでの電子書籍の自己出版について、大いなる興味と期待を抱いてきた。

新聞記事などではよい話ばかりなのだが、このセミナーに出てみて、がっかりはしなかったが、更なる疑問がどんどん出てきてしまった。

まず、説明に立ったのは、KDP部門のアティフ・ラフィク氏である。この部門の担当者で、普段は米国勤務だ。

ラフィク氏の説明によると、KDPでは複数の言語(英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語など)で出版できる。そして、キンドルでの出版とは、PC,タブレット、そしてキンドルなど、様々な端末で読める形になる。

作り方はとても簡単で、まず原稿を先に作っておく必要があるが、その後、原稿をKDPの画面からアップロードし、価格など細かい点を決めて、「出版する」を選択するだけだ。これで、「早ければ、24時間後には商品として出る」そうだ。

この「早ければ、24時間で」という言葉は衝撃的だったが、なんだかドキリともした。つまり、「早すぎはしないか?」と。通常、新聞や雑誌用に原稿を出してさえ、これをフォーマットに入れて、ゲラを作るまでには少々時間がかかる。ある意味、かかって当然でもあるだろう。「24時間」とは、つまるところ、(ほぼ)ノーチェックということでないか?

ラフィク氏によれば、出版後は、何部売れているのかを自分で確認できるという。ここが既存の出版社とは違うところだ。

作者の印税分だが、価格によっても変わるのだが、英国では最大で70%だという(普通の本だと、通常の印税は10%前後といわれている)。KDPでは、一定の金額以下の価格だと、印税は35%になる。

価格は後で変えられるそうで、例えば発売直後はキャンペーンとして非常に安くするというのも手だそうである。

KDPでベストセラーになった作家もすでにいる。前回、紹介したケリー・ウィルキンソン氏もその一人だ。

会場には昨年11月、「オンリー・ザ・イノセント」という犯罪小説をKDPで出した、レイチェル・アボットさんが姿を見せた。以下は一問一答の抜粋である。

―何故KDPで出したのか?

アボット:本をいつかは書きたいと思っていたのだが、仕事があって書く時間がなかった。しかし、4年前に引退し、時間ができたので、楽しみとして書いた。いろいろな人に読んでもらうと、面白いというフィードバックが返ってきた。

いくつかの出版社にも送ってみたのだが、「面白い」「よい作品だ」とは言ってくれたが、最終的には「うちには合わない」と言われた。作家の面倒を見る、エージェントにも登録したが、よい話にはならなかった。去年の秋から、英国でもKDPができると聞いて、やってみようと思った。

―ベストセラーをどうやって達成したのか?

最初は1日に数冊売れただけだったが、まず、ビジネスプランを作った。どうやって売ろうか、と。前にコミュニケーション関係の会社に勤めていた。3週間をかけて、マーケティング計画を立てた。実際には、ソーシャルメディアを多用した。例えば、ツイッター。作家のツイッターをフォローする人を自分もフォローした。週に7日、1日に12時間、マーケティングに専念した。今年2月、ナンバーワンのセラーになった。

ー価格付けは?

最初は1・99ポンド(約250円)で、それから1月半ばごろ、特別キャンペーンとして99ペンスで売った。

―ツイッターを使ったやり方で効果的な方法は何か?

ほかの作家のツイッターを研究し、フォローされたら、必ずこちらもフォローした。また、一人ひとりに話しかけたり、興味深いツイートを心がけた。本の一部の内容を引用することも、意識的に行った。また、いつツイートが出るかにも気を使った。例えば、300のツイートが、3時間ごとに出るように、と。作家が読者と関係性を持つことが重要だと思う。

レイチェル・アボットさんの著者サイト

http://www.amazon.co.uk/Rachel-Abbott/e/B0068FBVCW/ref=ntt_athr_dp_pel_1

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会場からアマゾン側に出た質問を2つ、紹介する。一つは私の質問だ。

―先ほど、「早ければ24時間で出る」など、早さを強調していることが気になった。これだけ早いとすると、アマゾンのほうでは、中身についてのチェックがまったくなし、そのまま出るということを意味はしないだろうか?だとすると、キンドルで販売する、書籍の質の維持はどうやっているのだろうか?

ラフィク氏:うーん・・・これはよい質問ですね・・・。アマゾンでは、問題があるようなものがないかどうか(私の推測だが、ポルノグラフィックなものや人の中傷などだろうか?)に目を通している。(=あまりストレートな答えにはならなかった感じがした。)

もう1つは、「ベストセラーの話が紹介されたが、すべてがたくさん売れるわけではないのでは?KDPでは、平均どれぐらい売れるのか?」

ラフィク氏は、「アマゾンではそういう情報を共有しないことにしている」と述べるにとどまった。

セッションが終わって、どことなく気になったことが1つ、2つ。前回もそう思ったのだが、

*KDPを使って、初めて本を出す人の本の価格が、いやに低すぎないか?(コーヒー一杯も飲めない価格にする必要があるのだろうか?)モノにもよるだろうが、時間をかけて作った本の場合、どんなに安くても、日本で言えば500-1000円ぐらいにはなってもいいと思う。ただ、「本とは何か?」の考え方が、ここに来て変わっている可能性もある。つまり、画像が入って、せいぜい20分ぐらいで読み切れてしまうものが主流になる「かも」しれないのだ。

*様々な質の本が出ることになるが、もちろん、つまらない本は売れないからいいのだ・・・という説明はできるものの、「本が出しやすい」ということは、つまりは「小売店はノーチェックで本を出す」ということにもつながる。「間に入る出版社=編集者がいなくなった、よかったな、めんどくさくなくて」・・・などと言って、喜んでばかりでいいのかなあと。小売側の責任はないのだろうか?質、水準、もろもろの責任は、一切合財(基本的には)、作家に帰することになる状況は、いいのか、悪いのか?

*今は誰でも情報の発信者になった。文章が外に出るとき、書き手以外のほかの人の手が介在しないのが普通になってきた。フェイスブックもツイッターも、まさにそうだ。私たちはもう、こういう状況になれているのだーしかし、本もそれでいいのかな、と。

*出した後で、実はほとんど売れていなかったりする人のケースも、レポートされてしかるべきじゃないだろうか?そのほうが、KDPで出す本の質があがると思うのだが。

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などなど考えると、どことなく、心に秋風が少し吹いた、ロンドンの夕刻であった。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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