五輪のドローン演出と軍事用ドローン・スウォーム戦術の違い
7月23日の東京五輪開幕式に使われた1824台のドローンによる光の演出は、アメリカIntel社の「Shooting Star」システムによるものです。このシステムは以前に韓国で行われた2018年平昌五輪でも使われています。
GPS+RTKによるプログラム飛行
「Shooting Star」システムはGPSとRTKで位置決めを行うプログラム飛行です。事前に飛行パターンと発光パターンを入力して飛ばす方式で、人の手による遠隔操縦は行いませんし、ドローン自身の自己判断能力もありません。
RTK(Real Time Kinematic)とは衛星測位システムのGPSを補助して精度を高める装置で、地上に基準局を設置してGPSの誤差を検出して補正した情報をドローンに送ります。これにより精度がセンチメートル単位まで向上し、密集飛行させることが可能になります。このため、ドローンはRTKの基準局がある付近でしか密集飛行はできません。つまりこの方式は軍事用途には全く不向きです。
軍事用ドローン・スウォーム戦術との違い
軍事用に将来考えられているドローン・スウォーム(ドローンの群れ)戦術とは、単にドローンの数が多いというだけの意味ではありません。単純に数が多いだけの一斉攻撃なら、既存の多連装ロケットでも可能な古典的戦法に過ぎません。
ドローン・スウォームとは各ドローンが自己判断で自律戦闘を行う徘徊型兵器であり、さらに群れの仲間同士で連携を行いながら戦う兵器システムのことを言います。
進化した人工知能(AI)と優秀なセンサー、僚機との通信ネットワーク能力。群れ全体で得た索敵情報を統括し、目標付近の仲間に攻撃を指示し、遠くの仲間を呼び集め、群れ全体が一つの生き物のように考えながら行動する未来の兵器です。戦場に投入された場合は革命的な変化をもたらすことになるでしょう。
しかし自律戦闘型ドローンは敵と味方と非戦闘員を識別して戦闘を行うには高度な人工知能を完成させる必要があるので、実用化はまだ当分先の話になります。細かい識別をしなくてよいというなら今直ぐ作れますが、不用意に戦場に投入した場合には戦争犯罪としか呼べない結果を招いてしまいます。
リビアで自律型致死兵器システム(LAWS)使用の疑い
国連安全保障理事会の専門家パネルは2021年3月に「リビアで自律型致死兵器システム(LAWS)の自律戦闘型ドローンが使用された可能性がある」という報告書を提出しています。( 報告書 ※英語のPDF資料)
国連専門家パネルはトルコ製攻撃型ドローン「カルグ2(Kargu-2)」に自律戦闘能力があるという疑いを掛けています。製造元のSTM社がカルグ2には自律戦闘能力があると自称していたからです。
国連専門家パネルはこれ以前に行われたナゴルノ・カラバフの戦争で使用されたイスラエル製攻撃型ドローン「ハロップ」には自律戦闘能力を持つ疑いを掛けていないので、ハロップは高度な人工知能を持たず単純な行動しかできない、自律戦闘兵器ではないレベルの徘徊型兵器と認定されたことになります。
しかしカルグ2に敵と味方と非戦闘員を識別して戦闘を行う高度な人工知能があるようには思えません。なにしろ自律戦闘兵器は超大国アメリカですらまだ実用化できていない兵器システムです。おそらくカルグ2は細かい識別は行えない原始的な無差別攻撃兵器で、事前偵察で敵しか居ないと確信できた範囲のみを飛行するように設定されて送り込まれる運用ではないかと考えられます。
カルグ2の能力の調査は進んでいないのでどのレベルの技術なのかはまだ判明していません。今のところまともな戦果が報告されていないので、実用的なものかどうかすら不明です。ただ、もしも革命的な兵器なら大きな戦果が上がっている筈なので、そうではない以上はまだ技術的には低いレベルのものである可能性が高いでしょう。