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山本太郎代表の「増税クソメガネ」質問は、何が不適切か

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

11月1日の参議院予算委員会で、れいわ新選組の山本太郎代表が質疑に立ち、岸田総理に対し、ネットなどで「増税メガネ」などと呼ばれていることを直接質問するという出来事がありました。国会質問の冒頭から直接総理に投げかけた質問が適切だったか、報道でも疑問の声があがっています。

山本太郎代表の質問と岸田総理の答弁はどのような内容だったのか

11月1日の参議院予算委員会における山本太郎代表の質問と岸田総理の答弁を、参議院インターネット中継をもとに筆者が書き起こした内容は以下の通りです。

(※なお、文字起こしは筆者が行ったものであり、参議院の議事録や速記による公式なものではないことにご留意ください)

〇予算委員長 次に山本太郎君の質疑を行います。山本太郎君。

〇山本太郎議員 れいわ新選組山本太郎です。「増税メガネ」と呼ばれる政治家がいます。総理、誰のことかご存じですか?

〇岸田総理 はい、あの、ネット等でそういった名前で私を呼んでいるという動きがあることは承知をしています。

〇山本議員 はい。このニックネームがさらに「増税クソメガネ」と進化した政治家がいます。総理、誰のことかご存じですか。

〇岸田総理 はい、あの、名前が進化したということですが、そういったことについては、承知しておりません。

〇山本議員 はい。ネットでのトレンドワード、岸田総理のあだ名はこの今ついてる名前ですね、私自身は大変失礼な話だなと思うんです。なぜなら総理は所得税の減税を進めようとしているんですね。百歩譲って増税メガネではなくて減税メガネと呼ばれる局面ではないかと。そう思うわけです。この減税について、賛否はありますけれど、一定評価されるものじゃないかと、いうふうに思います。(以下略)

メガネを揶揄する発言としての「増税メガネ」は、日本維新の会所属の支部長が「増税メガネ」と書かれたチラシを作成したことでネットで問題視され、日本維新の会の音喜多駿政調会長が岸田文雄首相を「増税メガネ」と表現したことを首相に直接謝罪したばかりです。

首相の容姿を揶揄するような発信として謝罪した音喜多議員も予算委員として出席するなかで行われた山本太郎議員のこの質疑は、NHKを通じて全国にも放送され、この一連の動きについて、産経新聞共同通信も報じました。

ダブルスタンダードはいかがなものか

筆者自身もメガネをかけていますが、多くの場合、メガネは当事者にとって近視や乱視、遠視などの視力を矯正するための器具であり、必ずしもかけたくてかけているわけではない人も一定います。視力の低下をもって単に「障がい」と定義づけたいわけではありませんが、容姿や障がいを揶揄する発言を、あくまで引用の形式とはいえ、国会の質問の場で冒頭から直接当事者に「誰のことかご存じですか。」と聞くことが、当事者への配慮を感じないのは明らかです。

2022年に、れいわ新選組で当選した水道橋博士がうつ病により休職することを発表したとき、山本代表は「多大なプレッシャーを抱えながら、毎日この永田町という所に足を運んでたんだと思うと胸が痛い」と述べました。水道橋博士に起きるかもしれない誹謗中傷についても、「心ない報道やSNSでの誹謗中傷が発生することは容易に想像がつきます。」「ドクターストップがかかっているうつ病の人間に対して、心ない報道や誹謗中傷は、人の命を奪う可能性のある攻撃になりえます。」と述べた上で、「報道はもちろん、SNSの書き込みに対しても目に余る状況に至ることがないか、常時チェックを行い、行きすぎた書込みに関しては、まず専門家に依頼して情報開示を求め、行き過ぎた報道に関しても、毅然とした対応を行うことを考えております。」と警告をし、さらに「このことをひとつのきっかけにして、つらい時につらいと言える社会、お互いの弱みを見せ合い支え合える社会、そして休みやすい社会になったらいいと思っています。そしてそのような社会を作っていけるよう私たちが尽力します。」(以上、太字は筆者)との代表コメントを発表しました。

議員と総理という立場は違えど、総理も議員の一人であることも踏まえれば、「増税クソメガネ」という誹謗中傷の言葉を国会質問の冒頭で当事者に直接投げかけることは、首相という多大なプレッシャーを抱える人への配慮がある行為とはかけ離れています。

自らの党に所属していた議員に対する声がけと、他党の政治家に対する声がけがこうも違ったりすることや、障がい当事者というマイノリティを参院選に担ぐ一方で容姿を揶揄する発言を国会の審議の場で当事者に投げつけたりすることは、批判を免れないでしょう。

さらに過去を振り返れば、2012年9月26日には、潰瘍性大腸炎という難病を抱えていた安倍晋三元首相に対し、「またポンポン痛なるちがうやろな」とSNS投稿(後に削除)したことからも、「ダブルスタンダード」の指摘が起きるのは当然だといえます。

「参議院は良識の府」と呼ばれますが、今回の発言は「良識の府」という次元以前の問題との指摘もあり、今後この発言を含め、「メガネ」の揶揄問題は尾を引きそうです。れいわ新選組は、過去に弱者に寄り添う姿勢が共感を生み、参議院議員選挙で躍進した経緯もありますから、今一度国会での発言を見直すべきと考えます。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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