<ガンバ大阪・定期便64>「ガンバを示せた」FC東京戦。3連勝を支えた、選手全員での食事会。
「2連勝の流れを継続できるのか、ここでまた立ち止まってしまうのか。FC東京戦は今シーズンで一番大事と言っても過言ではない試合になると思っています。とにかく終わってしまった試合は取り戻せないので、過去は反省して、忘れて、目の前の試合に、とにかくフレッシュに、死ぬ気でフレッシュに…やります! フレッシュに!」
直近の天皇杯2回戦でまさかの敗戦を喫した翌日、福岡将太は重い空気を振り払うように声を張った。取材をしている最中、近くを通り過ぎていく半田陸や山見大登、中村仁郎らにも「どうだ?」「やるぞ!」とハッパをかける。試合に出ている、出ていないに関係なく、仲間を誰一人として置き去りにせず、逆境に全員で立ち向かう。そんな福岡の胸の内が透けて見えた。
「何が何でも勝って、ガンバを示さなければいけない」
福岡が口にした決意も、おそらくチーム全員に伝播していたのだろう。事実、天皇杯から中3日で迎えたJ1リーグ17節・東京戦はスタートからその思いが伝わる試合になった。
■攻守にインテンシティの高さを示した、理想的な前半。
「試合開始からボールを奪いに行って、ボールを動かして相手に快適にプレーさせないようにしたい。自分たちから攻守に仕掛けるプレーを、ボールを奪い切るプレーをしたい(ポヤトス監督)」
立ち上がりの約10分間こそ、無理して繋がず、前線に大きく蹴り出すなどシンプルな入りになったが、以降は指揮官の狙い通り、前線からのアグレッシブなプレッシングでボールを奪い、ゴールに近づく。
その軸になったのはFWイッサム・ジェバリだ。ここ最近は痛めていた右足が快方に向かい「プレーする怖さがなくなった」からだろう。ポストプレーヤーとしての存在感を際立たせていたが、この日はそれに加え、自ら積極的に仕掛けるシーンも。ファン・アラーノや倉田秋、山本悠樹らとの関係性の中でサイドに流れて起点となったり、ゴールチャンスを演出したりとフル稼働。25分に奪った先制点は山本の右コーナーキックをフォアサイドの佐藤瑶大が頭で落とし、ジェバリが押し込む、というセットプレーからこじ開けたが、流れの中からの得点の匂いもプンプン漂わせた。
「ホームでの初ゴールだったので非常に嬉しいです。来日して、合流してから不運なケガが続いてきましたが今は100%と言える状態にある。治療にかかわってくれたメディカルスタッフには感謝の気持ちを伝えたいと思います。そのおかげで、ゲームでもいわゆるポストプレーだけではなく、自分のところに収めたり、起点となったり、1対1で仕掛けるなど、自分の持っている能力が表に出るようになってきたんだと思います(ジェバリ)」
余談だが、先制点が決まった瞬間、ゴール前で輪を作ったコーチングスタッフの真ん中でポヤトス監督が、スタンドから試合を分析していたコーチングスタッフを指差し、笑顔を見せていたのも印象的。視線の先にはセットプレーの攻撃を担当している高木和道コーチと、上村捷太コーチがガッツポーズで両手を挙げて応える姿があった。
チームをより勢いづけたのは29分に奪った追加点だ。スローインを受けたダワンがやや距離のあるところから速い弾道の縦へのクロスボールを送り込むと、ジェバリが頭で合わせ2点目を奪う。
「ダワンからのクロスボールが素晴らしかった。日々、色々と練習していることが形になった。今はパスサッカーだけではなく、ダイレクトにプレーすることもできている。プラス、自分のところにボールが入るようになってきたのもポジティブに捉えています(ジェバリ)」
特筆すべきは試合の流れを終始、コントロールするに至った攻守の切り替えの速さだろう。前線からのプレッシングから果敢にゴールに向かう上では時にボールを失うこともあったが、その際は個々がしっかりと運動量、インテンシティを発揮して守備に切り替え、相手の攻撃を自由にさせない。
「(互いの距離感が)オーガナイズができていれば、攻撃しているときにボールを失っても、しっかりと守備の準備ができる。特に守備では先読みして動くことが非常に大事ですが、そのプレーを読む速さはすごく良くなってきている部分だと感じています(ポヤトス監督)」
さらに最後尾ではGK東口順昭がどっしり構え、かつリーグ戦ではここ4試合、継続してセンターバックでコンビを組む福岡、佐藤瑶大がチャレンジ&カバーを徹底しながら、切らさずに口を開き続けてチームを引き締め、チームを盛り立てた。
「試合前からディエゴ・オリヴェイラ選手に仕事をさせないことは意識していました。彼に仕事をさせてしまうと、東京の選手が後ろからどんどん湧き出てきてしまうので今日は彼をいかに潰せるかに懸かっていると思っていました。その中で前半の入りは良かったですけど、オリヴェイラ選手を潰し切れたかと言えば、そうじゃなかったし、後半の入りは特に(チームとして)フワッとしちゃった部分があったので、それをもっとセンターバックが感じ取って締める作業はしていかないといけないと感じました。僕は決して巧い選手ではないからこそ、試合の『雰囲気』づくりはしっかりやろうと思っている部分。球際やデュエルのところで自分のプレーをしっかり体現して、チームに勢いを持たせることさえできたら、あとは前線のクオリティの高い選手が決めてくれるので。その『雰囲気』のところはチームに自分の力を還元できているのかなと思っています(佐藤)」
欲を言えばパーフェクトに近い戦いを展開した前半だったからこそ「試合を決められるくらい点を取りたかった」と倉田。実際、半田、山本、半田と右サイドで崩し、倉田がシュートを放った8分のシーンや、ペナルティアーク付近でためを作ったファン・アラーノが絶妙のスルーパスを山本に送り込んだ15分のシーン。さらに言えばカウンターからドリブルで運んだジェバリが右から攻め上がったアラーノに繋いだ24分のシーン。左サイドでのオーバーラップから黒川圭介が送り込んだクロスボールをジェバリが頭で合わせた42分のシーンなど、ゴールシーン以外にも相手ゴールを脅かす攻撃を数多く作り出しただけに、だ。
「ガンバらしい形でいい形で崩せるシーンも多かったし、チームとしての流れも出来つつある。欲を言えば、前半あれだけ決定機があって2点は少なかった。(前半で)試合を決めてしまえるくらい点を取りたかったです(倉田)」
それでも、内容的な充実を見せながら2点のリードを奪って前半を折り返せた展開は、ゲームのイニシアチブを握るだけではなく、後半の戦いに勇気と自信を与えるものになった。
■貴重な3点目をもたらした半田のスプリント。2度のガンバクラップ。
2-0で迎えた後半。立ち上がりこそ、アダイウトンを投入し攻撃のギアを上げてきた東京にやや押し込まれる時間が続いたものの、ネタ・ラヴィの圧巻のボール奪取力、キープ力にも助けられ完全には流れを渡さない。
そうした中で、60分に勝利を大きく引き寄せる3点目を決めたのは半田だ。ラヴィから右の広大なスペースに展開されたボールに反応すると、全速力でスプリント。並走してきた相手DFより先にボールに追いつき、そのままの勢いで前へ仕掛けると、同じく後ろから走ってきたファン・アラーノにボールを預け、そのアラーノと入れ替わる形で一気にゴール前へ。結果的に、アラーノはゴール前中央に走り込んだ山本へのパスを選択。そこはうまく合わなかったものの、こぼれ球に反応した半田が左足を振り抜いた。
「ボールが出た瞬間から、(走っていて)触れそうだなって感じはあったので、先に触れたことが3点目の全てだったのかなと思います。最初にボールを触ったあと、自分でそのまま運ぼうかなと思っていたらアラーノが来ていたのでパスを出し、あとはもうゴールに向かって…って感じでした。本当はもう一回アラーノから自分がもらうイメージで走っていたんですけど、悠樹くんの方にボールがいって、でも走り切れたことで、あそこで取れました。いい時間帯に決めることができて良かった。ホームで獲れたことも、J1初ゴールをガンバ大阪というクラブで獲れたことも、本当にすごく嬉しいです(半田)」
ちなみに、ホームサポーターの目の前のゴールにシュートが突き刺さった瞬間はゴール裏から大きな歓声が上がり、スタンドが揺れるほどの歓喜に包まれたが、ボールを追いかけ始めたところから考えれば100メートル近い驚異の全力疾走に、テンションはマックスの状態だったのだろう。その瞬間について尋ねると「正直、あまりちゃんと覚えていないんですけど…」とした上で「すごく大きな声援を…いただいて…」といつものように丁寧に話し始めたものの、すぐに言葉を詰まらせる。どうやら本当に記憶が飛んでしまっていたようだが「ガンバクラップは楽しかった」と表情を崩した。
その後も、途中からピッチに立った石毛秀樹や福田湧矢らがしっかりと試合の流れを感じ取りながら、チームにいい勢いを与えて時計の針を進めていく。試合終盤には相手選手との接触により左肩を痛めた佐藤が途中交代になるアクシデントも。
「手をついたときに、亜脱臼みたいな感じになりました。明日チェックになりますけど、そこまで大事に至るケガじゃなさそうな気がします。しっかり自分でできることをやって全力で治します(佐藤)」
さらに、相手選手の負傷や選手交代なども重なって試合が止まり、やや集中が切れたアディショナルタイムに失点を喫してしまったが、3-1で試合を締めくくり、今シーズン初の3連勝を達成。試合後にはホームゴール裏サポーターと共に、約2ヶ月ぶりのホーム戦での勝利の喜びをガンバクラップで分かち合った。初めてガンバクラップの音頭を取ったジェバリの先導が早すぎてやり直しになったため、パナスタ史上初の『1試合に2度』のクラップで。
「最高の瞬間でした。僕がサッカーをしているのはファンのため。ファンの皆さんが喜んでくれて、喜びを分かち合えたのは最高でした(ジェバリ)」
■約4年ぶりの選手全員での決起会。選手同士の結束を強めた夜。
J1リーグ戦では7戦勝ちなしという長く、暗いトンネルを抜けた先の『3連勝』の裏で何が起きたのか。誤解を恐れずにいうならば、特別なことは何も起きていなかった、というのが正解だろう。
今シーズン、ポヤトス監督が就任した中で模索し続けてきた新たなサッカーを、勝っても負けても変わらずに積み上げることを求め、かつ、その中でそれぞれがチームに必要な変化を勇気を持ってピッチで実行してきたこと。当たり前のことながら、どんな状況に置かれてもスタッフ、選手がそれぞれの責任のもとで現状に向き合い、勝てない現実に感じていた『怖さ』から逃げなかったこと。単純にシーズンを進めることでコンディションが高まってきたこと。互いのプレーに対する理解が深まってきたこと。さらに言えば、選手のほとんどが『ポヤトス・ガンバ』で新しいポジションに取り組んできた中で、単純にそのポジションへの経験値が増え、ピッチで起きる事象に対してスムーズに体が反応できることになってきたことーー。つまり簡単に言えば「考えなくても、体が勝手に動くようになってきた(倉田)」ことが全てだ。
そしてもう1つ。チームの流れを変える潮目になったと感じているのが、8試合ぶりの白星を掴んだ新潟戦の翌日に、選手だけで行った食事会だ。20年以降、コロナ禍が長く続いたため、長らく大人数で食事をする機会を設けられていなかったが、今年に入り、さまざまな規制が緩和されたことを受け、約4年ぶりに選手全員で食事会を開催。キャプテン・宇佐美貴史によれば「1ヶ月くらい前から貸し切るお店を含めて予定が決まっていた」とのことだったが、「全くサッカーの話はしていない(倉田)」「ただ、ただ楽しく、ひたすら盛り上がっただけ(宇佐美)」の時間が、互いを知る上で、あるいはベテランと若手、外国籍選手と日本人選手の結束をさらに強めることにつながったのは間違いない。
「ああこんなことを考えていたんやとか、普段はこんな奴なんや、って知れただけでも大収穫。やっぱりこういう時間って大事なんやなって改めて思いました。外国籍選手もめちゃ楽しそうにしていたし、ここでは言えないみんなの意外な素顔も見れて(笑)、いい時間になった(宇佐美)」
「選手の間にあった見えない壁がちょっとなくなったというか。翌日がオフだったという解放感もあって、みんなが自分の素というか、色を出せる雰囲気が作れたのはよかった(倉田)」
「チームみんなで楽しくご飯を食べて、普段なかなか食事に出掛けたりすることもないメンバーともいろんな話をできたことで、チームの一体感は出たのかなって思います。以前からピッチやクラブハウスでも話していたけど、そういうところとプライベートな雰囲気はやっぱり違う。特に若い選手が年上の選手に感じていたはずの壁のようなものも少し取り除けた気がします(三浦)」
もっとも順位表を見ての通り、前半戦を終えた順位は15位と決して満足のいくものではない。下位チームとの勝ち点差を見ても後半戦は、いかにチームを進化させながら結果を求められるかを含め、真価を問われることだろう。次節、6月24日の18節・鹿島アントラーズ戦は、イッサム・ジェバリが出場停止だが、先の戦いを想像しても選手層の充実は不可欠で、新たな戦力の台頭もまだまだ期待したいところだ。
ただ、この3試合、苦しみながら、時にスタイルから大きく遠ざかりながらも「ガンバを示せた」自信は、確実に『ポヤトス・ガンバ』という種を芽吹かせたと受け止めている。この先、豊かに枝葉を伸ばし、花をつけていくための、新芽を。